第19話 幼き猛者
設定の変更に伴い、一部文章を推敲しました。
日頃から読んでいる方々は申し訳ありませんが、再読していただけますと幸いです。
コンベンションホール施設内。
廊下とロビーの併設する広い空間。すでに一般人が逃げ延びたそこで、魔法少女と【魔骸】の戦いは続いていた。しかし戦況は、魔法少女にとって芳しくない。
「う、そ……ッ!?」
少女の驚愕とともに、光弾が握り潰される。
黒く肥大化した腕。骨が軋むような異音を鳴らしながら、【魔骸】は正面から魔法を突破してきた。次の瞬間、振るわれた腕が壁面を砕く。
轟音。飛び散る瓦礫。衝撃波に煽られ、魔法少女が吹き飛ばされた。
「きゃああ!」
「立って! 囲まれる!」
叫びながら赤髪の少女が炎弾を射出する。が――
「た……スケてェ!!」
放たれた炎を突破して、【魔骸】は少女の身体を掴んだ。
「あ――ッ!?」
そのまま床へ叩きつける。大理石が砕け、鈍い悲鳴が響く。
「ぉごっ!?」
強い。あまりにも。
通常の魔物と違い、【魔骸】は恐怖も痛覚も希薄だ。致命傷すら意に介さず、ただ獲物を襲うために向かってくる。しかも厄介なのは――
「再生が早すぎる!」
風刃で胴を切りつけた魔法少女が、息を呑んだ。
裂けた肉が蠢き、繋がり、数秒で癒着していく。
「なんなのコイツら……ッ!?」
「これじゃ仮面が――」
「そこ! 避けて!」
「うぁぁ!?」
恐慌が広がる。
そこへ、
「光になれぇぇええええええ――――――ッ!!」
幼い声が響いた。直後、黄金の光がロビーを貫く。
一直線に奔った光が【魔骸】たちをまとめて吹き飛ばした。爆ぜる衝撃。崩落する壁。巻き上がる粉塵の向こうから、一人の魔法少女が姿を現す。
「みなさん、大丈夫ですか!?」
籠目智代である。白い衣装を翻し、いま窮地へと馳せ参じた。
「ここは任せてください!」
「小学生――下がりなさい!」
当然だ。初等部の魔法少女が戦うなど、誰も看過できない。
「私も戦います!」
「ダメ! 危険よ!」
「へっちゃらです!」
近くには【魔骸】が一体。仮面から覗く銀眼が、智代を捕捉している。
「メムシュ、サポートお願い」
「任せるっシュ」
宙に浮かぶメムシュが両手を広げた。
額にはめ込まれた宝石が、淡い光を放つ。
智代の全身も淡く輝き、髪と衣装とが風に揺れた。
直後、【魔骸】が動いた。
「ガァァァアアアアアア――――ッ!!」
踏み込みから一足で詰める間合い。腕が振るわれる。小さな頭めがけて。
「――ッ!」
智代は咄嗟に身を沈めた。頭上を黒い腕が通過し、背後の柱が砕かれる。飛び散った破片が雨のように降り注ぐなか、すかさず床を蹴った。
疾走。小さな身体が、滑るようにロビーを駆け抜ける。
追う【魔骸】。互いの距離が一瞬でゼロになる。
「アァァアアアアッ!!」
振り下ろされる黒腕。
だが、智代は止まらない。
半歩踏み込み、紙一重で回避。同時に杖を横薙ぎに振るう。
「ハ――ッ!」
黄金の斬光。【魔骸】の脇腹が深く裂け、黒い血が噴出した。
速い。高等部の魔法少女が目を見張った。
自分たちでは防戦するのがやっと。なのに、あの少女は攻撃を見切っている。
「そこっ!」
跳躍し、空中で一回転。逆さの姿勢から放たれた光弾が、【魔骸】に命中した。
「すご……」
誰かが呟いた。
智代の動きは戦闘というより舞踏に近い。しかも軽い。速い。迷わない。相手の攻撃が繰り出されるより早く、すでに次の位置へと移動している。
床を蹴る。壁を走る。天井近くまで飛び上がる。
空間そのものを足場にするような三次元戦法。
その軌道を【魔骸】は追いつけない。
「ありえない。初等部よね……?」
誰もが愕然とした。
そのとき、またもや轟音。
ロビー奥の壁が、内側から砕け散った。
現れたのは、吹き飛ばされたはずの三体。
「――ッ!」
状況の不利を見るや、智代は目の前の一体を蹴り飛ばし離脱。先輩魔法少女たちのもとまで距離を取る。
「あ、あなた……」
「大丈夫です! ピンピンしてます!」
ふんふん、と力こぶを作る智代。
「そうじゃなくて、【魔骸】の弱点は知ってるの?」
「えっと、仮面ですよね?」
「そうよ」
赤髪の魔法少女が、勢い込んで指示する。
「それさえ壊せば、ヤツらを倒せる。私たちが囮になるから、その隙にあなたが――」
「必要ありません!」
「ちょっと!?」
有無を言わせぬ突撃。智代が【魔骸】の群れへと突撃していく。
「闇に終わりを、罪に赦しを、苦しむ者には安息を」
走りながら、智代は杖を両手で握った。
「今ここに照らせ」
黄金の光が指先から溢れ、
「 "永遠に瞬く救いの光"ッ!!」
振り下ろされた杖から、迸るビーム。
間一髪、散開した三体は回避が間に合ったものの、先ほどまで智代と戦っていた【魔骸】は迎撃に動くあまり、もろに光を浴びる羽目となった。
「ガ――あぁ……っ!」
断末魔の代わりに人の声が上がる。光の中で仮面は割れて消失し、黒い身体が溶けていく。収縮し、塵となり、あるべき姿に戻っていく。
やがて、一人の人間が床に崩れ落ちた。
「嘘」
赤髪の魔法少女が目を見張った。
「仮面を砕かずに、倒した!?」
「倒したんじゃないです」
智代は次の【魔骸】に向き直った。
「助けたんです」
言って、脇目も振らずに突っ込んでいく。
再度、杖に魔力を装填。溢れ出す光を煌めかせながら、
「 "永遠に瞬く救いの光"ッ!!」
咆哮。黄金の赫奕が、二体目を人間に戻した。
「 "永遠に瞬く救いの光"ッ!!」
続く三体目は、ギリギリの魔法だった。近すぎる距離に先輩が悲鳴を上げたが、【魔骸】の拳が届く前に浄化は完了。また一人助けた。
「はぁ……はぁ……ッ!」
智代は息を整えながら、残る【魔骸】を見据えた。
「あと一体」
早く合流しないと。
揺子先生が、あの狐と戦っている。




