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第12話:波乱の幕開け、白銀と青の前奏曲(プレリュード)

学園の大社交会。


その会場では、きらびやかな魔導具のシャンデリアが輝き、華やかなドレスをまとった令嬢たちと、正装した子息たちが談笑している。


会場の視線は、一際まばゆい輝きを放つ『主役』に集まっていた。


白銀の豪華なドレスをまとい、気高く佇むデール・ホワイト公爵令嬢。その圧倒的な美しさは、まさに未来の王妃そのものだ。


しかし、そのデールの隣に立つべき第一王子グレイスタードの姿は、まだそこには無かった。王子は会場の入り口近くで、ダクワール子爵を背後に従え、グレーの瞳を不気味に輝かせながら「ある少女」の登場を今か今かと待ち構えていたのだ。


(シーリン……さあ、私の手を取るがいい。皆の前で、君を私の唯一のレディとして迎えてあげよう……)


王子が歪んだ笑みを浮かべた、その瞬間。


会場の扉が静かに開いた。


現れたのは、見事な仕立ての、しかし派手すぎない栗色の髪に映える、鮮やかで美しいマリンブルーのドレスをまとった――シーリン・ブラウン。


そして、彼女の右手をエスコートし、左手では彼女の腰を優しく触れながら歩みを進めてくるのは、南国の海をそのまま溶かし込んだかのような鮮やかな青い髪を持つ美青年、隣国の第二王子ブルーコーラル・スペーシングだった。


「……なっ、に……!?」


グレイスタード王子の顔から、一瞬で笑顔が消え失せた。


王子のグレーの瞳が、怒りと驚愕で血走る。


「何故だ……何故、隣国の王子が、シーリンの隣にいる……!? しかも、あいつの髪色のドレスを纏っているだと……!?」


王子は窓枠を握りつぶさんばかりの勢いで拳を震わせ、凄まじい怒りと嫉妬の炎を燃え上がらせた。他国の正式な王族が、自身のイメージカラーのドレスを贈ってエスコートしている。それは社交界において「この女は私のものだ」という強烈な独占宣言に他ならない。いくらこの国の第一王子といえど、公の場でそれを力ずくで強奪することは国際問題になる。王子は自分の完璧な計画が、最初から完全に叩き潰されたことに気づき、激怒していた。


会場全体が、この予想だにしない「隣国王子による独占宣言」に、ざわざわと大きくどよめき始める。


そんな喧騒の中、少し離れた場所から、デールもまた私たちの姿をじっと見つめていた。


デールの神秘的な白銀の瞳には、複雑な感情が入り混じっていた。


(……シーリン。あなた、本当に……私のために、そこまでしてくれたのね……)


デールは、ドレスの裾をきゅっと握りしめ、青い王子の隣で心なしか緊張して顔を強張らせているシーリンを、切なさと、言葉にできない深い感謝の混じった、複雑で愛おしげな眼差しで見つめていた。


――だが、肝心の私の脳内は、デールの視線に気づく余裕すらなく、完全にパニックで爆発寸前だった。


(ま、待って、ちょっと待ってブルーコーラル殿下! 距離が、距離が近すぎませんかーーーっ!?)


最初は「王子の魔の手から守るための演技」だと思っていた。


しかし会場に入ってからというもの、なぜかブルーコーラルは私の腰にしっかりと大きな手を当て、その体をごく自然に引き寄せ、異常なほどにずっと密着して歩いているのだ。ドレス越しに伝わる彼の体温が熱くて、心臓が口から飛び出しそうになる。


さらに、彼が歩調を緩めるたび、耳元に心地よくて低い声音が何度も何度も降ってきた。


「ああ、本当に綺麗だ、シーリン嬢。…いや、シーリン。私の髪の色のドレスが、君にとてもよく似合っているよ……」


「で、殿下……っ」


「本当に、どうして君はこんなにも美しいのだろう。……ねえ、冗談抜きで、このまま君を私の国へ連れて帰ってしまいたいな」


吐息が耳に触れるほどの至近距離で、楽しそうに、けれど熱を孕んだ青い瞳でまっすぐに見つめられながら愛を囁かれる。


(無理無理無理!! 手に負えないって!!演技の域を完全に超えてるから!! 私のライフはもうゼロよ!!)


顔を真っ赤にして俯くことしかできない私を、ブルーコーラルはますます愛おしそうに引き寄せ、周囲に見せつけるように甘く微笑んだ。


王子の狂気の嫉妬、デールの複雑な視線、そして密かに敷かれた男たちの警戒網。


華やかな音楽が流れ始める中、しおりの命がけの「デール様救済ルート」の、最も美しく、最も甘く危険なダンスパーティーが、今ここに幕を開けたのだった。


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