第23話:独占欲と、『断ることは許さない』、四色(よんしょく)の招待状
学園に一時の平穏が戻る中、あの事件の裏でシーリンのために命がけで動いた四人の完璧な男たちの胸の内では、一人の栗色の少女を巡る、狂おしいほどの愛と猛烈な嫉妬の炎が静かに燃え上がっていた。
◇
はぁ、と溜息を吐くグリーンタール。
あの日、裏庭の奥で私に「デール様は最高のご褒美をくれただけですわ!」と必死に訴えた、あの栗色の令嬢。
彼女は、自分が殿下やダクワールからどれほど酷いことをされようとしていたかを知ってもなお、己の恐怖など二の次で、あんなにも必死にデールを守ろうと泥臭く奔走し続けた。……なんと、なんと慈しみ深い令嬢なのだろう。
私は、自分以外の誰かに対して、あれほど無私になれるだろうか。……いや、私にだってできる。もし相手がシーリン嬢ならば、私はこの命を投げ打ってでも彼女を守りたい……いや、もっと、もっと私のこの手で守り抜きたいのだ……!
それなのに、今日もブルーコーラル殿下は、私の目の前で当たり前のようにシーリン嬢の手を引き、彼女を隣へと奪い去っていく。……私はなぜ、王族に生まれなかったのか。私だって彼女の隣に立ち、彼女を守りたいのに……。ブルーコーラル殿下が彼女に優しく触れるたび、私の胸は強烈な嫉妬によって、今にも押しつぶされそうになる。
◇
アズパープルは切なそうな表情をしながら外を眺めていた。その視線の先にはシーリンがいた。
彼女はいつも、自分を完全に投げ打ってでも、デール様が傷つかないための最善の方法を探し出してみせる。自らの身に迫る危険など一切顧みず、ただ一途に誰かのために尽くし、世界を変えてみせるのだ。
どうやったら、彼女のようになれるのだろうか。私も、彼女が誰かを守ったその強さと同じように、彼女をこの手で守りたい。
だが、私は王子の側近という立場がある。グリーンタールや他国の王子に比べ、圧倒的に彼女と同じ空間にいられる時間が少ないのだ。その焦燥感や、もどかしさを感じるというのに、最近はあの第二王子、ブラックスタード殿下までもが彼女を不敵な目で見つめている。……もどかしい。今すぐにでも彼女のすべてをこの手の中に手に入れたい。
最近は、ブルーコーラル殿下が彼女に対して露骨なほど熱烈なアピールを繰り返しているようだ。それが私にとっては、本当に、狂いそうなほど腹立たしくて仕方がない。……私だって、今すぐにでもこの手であなたに触れたいというのに。
◇
私は彼女のことをずっと見つめてきた。
今もほら、そこに他のご令嬢たちと笑っているシーリンがいる。
ブラックスタードは「ああ、なんて美しいのだ…」と思わず呟いた。
ダクワールの仕掛けた残虐な計画や、国家規模の陰謀、あらゆる危険を恐れることなく、真っ直ぐに立ち向かっていくあの小さな背中。気高く、誰かへの愛に満ち溢れたその美しい気持ちを、私だけに向けて欲しい――そう願うようになってしまったのは、一体いつからだっただろうか。
気づけば私は、彼女から完全に目が離せなくなってしまっていた。学園生活の中、彼女を見かけるたびに、私の漆黒の瞳は無意識に彼女の姿だけを追いかけてしまう。「こちらを向け」「私だけを見ろ」と、心の中で何度激しく願ったか分からない。
一度だけ、廊下で私の視線に気づいた彼女が、ふっと振り返って目が合ったことがあった。彼女は戸惑いながらも、私に向かって、世界で一番眩しい笑顔を向けてくれたのだ。……私は、これからもずっと彼女の隣にいて、あの愛らしい笑顔を私だけのものとして見つめていたい。公爵家の嫡男にも、伯爵家の嫡男にも、そして隣国の王子になど、あの小鳥を渡すつもりは毛頭ない。
◇
今日も裏庭の大木の枝で学園を眺めているブルーコーラル。
学園の裏庭で彼女の「変顔」に出会ったあの日から、私の心は完全にシーリン、君に奪われていた。
私はずっと、グリーンタールやアズパープルが彼女に抱く特別な気持ちには気づいていたし、彼らをどう牽制するかだけを考えていた。……だが、まさか我が国の隠密の頂点にいるあのブラックスタード殿下までが、彼女にそれほど深い想いを寄せていたとは想定外だったよ。
一国を動かせる私と同じ立場(第二王子)の人間に、あんなにも真っ直ぐに求愛されてしまったら……彼女は、大好きなデール嬢がいるこのファンナステッド王国に、そのまま留ろうとしてしまうのではないか……?
ああ、もう駄目だ。彼女を失うかもしれないという恐怖と激しい嫉妬で、頭がおかしくなりそうだ。私はどうしても彼女を手に入れたい。もっと、もっと私のこの腕で彼女に触れたい……。一人の令嬢を、ここまで狂おしいほどに愛してしまうなんてね。……ああ、シーリン、心から君を愛しているよ。
◇
――もう、これ以上待ってなどいられない。これ以上、他の男どもに一瞬の隙も見せたくはない。
爆発寸前の独占欲に突き動かされた男たち四人は、ついに、一人の栗色の令嬢に向けて同時に、最も強硬な手段を突きつける行動へと出た。
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学園の放課後。寮の部屋に戻った私の机の上には、まるで示し合わせたかのように、美しく高級な四通の手紙が並べられていた。
新緑、薄紫、漆黒、そしてマリンブルー(ブルーコーラル様)。
「な、何よこれ……!? 私宛てに、あの四人から四色の手紙が届いてるんだけどぉぉぉーーーっ!?」
あまりの不穏な光景に、震える手でその手紙の封を切った。そこに書かれていたメッセージは、驚くほど全員が同じ言葉で締めくくられていた。
『――君をエスコートさせてほしい。断ることは絶対に許さない』
(ひ、ひぇぇぇーーーっ!! 『断ることは許さない』って何よ、全員強制参加のデスゲームのお誘いじゃないのよぉぉぉーーーっ!!)
男たちの「これっぽっちも引き下がる気のないガチの独占欲」と「四色の招待状」という名の強引なデートの誘いを前に、私は顔を真っ青にさせながら、今度こそ心臓のライフを限界までゴリゴリと削られる、恐怖のデートへ向けて絶叫するしかないのであった。




