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宮廷女官の婚活事情  作者: 吉田ルネ
file2 オスカー・ベイリー(運輸局事務官)

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2-2



 たまたま空いた日に当たったのか、30分で件のテイスティ&ドリームドーナッツに入ることができた。

「ラッキーだったね」

「はいー」

 と返事をしつつも、アリスの目はショーケースにずらりと並んだドーナッツに釘付けである。つやつやのハニーディップ、ピンクが鮮やかなイチゴのコーティング、シナモンがまぶしてあるもの、チョコレート生地のもの、ホイップクリームがサンドしてあるもの。

 わあい、天国だぁ。

 え? 四角いのってなんだろ。


 ……どれにしよう。悩む。

「ぼくはシナモンにしよう」

 オスカーが言った。……一個でいいんですか? わたし、2個頼みにくいじゃないですか。

 アリスは思わず横目でじとりと見てしまった。

「あっ、バーネットさんは好きなだけ頼むといいよ。きみの食べっぷりは見ていて気持ちがいいからね」

 フードファイターみたいな言い方はやめてほしい。


 けっきょく誘惑には勝てず、2個頼んでしまった。ハニーディップと気になった四角いヤツ。ほんとはイチゴのも食べたかった。いや、食べれる。確実に。さすがに遠慮した。

 四角いのはマラサダという。粉砂糖がまぶしてあった。さくさくふわふわでドーナッツとは一味違う。

「おいしーい」

 おいしいものを食べると、ついつい笑っちゃう。もうフードファイターでいいです。だっておいしいから。


「きみはほんとうに楽しそうに食べるね。きみを見ていると、いいかげん飽きているはずの食堂のランチプレートもおいしくなるよ」

「ほうれすか? 毎日おいしいれすよ」

 はぐはぐとドーナッツをほおばりながらアリスは言った。

 ……おや? 向かいに座ったオスカーは、ドーナッツが好きだと言ったわりにイマイチ進んでないな? お気に召しませんでしたかね。自分から誘ったのにな。

 ちょっと気になったけれども、アリスは自分のドーナッツに専念することにした。


「バーネットさんは本読みますか?」

 唐突にオスカーが聞いてきた。

「はい、読みますよ」

「『ノコギリマン』は読みました? ぼく、最近あれにはまってるんですよ」

「ああ、面白いですよね」

 巷で人気のヤツだ。不可抗力でのこぎり型の悪魔と一体化してしまった主人公が、食パンやカレーパンと一緒にばい菌をやっつける愛と勇気と友情の物語。


 ……あんまりロマンチックじゃないな? まあ、デートじゃないし。

 それから、ノコギリマンの話で盛り上がって、ドーナッツを食べ終わったところで解散となった。

長居できる雰囲気ではなかった。「食べ終わったら、さっさと出て行ってね」的な笑顔で、スタッフのお姉さんが見張って(?)いたし。

 アリスたちが来た時より行列は伸びていて、店の入り口には「一時間半待ち」の張り紙がしてあった。

 よかった。ラッキーだった。


「狙われているんじゃなーい?」

 ひさしぶりに食堂で会ったシンシアに、昨今のオスカーがらみの出来事を聞かせると、彼女はにやりと笑ったのだ。

「えー? まさかー」

 アリスだって、もしかしたらそうかな、と思わなくもなかった。

 でもなー。アライグマだしなー。取り立ててカッコよくもない。かといって、避けたいほどブサイクでもない。

「だって、わざわざ声かけて来るんでしょ。だったらそうよ。よかったじゃない、婚活開始早々に見つかって」

 たしかに宮仕えだから将来は保証されているけれども。


 食堂には宮廷勤務の近衛騎士もいる。

 騎士の中でもえりすぐりのエリートである。見た目だってカッコいい。彼らがやって来ると女子がざわめく。

 アリスもあこがれの眼差しを向けていたのだが、ダニエルの一件以来急に冷めた。彼らも自覚しているのだ。一挙手一投足に自信がみなぎっている。

 それが鼻につく。

 なによ、ちょっとカッコいいからって、いい気になって。

 ほとんど言いがかり。

 西の果ての騎士とは違って、中央の騎士ならば騎士道を貫いているはず。なのに、どうも信用できない。


 それに比べたらオスカーはまちがってもそんなことはないだろう。自信がみなぎってもいないし、女子にきゃあきゃあ言われることもない。

 安心かもしれない。まじめそうだし。浮気なんかと縁がなさそう。

 何気にオスカーに対して失礼である。


「アリかもしれないわね」

 アリスがつぶやいた。

「そうよそうよ。とりあえず付き合ってみればいいじゃない。ダメなら別れればいいんだし」

 わたしの扱い、雑じゃないか?

「まあ、いいか」

 そうつぶやいたら、シンシアが「?」な顔をした。

「そうね、騎士はもうこりごりだわ」

 二度とかかわりたくない。そう思っている。


 それから3日後に、今度は食事に誘われた。ランチじゃない。ディナーだ。

「この前のドーナッツのお礼だよ。おいしいお店を知っているんだ。ぜひきみと行きたいと思って」

 この前のドーナッツでだいぶ打ち解けて、敬語が外れた。

「え、お礼ならごちそうしてもらったわよ?」

「それはそれ。これはこれだよ」

 こうやってデートを重ねて「つきあってください」とコクられるのか。大人とはそういうものか。うん、わかった。

「はい、じゃあおねがいします」

 オスカーは「予約しておくよ」とにこやかに去っていった。

 よく見れば、カッコよく見えなくもない。


 わたし、迷走してないだろうか?

 自問自答。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

 頭の中でシンシアが笑っていた。

 オスカーが連れて行ったお店はたしかにおいしいお店だった。

「おいしいお店を知っているんだよ」とオスカーは言ったが、ここはわたしも知っている。というか、王都に住んでいる人ならだれでも知っている有名店だ。安くておいしくて量が多い有名店。家族連れに大人気。食べ盛りの少年たちにも大人気。

 いや、いいんですよ。

 アリスは勝手に隠れ家的な名店を想像していたのだ。いや、あんな言い方をしたらみんなそう思うだろう? 思うよね?

 アリスは馴染みのある料理を、遠慮なくたらふく食べた。


 そしてその次が観劇のお誘いだった。

「ノコギリマンがミュージカルになるんだよ!」

 マジで!? あれをどうやって!? ノコギリや食パンやカレーパンが飛んだり跳ねたりするんだけど。

「劇団オウゴンオニクワガタがやるんだ。すごいだろう?」


 えー。

 オスカーのテンションとは真逆に、アリスのテンションはダダ下がる。劇団オウゴンオニクワガタと言ったら、カーラの劇団である。

 えー、ここへきてまさかのカーラ。忘れてたわ。

 行きたくないな。カーラがいなければ喜んで行きますけれど。カーラはなにをやるのかな。食パン? カレーパン?


「はい、チケット」

 オスカーが差し出した。もう、取ってあったのか。気が早いな。

 ……はあー、行くか。しかたない。


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― 新着の感想 ―
アンパンマンの世界にチェーンソーマンが行ったら無双過ぎるだろ 逆にアンパンマンがあっちに行っても誰も怖がらないからクソザコになりそう
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