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宮廷女官の婚活事情  作者: 吉田ルネ
file2 オスカー・ベイリー(運輸局事務官)

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2-3



 カーラ・アントワネット。それがカーラの芸名。なんか、大げさだなぁと思う。カーラらしいと言えばそうなのだが。

 そのカーラの役は、食パンでもなくカレーパンでもなく、食パンについたカビだった。ノコギリマンに一瞬で削り取られた。

 黒いもこもこの衣装を着て、「ぎゃあ」と一言言って、転がりながらはけていった。これでいいのか、カーラ。


 人気の原作に安直に飛びついた感じのミュージカルだったけれど、満員御礼。中々評判がいいらしい。ノコギリマンはノコギリっぽかったし、食パンはちゃんと食パンだった。

 ふしぎ。

 アンコールが終わると、観客はぞろぞろと外へ向かう。


「ね、ねえ、バーネットさん」

 オスカーはなんだかそわそわしている。来た時からずっとそうだ。どうしたんだろう。

「あ、あいさつにはいかないの?」

「誰にあいさつ?」

 知り合いでも来ているんだろうか。

「あ、ほら。カ、カーラさんとか」

 はあ? なんでカーラに?


「どうして?」

「だ、だって同級生でしょう?」

 そんなこと言ったっけ? 言ってないよね!?

 アリスはじっとりとオスカーを見た。

「せっかくだし、楽屋へ行ったらいいんじゃないかな」

「だから、どうして。べつにカーラとは仲良くないし。学園やめてから会っていないし」

 アリスの心にむくむくとひとつの疑惑が浮かんでくる。


「だ、だったらなおさら会いたいんじゃないの? ね? 楽屋へ行った方がいいよ」

 しつこい。

「べつに会いたくないです」

 アリスはつかつかと足音を立てて劇場から外へ出た。

「待って、待って」

 オスカーが追いかけて来る。アリスはぴたりと止まると、振り返った。


「あなた、わたしを利用したんですね」


 先ほどまでとは打って変わって、アリスにはなんの表情も浮かんでいない。

「え? 利用って。そんなんじゃなくて、ただカーラたんに会いたいんじゃないかと思っただけだよ。ひさしぶりなんでしょ」


 はあ? カーラたんだあ?


 なんだこいつ、カーラ推しのオタか! よく、カビを推せるな。

 っていうか、だーくんだのカーラたんだのロクでもないヤツばっかり集まってくるな。祟られてんのか、わたし。

 やたら大きな袋を持っていると思ったら、ちらっと見えた中身は花束だ。わたしをダシにしてカーラに会って、渡すつもりだったのか。くそう。


「会いたいんなら、1人で行けよ。なんでわたしが一緒に行かなきゃないのよ」

「……会いに行ってもさ、プレゼント渡したらすぐに追い返されちゃうし。もっとお話ししたいんだよ。きみがいっしょに行ってくれたらお話してくれるだろう?」

 知らねえよ!

「わたしが行ったところで、そんなに()()()はしないと思うけどね」

「そんなことないだろう?」

 あるよ。ありありだよ。アリスが行ったら余計に追い返されそうだ。


「ねえ。カーラへの繋ぎが欲しくて私に近づいたの?」

 オスカーはもじもじしながら視線を泳がせた。

「やっぱりそうか。もしかしてドーナッツが好きとか本が好きとかぜんぶ噓?」

 オスカーはやっぱりもじもじしている。

「はっきり言いなさいよ!」

「あ、ご、ごめん。そうです」

「なんでドーナッツが好きって知ったの?」

「……立ち聞きして……」

 くそが!


「テイスティ&ドリームドーナッツに行きたいって聞こえたから……」

「食堂の相席もわざと?」

「……はい」

「腹立つわぁ。わたしをなんだと思っているのよ。嘘ついて簡単に騙せると思った? バカな女に見えた?」

「い、いえ、そんなことは決してないです」

「ほんとにー?」

「ほんとです。ほんとです。ただちょっと協力してもらえたらなあって思っただけです」

「なにが協力よ、ふざけんな」

 アリスはじろりとオスカーを睨んだ。オスカーは首をすくめて小さくなる。


「それで?」

 アリスは威圧的に聞いた。

「そ、それで? とは」

 オスカーはおどおどと上目遣いにアリスを見た。

「カーラに会えたら、わたしはもう用済みってこと?」

「いえ! 決してそんなこと……」

「そんなことはないの? そもそも、どうするつもりだったのよ。思わせぶりにわたしに近づいて、デートに誘って。わたしはお付き合いを申し込まれるんだと思っていたけど?」

「いえ! そんなことは決してなくて!」

 ないのかよ。


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