第21話:偽りの断罪劇と、オタクの大逆転
学園の解放日の社交パーティー。
全生徒と名だたる貴族たちが集まる華やかな大社交パーティーの中、壇上に立ったグレイスタードは、ダクワールの洗脳に抗いきれず、虚ろなグレーの瞳をデールへと向けた。
「――デール・ホワイト! 貴女との婚約を本日をもって破棄する! 貴女がシーリン嬢に行ってきた数々の悪逆非道な罪の証拠は、すでにここにある! これにより、ホワイト家の爵位を取り消し、他国へ追放処分とする!!」
王子の非情な宣言が会場に響き渡り、周囲の貴族たちがガタガタとどよめき始める。
その瞬間、私はデールの一歩前に出ながら、脳内で激しい怒りの炎を爆発させていた。
(ああ、これよ。ゲームの画面で何度も見た、デール様を絶望のどん底に叩き落としたあの最悪の光景。……いくらダクワールに洗脳されてたからって、やっぱりこのクソ王子め! 全然許せないわよ!!ていうか、まだ洗脳が完全に解けてないの?もう腹立たしい!!)
「――お待ちください!!」
私は凛とした声を響かせ、真っ直ぐに手を挙げた。
それが、私たちの反撃の合図だった。
バァン!!! と会場の全ての出入り口の扉が同時にへし折れるような勢いで開け放たれる。
「な、何事だ!?」
うろたえる王子の目の前で、大社交パーティーに雪崩れ込んできたのは、アズパープルが秘密裏に手配していた鉄甲の近衛騎士団。さらにそれだけではない。窓や天井の影から音もなく着地したのは、我が実家――ブラウン家が誇る、お父様直属の最強の隠密暗殺部隊だった。
「ひゃいっ!?」
悲鳴を上げたダクワール子爵と、その陰謀に加担していた悪徳貴族たちは、逃げる間もなく一瞬にして騎士たちに床へ組み伏せられ、完全に取り押さえられた。
「な、何の真似だシーリン! 私は君を守るために……!」
困惑して叫ぶ王子を完全に無視し、私は懐から分厚い書類の束を取り出し、捕らえられたダクワールの前に叩きつけた。
「ダクワール子爵。あなたが黒魔女を雇い、数年前からグレイスタード殿下を少しずつ洗脳していた『国家反逆罪』の動かぬ証拠は、すべてここに上がっていますわ!」
「な、何を馬鹿なことを……! しがないブラウン家ごときが、何故そんな……っ」
泥水をすするような顔で言い訳しようとするダクワールに、私は冷酷な笑みを向け、一歩近づいて耳元で囁いた。
「ブラウン家がしがない貴族? ――本当に哀れで無知な方。我がブラウン家は、国王陛下直属の『潜入調査員』のボス。表向きは伯爵ですが、実際はあなたなど足元にも及ばない【公爵格】の家系ですわ。隣国のブルーコーラル殿下の情報網により、あなたの裏の密輸ルートも黒魔術の証拠も、全て我が家が完全掌握いたしました」
「こ、公爵……!? 国王の影……っ!? ば、馬鹿な、そんな……あああ……っ!!」
ダクワールは、自分が数年かけて仕組んだ復讐劇が、実は最初から国の最強のスパイ組織と、隣国の王子、そして目の前の栗色の少女に完全に包囲されていたという絶望的な真実を知り、恐怖と屈辱で白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
その瞬間、グレイスタードの洗脳も嘘のように全てが解けた。
「……私は……デール、私は一体……うわあああああ!!」
霞が取れ正気を取り戻し、己のしでかした大罪のすべてを思い出した第一王子は、その場に崩れ落ち、デールの美しい靴に額を擦り付けるようにして、涙を流してガタガタと土下座で謝罪し始めたその時だった。
会場の奥から威厳に満ちた声が響き渡った。
「――そこまでだ」
「こ、国王陛下……!?」
会場にいた全員が、一斉にその場に平伏する。姿を現したのは、この国の最高権力者である国王陛下その人だった。
お父様が裏で手を回し、陛下をこのタイミングで会場へと案内していたのだ。
国王陛下は壇上に上がると、鋭い眼光で崩れ落ちるダクワールを見下ろし、それから私たちに向かって深く頷いた。
「シーリン嬢、そしてお守り隊の者たちよ。よくやってくれた。……今、我が愚息が行った宣言は、全て無効だ。デール嬢は何もしていない。ホワイト家は公爵のままだ」
陛下の力強い言葉に、会場からは割れんばかりの安堵の声が漏れる。デールの無実が、国一の最高権力者によって完全に証明されたのだ。
国王陛下は、ガタガタと震えて涙を流している第一王子を一瞥すると、静かにデールに向き直った。
「ところで、デール嬢。そなたはこの愚息をどうする? 洗脳されていたとはいえ、そなたには随分と辛い思いをさせたはずだ。このまま婚約破棄にしても、私は一向にかまわぬのだぞ?」
会場の誰もが、デールの言葉を息を呑んで待った。
正気に戻った王子は、デールの美しい靴に額を擦り付けるようにして、涙ながらに土下座で謝罪している。
そんな中、デールは一歩前に出ると、どこまでも凛とした背筋を伸ばし、毅然とした態度で国王陛下を見据えた。
「――お言葉ですが、国王陛下。私は、これからもグレイスタード殿下を支えていきたいと思います」
「デール……っ」
王子が涙に濡れた顔を上げる。デールはツンと美しい顎を跳ね上げ、不器用ながらも確固たる決意の宿った白銀の瞳で宣言した。
「洗脳されていたとはいえ、今回の醜態は次期国王として万死に値します。ですからこれからは、私が今まで以上に厳しく殿下を教育し、二度とこのような愚行を犯さぬよう、隣でしっかりと支え、立て直して見せますわ」
これぞ、私の愛した気高き悪役令嬢。
自分のプライドよりも、傷ついた婚約者を自らの手で引っ張り上げることを選んだデールの神々しいお姿に、私の胸は激しく打たれ、涙を流しながら溢れんばかりの満面の笑顔を浮かべていた。
(勝った……! ダクワールの陰謀を暴き、クズ王子の洗脳も解いた! ホワイト家も取り潰されないし、国外追放フラグも木っ端微塵に粉砕してやったわ!)
最愛の最推し、デール・ホワイト公爵令嬢が涙を流して破滅する未来は、いま、私の手によって跡形もなく消え去ったのだ。
(これにてデール様のハッピーエンド&幸せルート、完全達成ですわーーーっ!!!)
私は心の中で勝利のオタ芸を踊り狂い、このまま命を落としたとしても満足したと思えるくらい至上の幸福感に包まれていた。……しかし、しおりはまだ知らなかった。デールを救うという大目的を果たした今、ここから「自分を巡る男たちの本気の求愛」という、本当の地獄のような日々が始まろうとしていることに――。




