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第20話:暗号の手紙と、崩壊へのカウントダウン

香炉の呪いを解いた翌朝、私の元に実家のブラウン家から一通の手紙が届いた。


差出人はお父様。ゲームの中では「優しくて少し気弱な、地味な中級貴族のお父様」だったはずの人だ。


「な、何よこれ……。縦から読んでも横から読んでも、ただの『最近の領地のトマトの収穫状況』についてしか書いてないんだけど……」


しかし、ブラックスタードから「実質公爵の国王直属スパイボス」だと聞かされた今、これが普通の近況報告であるはずがない。私は、ヒロイン補正でのチート能力を生かし、手紙に特殊な魔力を流して文字のインクを反転させてみた。すると、そこには驚愕の「本当の文章」が浮かび上がってきた。


『ダクワールが企てた、黒魔女の媒介に使っていた魔石の裏ルートの全容を国王陛下の影として完全掌握した。ダクワールの身辺調査も完了している。我が娘よ、デール嬢と協力し、学園での計画を予定通り逆手に取れ。タイミングは我が軍が合わせる。だが、いまだに黒魔女の足取りだけは掴めぬ。』


「お父様、普通の父親の顔して裏でどんな有能スパイ部隊率いてるのよぉぉぉーーーっ!!」


私は自室のベッドで枕に顔を埋めて絶叫した。ゲームのヒロインの実家、強大すぎて怖すぎる。っていうか、トマトの収穫状況のフリして国家転覆の裏工作を完全包囲している手紙を書くの、有能を通り越して最早ホラーの領域である。



それから、一時的に『転移陣の使用許可』をもらっていたブルーコーラルが、自国であるスペーシング王国の本格的な調査を終え、一週間後に裏庭の作戦基地へと戻ってきた。


会合の場に現れたブルーコーラルは、いつもの穏やかな笑みを浮かべながらも、どこか絶対的な王族としての冷徹な覇気を纏って一同に報告した。


「皆、待たせたね。スペーシング王国の調査は全て完了したよ。アズパープルが持ち帰ったあの呪具の鉱石のルートを徹底的に洗ったところ、やはり裏ルートからダクワールがこれらを手に入れていたことが判明した」


「それで、自国の協力者は……?」


アズパープルが紫の瞳を鋭く光らせて問いかける。ブルーコーラルは冷ややかに微笑んだ。


「ダクワールの密輸に加担していた我が国の裏切り者どもは、すでに全員捕らえた。全てを吐かせ次第、早急に『処刑』することが決定したよ。我が国に泥を塗った代償は、命で支払ってもらう」


普段の飄々とした態度からは想像もつかない、隣国王子としての容赦のない言葉に、グリーンタールやデールも深く息を呑んだ。


しかし次の瞬間、ブルーコーラルはスッと私の前に歩み寄ると、驚く私を愛おしげに見つめ、優しくその両手を取ったのだ。


「シーリン。もう何も心配しなくていいよ? 密輸ルートは私が完全に叩き潰した。あとは、ダクワールの悪事を逆手に取って、君の大好きな"デール様"を救うだけだろう?」


周りにデールや男たちが揃っているのもお構いなしに、ブルーコーラルは甘く、熱い青い瞳で、私だけを真っ直ぐに見つめて囁いてきた。


(ひ、ひぇぇぇ……! 処刑とか怖いこと言ってたのに、私に向ける顔だけ甘すぎて高低差で耳がキーンってなるわよ……っ!)


顔を真っ赤にする私を見て、グリーンタールが激しい嫉妬で拳を握り、アズパープルが冷徹な視線を飛ばす中、私たちの包囲網はダクワールを完全に追い詰めていた。



一方、そんな『デール様お守り隊』の完璧な包囲網を知る由もない第一王子の私室。


「……私は、一体何をしていたんだ……?」


グレーの髪をかきむしり、グレイスタードは鏡に映る自分の青ざめた顔を見つめていた。


洗脳の香炉が破壊されたことで、王子の脳を蝕んでいた黒魔女の呪いが、ここ数日で少しずつ、確実に解け始めていたのだ。霞がかかっていた頭がクリアになるにつれ、王子の中に凄まじい違和感と恐怖が湧き上がる。


「デール……私は、私はなんて愚かな真似を……」


王子は自分の犯した大罪の数々に気づき始め、ガタガタと体を震わせていた。


――だが、その「王子の正気」を、絶対に許さない男がいた。


王子の部屋の影からその様子を盗み見ていたダクワールは、脂汗を流しながら激しく焦っていた。


(おのれ……! 何故だ、何故王子の洗脳が解けかけている!? このままでは私が国家反逆罪で処刑される……!)


(こうなったら、王子の意識が完全に元に戻る前に、無理矢理にでも計画を強行するしかない……!)


ダクワールは目を血走らせ、下卑た笑みを浮かべた。幸い、学園ではもうすぐ全生徒や貴族たちが一堂に会する大きなイベント――【学園の解放日の社交パーティー】が控えている。


「殿下、お気を確かに。デール令嬢の悪逆非道な行いは、もう見過ごせません。次の解放日の社交パーティーで、皆の前で彼女との婚約を破棄し、その罪を白日の下に晒すのです……!」


ダクワールは再び王子に怪しげな言葉の呪詛を吹き込み、洗脳の残滓を無理矢理に煽り立てた。


王子の洗脳が解けきるのが先か、それともダクワールが仕掛ける「偽りの断罪劇」が先か。


デールを救うため、そして国の未来をかけたシーリンたちの『デール様お守り隊』と、焦る黒幕ダクワールの、本当の最終決戦の舞台が「解放日の社交パーティー」へと完全に定まったのだった。

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お父様凄すぎてヤバい ダクワール許すまじ(´・Д・)」
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