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第11.5話:陽気なシスコンと、青き王の初嫉妬

隣国の王子ブルーコーラル様からの、心臓が爆発しそうなドレスのプレゼントとおねだりを食らった、翌日の放課後のこと。


私は、学園の中庭で思いがけない人物に、背後からガバッと勢いよく抱きしめられていた。


「やあ、シーリン! 会いたかった! 僕の可愛い可愛い天使!ああ、やっと会えた。」


「ぶふっ!? ちょっと、お、お兄様!? 苦しいですわ!」


金髪の眩しい髪を揺らし、誰が見てもモデル並みにめちゃくちゃイケメンな私の実の兄、オールゴルト・ブラウンが満面の輝く笑顔で私に容赦なく頬ずりをしてくる。


お兄様はとにかく明るく、誰とでもすぐに仲良くなれる人たらしな性格で、妹の私のことが可愛くて仕方のない超絶シスコン男だった。


「というか、お兄様、何故学園に……? 卒業生ですのに」


「今度の社交会の警備や設営の手伝いで、臨時のOBとして学園に呼ばれたんだよ。……って、それよりシーリン! 木の上からお前をずっとねっとり見つめている、あの青い髪の男は誰だい!?」



――その瞬間、大樹の枝の上で、ブルーコーラルは眉間に深い皺を寄せていた。


(……誰だ、あいつは? 誰もいない中庭で、何故私のシーリンに平然と抱きつきやがっているんだ……?)


いつもなら木の上から楽しそうに彼女を観察しているはずの青い瞳が、今は獲物を狙う肉食獣のように冷たく据わっている。


(何故あんなに親しいのだ。しかも、"僕の可愛い天使"だと……?)


胸の奥から湧き上がってくる、今までに経験したことのない酷くドロドロとした感情。それが人生で初めて覚える強烈な『嫉妬』だと気づくまでに、数秒の時間を要した。


だが、直後に聞こえてきた彼女の「お兄様!」という悲鳴に、ブルーコーラルは一瞬だけ呆気に取られた。


(えっ……お兄様だと……? なんだ……実の兄か。焦ったではないか)


ふっと張り詰めていた肩の力を抜き、安堵の溜息を漏らす。


――が、すぐにその安心感は、激しい苛立ちへと塗り替えられた。


(いや、待て。あの男、最初から私が木の上にいることを完全に分かった上で、見せつけるようにやっていたのだな。それにしても……兄とはいえ、いくらなんでも異常なほどのスキンシップではないか!? 離れろ、私のシーリンだっ……!)



オールゴルトお兄様はキッと目を三角に尖らせ、中庭の木の上にいるブルーコーラルを真っ直ぐに指差した。


(あいつ、何故あんなに優しい笑みを浮かべてシーリンを見ているのだ! たとえ隣国の王子であろうと、私の可愛いシーリンの隣に立つなど絶対に許せん!)


これまでは余裕を持って一歩引いていたブルーコーラルだったが、急に現れた「見知らぬイケメンに自分の想い人を奪われるかもしれない」という本能的な恐怖と独占欲に突き動かされ、フッと音もなく木から飛び降り、二人の目の前へと着地した。


お兄様はすかさず私の前に立ちはだかり、露骨にちょっかいを出し始める。


「初めまして、隣国の第二王子殿下。ブラウン家嫡男、そして可愛いシーリンの兄のオールゴルトです。……うちの可愛いシーリンのそばに随分と張り付いているようですが、ただの留学生が妹に気安く触らないでもらえますか?」


いつもは飄々としているブルーコーラルも、この人たらしで距離感の近いお兄様のストレートな敵意には、少し調子を狂わされたようで、青い瞳を瞬かせて不敵に笑い返した。


(――絶対に、シーリンは兄といえど誰にも渡さない)


「おやおや、お兄様。私は彼女の正式なエスコート相手ですから、そばにいるのは当然の権利ですよ」


「な、なんだとー!?」


私の前でバチバチと激しく視線の火花を散らす、国宝級のイケメン二人。


(もう……お兄様、ブルーコーラル様と普通に煽り合ってるけど、相手は一国の王子よ!? 怒らせて国際問題になったらどうするつもりなのよ!)


私はその恐ろしい空気の温度差に呆れつつも、シスコンお兄様の乱入に、少しだけ心が和むのだった。


――しかし、シーリンは知る由もなかった。


この時、誰とでも仲良くなれる明るい笑顔でお守り隊の面々や周囲の生徒たちに溶け込み、学園の設営を手伝っていたお兄様の「本当の目的」を。

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