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第15話:嘘を退ける青の魔石と、オタクの逃げ場

あの嵐のような社交会から、一週間が経過していた。


放課後のいつもの裏庭には、これまでの三人だけでなく、白銀の髪を揺らしたデールと、紫の髪の側近アズパープルの姿もあった。名実ともに『デール様お守り隊』が完全な同盟を結んだ歴史的瞬間だ。


私は紅茶のカップを置き、静かに口を開いた。


「皆様、よく聞いてください。……私は、グレイスタード殿下が、何か強力な『魅了の魔法』みたいなものにかけられているのではないかと思い至ったのです」


「なっ……!?」


私の突飛な発言に、一同が驚愕して目を見開く。グリーンタールは息を呑み、アズパープルは紫の瞳を鋭く細めた。


私が、あの社交会の夜にデールから聞いた「殿下はあんなことをする人ではなかった」という言葉の違和感を説明すると、ブルーコーラルが顎に手を当てて、冷ややかに青い瞳を光らせた。


「……なるほど。もしそれが本当なら、生半可な術ではないね。この世界の最も危険とされる人物…『黒魔女』でも使わなければ、一国の王子をそこまで完全に洗脳するような禁忌の魔法は難しいのではないかな?」


「黒魔女……。そんな恐ろしい存在が、殿下の裏に……?」


デールが青ざめ、ドレスの裾をぎゅっと握りしめる。


黒幕の存在というあまりにも巨大な謎を前に、皆がそれぞれ考え込むが、確たる証拠がないためなかなか先へ話が進まない。重苦しい沈黙を破ったのは、アズパープルだった。


「……私は殿下の側近だ。それが本当だとしたら……私室を徹底的に調べてみようと思います。怪しい魔術具がないか、これ以上殿下を狂わせはしない……」


「私も、殿下の周りでコソコソと動いている貴族たちを調べてみるわ。ホワイト公爵家の名を使えば、情報収集など容易いですから」


デールもまた、凛とした表情で決意を口にした。


皆がそれぞれの役割を決めていく中、ブルーコーラルは少し寂しげに眉を下げ、ぽつりと呟いた。


「……他国の人間である私には、学園内の内偵となると出来ることは無いな。役に立てなくて申し訳ない」


「そんな、殿下には社交会でたくさん助けていただきましたし……!」


私が慌ててフォローしようとした、次の瞬間だった。


スッ……。

ブルーコーラルは優しく私の両手を包み込むと、そのままグイッと自分の至近距離まで引き寄せた。


「でも、君を守ることは出来る。君が動く時には、これからもいつも私が隣にいよう」


ブルーコーラルはとびきり甘く微笑むと、驚いて固まる私の手の甲に、またしても恭しく、熱い口づけを落としたのだ。


「ひゃぅっ……!!?」


一瞬で顔が真っ赤になり、頭から湯気が出そうになる。周りを見れば、グリーンタールが「なっ、何をしているのだっ!ブルーコーラル殿下っ!」と今にも剣を抜きそうなほどの怒かりを含んだ目で立ち上がり、アズパープルも冷徹な紫の瞳の奥に凄まじい嫉妬の炎をギラつかせている。デールすらも「な、なによこれ……」と呆気にとられていた。


私はこの心臓の爆発しそうな状況から逃れるため、大急ぎでオタクの防衛本能をまくしたてた。


「ほ、ほら! やっぱりそうですわ! ブルーコーラル殿下も、きっと『魅了の魔法』にかかってしまっているのです! だから私みたいな地味な女にそんな、変な錯覚を……!」


これで魔法のせいにできる。そうホッとしたのも束の間、ブルーコーラルはくすくすと妖しく笑うと、私の目を真っ直ぐに見つめて、不敵にニヤリと笑った。


「いや。それはあり得ないよ、シーリン」


「え……?」


ブルーコーラルは自分のシャツの襟元を少し緩め、そこに隠されていた、美しく輝く深い青の魔石のペンダントを覗かせた。


「私はスペーシング王国の第二王子だからね。留学する際に、あらゆる精神操作や魅了、洗脳の類の魔法を完全に退ける、国宝級の魔導具を身につけてから来ているんだ。だから安心して良いよ。私はそんな魔法になど一切かかっていない」


(……国宝級と言ったけれど。本当はこれ、国宝の術式をベースに私が自分で作ったものなんだけどね。……さすがに皆には言えないが)


私の前では優しい微笑みを崩さないまま、脳内でそんな恐ろしい大天才スペックの秘密を呟いていたなど、私は知る由もない。


「……あ、へ……?」


精神操作などの魔法が、効かない……? ということは、今のこの熱烈なアプローチは……。


「私は、ただ私の意思で、君という女性に夢中なんだ。私の隣へおいで、シーリン」


他人のせいにできない、これ以上ないストレートな本気の告白。


国宝級のイケメン隣国王子からの完全な「素の求愛」を真っ正面から食らい、私は顔をこれでもかと真っ赤にしながら、今度こそ脳内の処理能力が限界を迎えて気絶寸前になるのだった。

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