表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

第1話 魔法使いは逃亡中

 午前七時。車行き交うスクランブル交差点。

 ビルの壁面に設置された巨大モニターには、魔法少女の映像が流れていた。


 炎上するビルの窓から、子供を抱えて飛び出す魔法少女。

 ブランド服で身を飾り、カメラ目線で微笑む魔法少女。

 煌びやかな舞台に立ち、マイク片手に歌う魔法少女。


 どこにでもいる彼女たち。それを、男性キャスターが嬉しそうに誉めそやす。


『――悪の組織・マレフィシア壊滅から三年、魔法少女の活動は日本の犯罪抑止に大きな成果を上げています。出現する魔物への対応、ダンジョン攻略にも従事し、各自治体も「いまや魔法少女は ”平和” の象徴」と述べています!』


 本当にその通りだ。彼女たちのおかげ今がある。

 だけど、言いたい。これだけは言いたい。


「いや “平和” ってそれ一部の人間だけだからぁーッ!?」

「待ぁぁああああてぇえええええええええええええっ!」

「いいぃぃやぁぁあああああああ~~~~~~~~ッ!?」


 知恵揺子ちえゆりこ。二十三歳。職業、魔法使い。

 ただ今絶賛、魔法少女から逃亡中。


「あーもうっ、なんで、なんでこーなったぁああ~~~!?」


 思わず叫んだものの、理由はわかっている。

 事の発端は十五分前。場所は街の公園だった。


 ミネルスフィア魔法堂。それが揺子の働く勤め先だ。星占いから荒仕事の請負まで、幅広いサービスを提供する魔法使い専門の便利屋さん。今日も朝から依頼があり内容は公園に現れたサンドゴーレムの駆除だった。まーゴーレムなら動きも遅いし楽勝だよねー、と軽い気持ちで倒してしまったのが運の尽き。


『あの、それっ、わたしが倒そうと思ったんです!』


 振り返るとそこにいた、幼い女の子。

 桃色のボブへアに飾られた輝くティアラ。

 お姫さまが着るドレスのようなコスチューム。

 年齢的に小学生。身長は揺子の腰くらい。

 そんな女の子が、目に涙を溜めて揺子を襲ったのだ。


「今度こそ、倒そうと思ったのにぃ!」

「だからごめんって謝ってるじゃん!」


 林檎の意匠が施された魔法の杖で、光弾をバシュバシュと撃つ魔法少女。

 抉れるコンクリート。ひしゃげる標識。直撃すれば怪我では済まない。


 とはいえ、これ以上逃げ回るのも良くない。


「うわッ!?」

「きゃあ!?」


 道行く先で悲鳴をあげる通行人。このままでは彼らを巻き込んでしまう。


「魔法少女が人を傷つけるとか――絶対ダメッ!」


 揺子は右手を開いた。瞬間、手の平に現れるステッキ型の杖。全長約九〇センチ。鳥の頭が彫刻された銀の柄に、水晶のような宝石の支柱という外見だ。

 それを握って魔力の装填。支柱が白く輝いた。


「〈ナティア・シア・ソーティア〉―― “加速せよ(アクセリオ)” !」


 神への祈りを捧げて唱えた身体動作の加速呪文。それが揺子を信じがたいほどのスピードで疾駆させ、ビルの壁面を一気に駆け上がらせる。


 被害を出さないための屋上へ。そこなら誰もいないはず。

 しかし、見込みは大きく外れた。


「――嘘ォ!?」


 屋上に飛び上がった揺子の前に、先ほどの魔法少女がいたからだ。


「終わりです!」


 発射される光弾の連射。その勢いたるや秒間一〇連発。

 空中では避けきれない強襲。だが、魔法使いの名は伊達じゃない。


「なんのッ!」


 揺子は手に持った杖を振り回して、光弾のすべてを叩き落とした。


「えっ!?」


 魔法少女が目を剥いて驚く。なかなか反応が可愛い。

 と、和んでいる暇はない。着地と同時に、すぐさま叫ぶ。


「死んだらどうすりゅーッ!?」


 ちょっと噛んだけど仕方がない。だって命の危機だから。

 しかし、そんな揺子の問いかけは意外な言葉で返された。


「死にません。だってお姉さん、苦しんでるから」

「へ?」

「お姉さんの ”色” は灰色。それはとても暗い色」

「い、色? なにを言ってるの……?」

「私、人の心が ”色” で見えるんです」


 少女の言葉に、揺子はピンときて指摘した。


「ふぅん、それって ”共感覚” ってやつだ」

「きょうかん……なんですか?」

「感覚同士が混線する――」

「くらえっ!」

「説明の途中!?」


 会話の流れで逃げられないかと期待したが甘かった。

 情け容赦ない光弾の不意打ち。しかも、少女には隙がない。先ほどからちょっとでも揺子が足を動かせば身構えるし、視線を反らせばその方向に動こうとする。


 絶対に逃がさないという執念。子供ながらに恐ろしい。が、


「そうまでして狙う理由はなに!? ゴーレム奪ったから!?」

「それもありますけど……お姉さん困ってるから」

「ええ、困ってるわよ! 今あなたに襲われて!」

「違います。お姉さんはずっと前から苦しんでる」

「――――」


 少女の訴えが、揺子に遠い日の記憶を呼び覚ます。


「私、たくさん灰色の人を見てきました。みんな、ずっと前から傷ついてた」


 ――矢継ぎ早に飛ぶ批判の声。


「お姉さんを見たときからそうでした。この場所に来るまで、ずっと」


 ――焚かれるフラッシュの嵐。


「だから助けなきゃいけないんです。私の魔法ならそれができます」


 ――もう戻らない彼女の笑顔。


「私が憧れたあの人も、きっとそうすると思うから」

『揺子は、なんで―――――――――と思ったの?』


 茜色に染まる教室で、彼女に訊かれる。

 想いは強く、誓いは熱を帯びて。

 私は口を開き、彼女に言った。


「私は……」

「準備できました?」

「いや、じゃなくて」

「全力でいきます!」

「話聞こう!?」


 少女が掲げた杖から迸る、直径三〇メートル級の極太のビーム。

 見あげる揺子にとっては、もうビームというより光の柱だった。


「最初はちょっぴり痛いかもですが、そのうち心がはにゃ~んてなって幸せになるんで大丈夫です! 安心してださい!」

「信じられるかァ!?」


 光が奔る。

 光が迫る。

 光が、逃げる揺子の後を追う。


「待って、ちょ――」


 思えば魔法使いになってから、こんな事ばかりだ。

 迷子のペット探しではスライムに襲われ、浮気の素行調査では魔女に呪われ、ダンジョンの探索ではミミックに嚙みつかれる始末。


「光になれぇぇぇええええええええええええええええッ!!」

「いいぃぃやぁぁあああァァああァ~~~~~~~~ッ!?」


 何もかもが空想的で致命的。だけど、これが今の日本なのだから仕方がない。

 マレフィシアが来たあの日から、世界はすっかり変わってしまったのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ