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第18話:黒き王子の提示と、隠された調査員

「……やはり、あなたは気づいておられましたか。私があなた方を、ずっと見張っていたことに……」


裏庭のさらに奥。大樹の木漏れ日の中で、第二王子ブラックスタードは不敵にニヤリと笑った。


対峙するブルーコーラルも、青い瞳の奥に油断のない光を宿し、私を引き寄せる腕に微かに力を込める。切れ者王子二人の張り詰めた空気に、私の心臓は別の意味でバクバクと鳴り響いていた。


「他国の第二王子が、わざわざ偵察に行くフリをして引き返してくるほどだ。ブラウン伯爵令嬢は、ずいぶんと愛されているらしい」

ブラックスタードの冷ややかな視線が私を射抜く。


「……ですが、殿下。私を兄上のような愚か者と一緒にしないでいただきたい。私の目的は、君たちの邪魔をすることではない。むしろ――君たちが学園内の不自然な噂の広がりを突き止め、不穏な動きまで察知してくれたからこそ、有益な『手がかり』をくれてやろうと思ってね」


「手がかり、かい?」


ブルーコーラルが不審そうに眉をひそめた。ブラックスタードは漆黒の髪を揺らし、淡々と語り始めた。


「君たちは、兄上が流させた嘘の噂の裏を探り突き止めた。……実は、私は兄上をずっと陰から観察していたのだが、ここ最近の兄上の行動はどうにも不自然だ。まるで何者かに……操られているような、『洗脳』のような何かをされている可能性が高い。そして、その兄上の背後に、いつも奇妙に付き従っている特定の男がいる。……ダクワール子爵だ」


「ダクワール子爵……?」

私はゴクリと息を呑んだ。


(ダクワール…小物だと思ってたら違ったのっ?)


ブラックスタードは冷たい黒一色の瞳を光らせ、言葉を続ける。


「かつてホワイト公爵によって悪事……この国の特産物にして取り扱いが危険な為、輸出を禁止されている魔石を裏ルートから他国へ流そうとした罪を暴かれ、侯爵から子爵へと爵位を落とされたダクワールは、ホワイト公爵家を深く逆恨みしていた。奴はホワイト家を取り潰すために暗躍しているという噂がある。だが、話はそれだけではない。ダクワールが何故、今回の『被害者役』に、数ある貴族の中から君の実家――ブラウン家の娘を選んだと思う?」


「……っ?」


「君たちの実家、ブラウン家は、表向きはしがない中級貴族だ。だが裏の顔は違う。君の父親であるブラウン伯爵は、国王である我が父の命を受け、裏で貴族の不正を暴く『潜入調査員』として長年暗躍している。爵位も表向きは伯爵だが、実際は公爵なのだよ」


「はっ……っ!? お父様が、潜入調査員……!?」


初耳すぎる実家のヘビーな裏設定に、私の口からガチの驚愕の声が漏れた。


シーリン、そんなスパイの家系みたいな設定、ゲームのどこにも書いてなかったわよ……っ!?


(っていうかブラックスタード殿下、それ我が国の特級国家機密じゃないの!? 他国の王子の前でそんなことベラベラと話して良い内容なのっ!?)


私の心の中の激しい突っ込みを無視して、ブラックスタードは淡々と続けた。


「当時、ホワイト公爵がダクワールの悪事を叩き潰した裏で、実はブラウン伯爵も国王の影としてダクワールの周辺に潜入し、綿密な調査を行っていた。……ダクワールは捕まった際、自分が子爵へ叩き落された中で、何故か綺麗に難を逃れてのうのうと地位を保っているブラウン家を、快く思っていなかったのだよ。」


ブラックスタードは一度言葉を切ると、射すくめるような冷たい黒一色の瞳で、私の目をじっと見つめてきた。


息が詰まるほどの張り詰めた沈黙。彼は静かにその薄い唇を再び妖しく動かす。


「――あの噂が失敗した時の別のシナリオ。あれで君を傷つけ、兄上が君を助け、助けられた君をも洗脳し、君を婚約者に仕立て上げ、裏から全てを操る。……つまり、ホワイト公爵家への復讐と、気に食わないブラウン家の破滅。両家を同時に共倒れにさせ、社会的に抹殺できる一石二鳥の生贄として、君たちが選ばれたというわけだ。兄上を王にし、自らを側近に置き政治を裏から操るつもりなのだろう。――だが、決定的な証拠が見つからない。どうやって兄を洗脳しているのか……」


ブラックスタードは苦々しげに眉をひそめ、冷たい黒一色の瞳を深く濁らせた。


数年前から始まっていたのかもしれない、王子の洗脳の疑い。ホワイト家への逆恨みと、ブラウン家への嫉妬。そして、国の切れ者である第二王子ですら暴けない、ダクワールの巧妙な洗脳の手口。


その巨大な因縁と、掴めない物証へのもどかしさを残したまま、ブラックスタードは去っていった。

まだ見ぬ真の黒幕の不気味な影を前に、私とブルーコーラルは深く息を呑む。


(もし……もし本当に王子がダクワールに狂わされているのだとしたら、その決定的な洗脳の『証拠』は一体どこに――)


デールを救うための私たちの戦いは、見えない「手段」の謎を前に、より一層の緊張感に包まれるのだった。

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