第22話:白銀のハッピーエンドと新たなる強敵
あの衝撃の断罪乗っ取りイベントから一ヶ月。
学園は驚くほど平和な、しかし私にとっては別の意味で過酷な新学園生活へと突入していた。
大騒動の直後、実質公爵のスパイボスであるお父様から届いた手紙は、相変わらずトマトの収穫報告を装ったガチの暗号だった。
『よくやった我が娘。今度、改めて国王陛下に直々に褒美を賜るための特別謁見式を執り行なわれる。公爵令嬢として恥じぬよう最高級の正装を用意せよ。なお、陛下は我が家の国家防衛の成果を大変お気に召されている』
「お父様、だから普通の顔して国王陛下と裏でどんなディープな取引してるのよぉぉぉーーーっ!! 謁見式とか、ただの伯爵令嬢のキャパを完全に超えてるから!!」
自室で頭を抱えて叫んだのも良い思い出である。
一方、正気に戻った第一王子グレイスタードはというと。
「う、嘘だ、デール……! 今日の分の帝王学の課題はもう終わったはず――」
「何を甘いことをおっしゃっているのですか、グレイスタード様。あのような恥知らずな洗脳に引っかかったのです。これくらいこなせなくて、どうして次期国王が務まりまして?」
学園のサロンでは、毎日泣きながらデールにスパルタ教育を施され、完全に尻に敷かれている王子の微笑ましい(?)姿があった。
デールはツンと美しい顎を跳ね上げ、容赦なく分厚い参考書を王子の前に積み上げている。その横顔は相変わらず神々しく、王子も涙目になりながら「はい、頑張るよデール……!」と必死にペンを動かしていた。
(ああ、デール様が王子を完璧に調教していらっしゃる……。なんて素晴らしいハッピーエンドルートかしら。生きているって素晴らしい……!)
◇
そんな大騒動がやっと落ち着いた、ある放課後のこと。
私はいつもの裏庭の奥の『作戦基地』で、大樹の根元に座ってホッと一息ついていた。
「ふぅ、これで本当にデール様は救われたわね……」
そう満足感に浸っていた、次の瞬間だった。
「――やれやれ、自分の仕事は終わったとでも言いたげな、おめでたい顔だね、シーリン」
ザワリ、と木の葉が擦れる音と共に、大樹の影から漆黒の髪を揺らした第二王子ブラックスタードが現れた。
驚いて飛び跳ねた私の前に、さらに左右の茂みから、新緑の髪のグリーンタールと、紫の髪のアズパープル、そしていつもの木の上から青い髪のブルーコーラルがパサリと降り立ってきた。
「な、何ですか皆様、揃いも揃って……!?もうお守り隊は解散でしょう?」
後ずさりする私を囲むように、男四人が静かに包囲網を狭めてくる。その瞳には、一ヶ月前よりもさらに濃厚で、容赦のない熱い光が灯っていた。
正面に立ったグリーンタールが、真剣な緑の瞳で私を見据える。
「シーリン嬢。……デールの問題は全て解決した。彼女はもう安全だ」
「ええ、そうですわね! 皆様のおかげです!」
「ならば、次は君が、私たちに対して覚悟を決めてもらう番だろう?」
アズパープルが低く硬質な声で私の逃げ道を塞ぐ。
男たちのあまりのド直球な「求愛包囲網」の再開に、私の心臓はまたしてもバクバクと暴れ始めた。
すると、これまで一度も私に愛を伝えたことがなく、そんな素振りすら見せたことがなかった黒髪黒目の切れ者、ブラックスタードが、一歩前に出て私の手を取った。
「兄上の洗脳を解いたあの鮮やかな魔術、そして我が父の影として立ち回るその気高さ。……シーリン、私は以前から、君という底の知れない女性を、私の妃として迎えたいと本気で考えている。私の愛を受け入れろ」
「……へっ!? ブ、ブラックスタード殿下までーーーっ!!?それに、影って知ったのなんて、つい最近なんですけどーっ?!」
まさかの第四の男の参戦に、私の脳内キャパシティは完全に破裂した。シーリン、あんたゲームの隠し攻略対象者までいつの間にフラグ立ててたのよ!
このブラックスタードという、自分と同じ「第二王子」という立場からの突然のガチ告白を見た瞬間、隣にいたブルーコーラルの青い瞳が一気に焦りに染まった。
「――待ってくれ、ブラックスタード殿下。私の目の前で、私のパートナーに無礼な求愛をするのは勘弁してもらおうか。……シーリン、君の隣にいるのは私だよ」
ブルーコーラルは凄まじい焦りを見せながら、ブラックスタードの手を強引に引き剥がし、私を自分の胸元へと強く抱き寄せた。以前よりもずっと、肌が触れ合うほどの至近距離で、私の腰をがっしりとホールドして離そうとしない。
「シーリン、私の国へ来ると約束してくれたよね? 私は君を絶対に誰にも渡さないから……」
(いやいや、約束なんてしてませんから)
耳元で必死に愛を囁いてくるブルーコーラルに、正面から「私が守ると言っただろう」と睨んでくるグリーンタール、背後から「私の全てを賭けると誓いました」と囁くアズパープル、そして冷酷に微笑むブラックスタード。
国宝級イケメン四人からの、逃げ場のない超絶怒濤のアプローチラッシュ。
「もう無理! 勘弁して! 私の心臓が持たないわよぉぉぉーーーっ!!」
私は顔をこれ以上ないほど真っ赤に染め上げ、悲鳴を上げながら、裏庭の奥でオオカミたちから必死に逃げ惑うことしかできなかった。




