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カーラ・アントワネット。それがカーラの芸名。なんか、大げさだなぁと思う。カーラらしいと言えばそうなのだが。
そのカーラの役は、食パンでもなくカレーパンでもなく、食パンについたカビだった。ノコギリマンに一瞬で削り取られた。
黒いもこもこの衣装を着て、「ぎゃあ」と一言言って、転がりながらはけていった。これでいいのか、カーラ。
人気の原作に安直に飛びついた感じのミュージカルだったけれど、満員御礼。中々評判がいいらしい。ノコギリマンはノコギリっぽかったし、食パンはちゃんと食パンだった。
ふしぎ。
アンコールが終わると、観客はぞろぞろと外へ向かう。
「ね、ねえ、バーネットさん」
オスカーはなんだかそわそわしている。来た時からずっとそうだ。どうしたんだろう。
「あ、あいさつにはいかないの?」
「誰にあいさつ?」
知り合いでも来ているんだろうか。
「あ、ほら。カ、カーラさんとか」
はあ? なんでカーラに?
「どうして?」
「だ、だって同級生でしょう?」
そんなこと言ったっけ? 言ってないよね!?
アリスはじっとりとオスカーを見た。
「せっかくだし、楽屋へ行ったらいいんじゃないかな」
「だから、どうして。べつにカーラとは仲良くないし。学園やめてから会っていないし」
アリスの心にむくむくとひとつの疑惑が浮かんでくる。
「だ、だったらなおさら会いたいんじゃないの? ね? 楽屋へ行った方がいいよ」
しつこい。
「べつに会いたくないです」
アリスはつかつかと足音を立てて劇場から外へ出た。
「待って、待って」
オスカーが追いかけて来る。アリスはぴたりと止まると、振り返った。
「あなた、わたしを利用したんですね」
先ほどまでとは打って変わって、アリスにはなんの表情も浮かんでいない。
「え? 利用って。そんなんじゃなくて、ただカーラたんに会いたいんじゃないかと思っただけだよ。ひさしぶりなんでしょ」
はあ? カーラたんだあ?
なんだこいつ、カーラ推しのオタか! よく、カビを推せるな。
っていうか、だーくんだのカーラたんだのロクでもないヤツばっかり集まってくるな。祟られてんのか、わたし。
やたら大きな袋を持っていると思ったら、ちらっと見えた中身は花束だ。わたしをダシにしてカーラに会って、渡すつもりだったのか。くそう。
「会いたいんなら、1人で行けよ。なんでわたしが一緒に行かなきゃないのよ」
「……会いに行ってもさ、プレゼント渡したらすぐに追い返されちゃうし。もっとお話ししたいんだよ。きみがいっしょに行ってくれたらお話してくれるだろう?」
知らねえよ!
「わたしが行ったところで、そんなにお話しはしないと思うけどね」
「そんなことないだろう?」
あるよ。ありありだよ。アリスが行ったら余計に追い返されそうだ。
「ねえ。カーラへの繋ぎが欲しくて私に近づいたの?」
オスカーはもじもじしながら視線を泳がせた。
「やっぱりそうか。もしかしてドーナッツが好きとか本が好きとかぜんぶ噓?」
オスカーはやっぱりもじもじしている。
「はっきり言いなさいよ!」
「あ、ご、ごめん。そうです」
「なんでドーナッツが好きって知ったの?」
「……立ち聞きして……」
くそが!
「テイスティ&ドリームドーナッツに行きたいって聞こえたから……」
「食堂の相席もわざと?」
「……はい」
「腹立つわぁ。わたしをなんだと思っているのよ。嘘ついて簡単に騙せると思った? バカな女に見えた?」
「い、いえ、そんなことは決してないです」
「ほんとにー?」
「ほんとです。ほんとです。ただちょっと協力してもらえたらなあって思っただけです」
「なにが協力よ、ふざけんな」
アリスはじろりとオスカーを睨んだ。オスカーは首をすくめて小さくなる。
「それで?」
アリスは威圧的に聞いた。
「そ、それで? とは」
オスカーはおどおどと上目遣いにアリスを見た。
「カーラに会えたら、わたしはもう用済みってこと?」
「いえ! 決してそんなこと……」
「そんなことはないの? そもそも、どうするつもりだったのよ。思わせぶりにわたしに近づいて、デートに誘って。わたしはお付き合いを申し込まれるんだと思っていたけど?」
「いえ! そんなことは決してなくて!」
ないのかよ。




