第16話:新緑の熱情と、紫紺の独占宣言
「――私は、ただ私の意思で、君という女性に夢中なんだ」
ブルーコーラルの、魔導具に裏打ちされた「完全な本気の告白」。
それを受け、私の脳内回路が真っ白にショートしていた、まさにその時だった。
「……いい加減にしろ、ブルーコーラル殿下っ!」
机を叩く大きな音と共に、グリーンタールが激しい怒りを露わにして立ち上がった。その新緑の瞳は、普段の冷静さからは想像もつかないほど熱く、鋭く燃え上がっている。
彼はブルーコーラルの手から私の身を引き剥がすようにすると、そのまま私の前に立ちはだかり、今度は私に向き直って私の両肩をがっしりと掴んだ。
「グリーンタール、様……?」
「シーリン嬢、私の話を聞いてくれ。……私は最初、君がデールを陥れようとする邪悪な狐だと思って、激しい憎しみを抱いていた。……だが、違った。君は裏庭で、自分の名誉になど目もくれず、ただデールの幸せだけを願って涙を流していた。あの日から……私の目は、君だけを追うようになってしまったんだ!」
グリーンタールの大きな手が、私の肩を熱く揺らす。
「君がデールのためにドロドロになって学園中を奔走している姿も、上手くいかなくて落ち込んでいる姿も、私と協力して笑い合ってくれた瞬間のあの笑顔も……その全てが、私の胸を締め付けた。最初は同志としての信頼だと言い聞かせていた。だが、もう限界だ。他国の王子に君を奪われるなど、絶対に耐えられない……! シーリン、私が君を一生守る。私の、私の一生のパートナーになってほしい!」
「え、えええ……っ!?」
デールの幼馴染である公爵家嫡男からの、魂の叫びのような熱烈なプロポーズ。
あまりの衝撃に私が息を詰まらせていると、今度は背後から、凍りつくように冷徹で、しかし恐ろしいほどの執着を孕んだ声が静かに響いた。
「――お下がりください、グリーンタール。彼女が困惑しています」
声の主はアズパープルだった。彼は静かな足取りで私に近づくと、グリーンタールの手を私の肩からそっと外させ、自身の長い腕で私を背後から包み込むようにして引き寄せた。
「アズ、パープル様……!?」
紫の髪から漂う洗練された香りに包まれ、私はさらにパニックを起こす。
「シーリン嬢。私は殿下の側近として、数多くの令嬢を見てきました。皆、自らの欲や身分のために殿下に媚びを売る、退屈な人間ばかりだった。……ですが、君は違った。君は入学式の日、殿下から一目惚れされ、誰もが羨む寵愛を向けられたというのに……それを本気で嫌悪し、全力で逃げ回っていた」
アズパープルの冷ややかな紫の瞳が、至近距離で私の瞳をじっと見つめてくる。その奥には、抑えきれない漆黒の独占欲が渦巻いていた。
「デール様から理不尽に胸ぐらを掴まれた時ですら、君は己の身を省みず、ただデール様を高潔だと称えて恍惚としていた。……そんな君の、あまりにも無私で、泥臭く、気高い魂を、私が美しいと思わないはずがなかった。殿下のせいであらゆる暴風に巻き込まれていく君を、私がこの手で掠め取り、誰の目にも触れない安全な場所へ匿いたいと……そう切望するようになっていたのです」
アズパープルは私の耳元に顔を寄せ、低く、確固たる声音で囁いた。
「これ以上、あなたを殿下の身勝手な玩具にさせない。他国の王子にも、公爵家にも渡さない。私の全てを賭けて、あなたを私のものにしてみせる……私の愛を受け入れてください、シーリン」
「……っっっ!!???」
隣国の王子、ブルーコーラル。
公爵家嫡男、グリーンタール。
王子の第一側近、アズパープル。
乙女ゲームが誇る、容姿端麗・頭脳明晰な最高峰のメイン攻略対象たち三人が、いま、私の目の前で「お前が欲しい」「俺のものになれ」と本気の愛をぶつけ合い、火花を散らしている。
これまでは「デール様お守り隊」という名のオタク仲間だと思っていた男たちが、一瞬にして牙を剥いたオオカミに変貌したのだ。
「もう……もう本当に無理! 手に負えないどころの騒ぎじゃないわよーーーっ!!」
私は顔を真っ赤に染め上げ、心臓が爆発せんばかりの勢いでバクバクと鳴り響く中、ついにその場でがっくりと膝をつき、両手で顔を覆って小さくなることしかできなかった。
そんな私の周りで、三人の男たちは互いを牽制するように凄まじい視線の火花を散らし、デールだけが「な、なんなのよこの展開は……!」と頭を抱えて唖然としていたのだった。




