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第27話:嘘を退ける薄紫の誓いと、プロポーズ

耳元での怒涛の全肯定の囁き攻撃により、私の心臓が瀕死の悲鳴を上げ続ける中、ようやく美術館の鑑賞が終了した。


命からがら馬車へと乗り込み、「これでやっと帰れる、生き延びた……!」と心の中で激しくガッツポーズを決めた、まさにその時だった。


「……まだ、帰りたくないな」


アズパープルが、窓の外を見つめながらぽつりと、掠れた声で呟いた。


(ちょっと待ってアズパープル様、不意打ちでそういう心臓に悪いセリフを言うのは本当にやめてもらっていいですかーーーっ!?)


私は真っ赤になった顔を見られたくなくて、ドレスの裾をぎゅっと握りしめて全力で俯いた。


そんな私の拒絶パニックに気づいているのかいないのか、彼は不敵に微笑みながら「もう少し、付き合ってほしい」と御者に指示を出した。


そうして馬車が次に向かったのは、色とりどりの珍しい花々が咲き乱れる、幻想的なガラス張りの王立植物園だった。


温室の奥、甘い花の香りに包まれた静かなベンチに腰掛ける。


……が、その距離感はやっぱりおかしかった。何故かアズパープルの大きな右手は私の腰をしっかりと抱き寄せ、左手は私の手を指を絡めるようにして強く掴み、頑なに離そうとしないのだ。ドレス越しに伝わる彼の熱に、私は息の仕方を忘れそうになる。


「……私は今まで、誰かにこのような狂おしい感情を抱いたことはなかった」


アズパープルは、植物園の天井を見上げながら、静かに、しかし熱を孕んだ声で話し始めた。


「君がこの学園に現れてからというもの、私の心は……四六時中、君のことでいっぱいだった。グレイスタード殿下からのあまりにも身勝手なアプローチに対し、君は立場を弁え、失礼に当たらないよう必死に嫌な顔を隠して笑顔で応対していたね」


(いや! 隠しきれてなくて、ブルーコーラル殿下に木の上から毎日笑われてたんですけど!?)


「さらに、デール様から理不尽な嫌がらせや罵倒を浴びせられても、君は決して折れず、涙一つ見せずに耐え忍んでいた。……君は何も悪くないというのに。私が殿下の側近という立場でなければ、すぐにでも仕事を捨てて、君を助けに行きたかった……っ」


アズパープルは切なげに紫の瞳を歪めると、私の返事を待たずに顔を近づけ――チュッ、と私の頬に、優しくキスを落とした。


「え……っ!?」


あまりの出来事に脳内回路が消し飛んで固まる私に、彼はなおも、堰を切ったように情熱的な言葉を重ねてくる。


「普通、自分をいじめてきた相手を『助けたい』などと、一体誰が考えるだろうか。君はデール様の名誉のために学園中を泥臭く奔走し、あろうことか、あの噂の出所まで、デール様が傷つかないようにと優しさで伏せたのだ。……なんという心の深さなのだろう。君が学園で『聖女』と噂されるのも、当然のことだ」


(違うんですアズパープル様! 私はただの限界オタクで、推しのデール様が傷つくバッドエンドを物理的にへし折りたかっただけなんですぅぅぅーーーっ!!)


私の悲痛な脳内ツッコミなど、彼には届かない。そんなアズパープルの瞳の奥に、ギラリとした強烈な「嫉妬」と「独占欲」の炎が燃え上がる。


「私は……いつの間にか、デール様を羨ましいと思ってしまっていた。君がいつも、デール様へ向けるあの『心からの恍惚とした、愛おしそうな表情』が、妬ましくて仕方がなかった。……私にも、同じ表情を向けてほしい。私のためだけに、その美しい笑みを浮かべてほしいと、夜も眠れぬほどに何度も、何度も願った……!」


アズパープルは私の両肩を掴むと、そのまま抗えない力で、自身の胸元へと強く、強く抱きしめてきた。


「私はあなたを、心から愛している。……もし、あなたが私のそばにいてくれるのなら、私はこの生涯の全てをあなたに捧げるだろう。どうか……私のこの執着に、想いに、応えてほしい」


耳元で、彼の激しい心臓の鼓動を聞きながら、私は完全にフリーズしていた。


頭の中は真っ白、心臓はバックバクで破裂寸前。パニックの海に溺れながら、私は最後の彼の言葉を脳内でリピートさせていた。


(……待って。え、ちょっと待って? 『生涯の全てを捧げる』って……今、サラッと、超ストレートなガチのプロポーズが入ってなかったかしらーーーっ!!!?)


グリーンタールの情熱的なハグに続き、今度はアズパープルからの生涯を誓う求婚。


私は薄紫色の世界の中で、もはや呼吸の仕方も思い出せないまま、ただ彼の腕の中で借りてきた猫のようにカチコチに固まることしかできなかったのだった――。


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