第17話:恋バナと、漆黒の査問者
三人からの愛の告白から一夜が明けた。
放課後、私たちは王子の嫌がらせの裏に潜む陰謀を暴くため、校舎の裏庭のさらに奥、深い木々に隠された『作戦基地』に集まっていた……のだが。
「……っ」
私は大樹の根元に腰掛けたまま、地面の雑草をじっと見つめて完全にフリーズしていた。恥ずかしくて、みんなの顔をまともに見ることができないのだ。
(無理……! モジモジするなって言われても無理よ! この間の『魅了の魔法に掛けられている!』とか言っていたあの私の熱い意気込み、完全に消滅したわよ……!)
私が心の中で頭を抱えて縮こまっていると、アズパープルがスッと前に出て、いつも通りの硬質で涼やかな声を響かせた。
「シーリン嬢。それはそれ、これはこれですから。……私たちは今、国とデール様を揺るがす重大な陰謀に立ち向かっているのです。私情は一旦横に置き、毅然とした態度で調査を進めましょう」
「あ、は、はい……っ!」
アズパープルの完璧な切り替えに救われ、男子三人が偵察へと向かう。
大樹の木漏れ日の中に残されたのは、私とデールの二人だけになった。
「――ねえ、シーリン様。シーリン様は、あの三人のうち……どの殿方が気になりますの?」
まさかの、最推しのデールからの直球の恋バナ。
私は一瞬で顔をボッと真っ赤に染め上げ、手をぶんぶんと振ってパニックになった。
「そ、そんな、決められませんわっ! そもそも私なんか、今までそんなモテたことなんて一度もありませんし、皆様が何を考えているのか本当に分かりませんの……!」
俯いて真っ赤になる私を見て、デールは楽しそうに、クスッと美しく微笑んだ。
「ふふ、まあ良いわ。じっくり時間をかけて考えたらいいわよ。……じゃあ、私もホワイト公爵家の情報網を使って、調査してくるわね」
デールはそう言い残し、木々の隙間を縫って校舎の方へと去っていった。
(……デール様が私と恋バナをしてくれた。生きているって素晴らしい……!)
最高の公式供給に浸り、裏庭の奥でしばらくぽかんと呆然としていた、その時だった。
サラリ、と木の葉が擦れる微かな音が響く。
「――ずいぶんと、おめでたい顔をしているな。ブラウン伯爵令嬢」
冷徹で、地を這うような低い声が、静まり返った森の奥に響いた。
ハッとして顔を上げると、大樹の幹の影から、一人の青年がまるで闇そのものが形を成したかのように、音もなく姿を現した。
漆黒の髪に、すべてを冷酷に見通すような黒一色の瞳――グレイスタード王子の数分後に生まれた双子の第二王子、ブラックスタード・ファンナステッド。
「ブ、ブラックスタード殿下……!?」
あまりの威圧感に、私は驚きで目を見開いたまま固まった。
ブラックスタードは足音もなく私に近づくと、その冷たい黒い瞳を真っ直ぐに私へと向け、淡々と、しかし有無を言わせぬ絶対的な迫力と共に問いかけてきた。
「……君たちは、私の愚かな兄のことを調べているのだろう? 一体、何を企んでいる」
完璧にこちらの隠密行動を掴んでいる、優秀すぎる第二王子の質問。
デールを救うための私たちの極秘作戦は、早くもこの「学園一最強の切れ者」に完全に見透かされていた。
あまりの威圧感に、私が冷や汗を流しながら言葉を詰まらせていると――。
「――これはこれは、ブラックスタード殿下。何故シーリンが一人の時を狙って、お近づきになられるのです?」
木々の隙間から、鈴が転がるような、しかし低く確固たる声が響いた。
流れる南国の海のような青い髪。悪戯っぽく、しかし明確な警戒をその青い瞳に宿して姿を現したのは、ブルーコーラルだった。
(……え? あれ? ブルーコーラル殿下!?)
私の脳内に、強烈な疑問符が浮かび上がる。
さっき、グリーンタールと一緒に学園内の聞き込み偵察へ向かったはずではなかったのだろうか。何故、彼は今ここにいて、しかも私がブラックスタードに絡まれた瞬間に完璧なタイミングで割って入ってきたのか。
(まさか……偵察に行くフリをして、ブラックスタード殿下が見ていることに気づいていたの?!)
王子二人の視線は静かに火花を散らしていた。
突然の乱入者に対し、ブラックスタードは焦る素振りすら見せなかった。それどころか、漆黒の髪を退屈そうにかき上げると、不敵な笑みをその端正な唇に浮かべた。
「やはり、あなたは気づいておられましたか。私があなた方を、ずっと見張っていたことに……」
ブラックスタードはニヤリと笑い、黒一色の瞳をブルーコーラルへと向けた。
「さすがは他国の王族だ。兄上の周りの間抜けな小悪党どもとは違って、勘が鋭い。……だが、勘が鋭いなら分かっているはずだ。私の目的が、君たちの邪魔をすることではない、ということもね」
ブラックスタードの不気味な言葉に、ブルーコーラルもまた、ふっと青い瞳を細めて笑みを深くする。
シーリンを巡るイケメン王子二人の、裏庭の奥での息詰まるような牽制劇。
お守り隊の活動が、第二王子の介入によって新たな局面を迎えようとしていた。




