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宮廷女官の婚活事情  作者: 吉田ルネ
file1 ダニエル・モーガン(西部騎士団所属)

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1-3



 騒ぎを聞きつけて、支部の中から偉い人が出てきてしまった。

「なんの騒ぎだ。ダニエル・モーガン! 説明しろ!」

 ダニエルの上司らしい。逃げ道はなくなったようだ。厳しい詰問に「あー」だの「いやー」だのと口ごもる。


「申し上げます!」

 ザカリーがびしっと敬礼をした。

「発言を許す!」

「自分は中央騎士団所属のザカリー・スミスであります。休暇を利用して友人ダニエル・モーガンに会いに来たところ、モーガンの浮気現場に出くわしました。こちらはモーガンの婚約者のアリス・バーネット嬢であります」

 ザカリーはぐずぐずと泣くアリスを紹介した。アリスは泣きながらも

「バーネットでございますぅー」

 と名乗った。


「わたしはモーガンの上官であるウィリアムズです。ミス・バーネット、あなたがモーガンの婚約者なのですか?」

「はいぃ、王都を出るときに約束しましたぁ」

 ぐずぐずぐず。

「なるほど」 

 ウィリアムズは少し考えた後、ダニエルに向かって言った。

「わたしはミア嬢が恋人だと思っていたし、わたし以外もそう思っているものは多いと思う。これではおまえが王都に婚約者がいながら、浮気をしていたということになるが、まちがいはないか」


「ちがいます! わたしが恋人なんです! その人は言いがかりつけているだけなんです!」

 ミアが横から口をはさんだ。

「いやいや! た、たしかにアリスと結婚の約束をしました。反故にする気はありません。アリスと結婚します!」

 ダニエルがあわてて言ったけれど、なんだか今さらだ。

「ひどい! だましたのっ!?」

 今度はミアが逆上した。ダニエルはそれを無視した。

「アリス! 信じてくれっ!」

 誰が信じるか。もう収拾がつかない。


「もう今夜は遅い。いったん帰って頭を冷やせ。そして明日の朝、もういちど話し合いをした方がよかろう。わたしが間に入るから、ここに来るように」

 ウィリアムズが言った。そうですね、ダニエルもミアも感情的にになってきたし、まともな話はできそうもない。

「では、わたしたちは宿に戻りますので」

 とザカリーは敬礼をして、それからダニエルに向かって

「明日の朝、また来る。逃げるなよ」

 と突き付けるように言って、アリスたち3人はその場を後にしたのだった。

「アリスー」

 後ろで情けないダニエルの声がしたが、無視無視。




 夜も遅くなってしまった。とにかく何か食べようと、宿の1階にある食堂へ入った。

 雰囲気は食堂というよりパブだ。高級ホテルなら客は貴族やジェントリばかりで品よく食事をするのだろうが、なにせお手頃価格の宿屋の食堂である。ごろつきとは言わないが、品のない酔客も見受けられた。

「手早く食べて部屋へ戻ろうぜ」

 ザカリーが言った。アリスもシンシアももちろん賛成だ。長居は無用。すぐに出てきそうなメニューを選んだ。お酒なんか飲むわけがない。

 部屋には列車の中で食べきれなかったお菓子も残っている。


 そうしてなるべく食堂の隅っこで小さくなってパスタやサラダを食べていたのに。

「おお!? さっきのねえちゃんじゃねえか」

 うわー。アリスは目をつぶった。アリスたちの努力を無視するように声をかけてきたバカタレがいる。しかも騎士の制服を着ている。

「なんだよ、さびしく飯食ってるんじゃねえよ」

 うるせえよ。飯くらい静かに食わせろよ。

 なんて、口に出せず。


「浮気されたんだろう? かわいそうになあ。せっかくかわいいのになあ」

 傷をえぐるな。

 大柄で粗野で酔っぱらいで口が臭い。最悪なやつだ。そんなヤツにかわいいと言われても、ちっともうれしくない。むしろ、かかわるな。見て見ぬふりをしろ。

 っていうか、いっしょにいるヤツらは見て見ぬふりをするな。

 ただでも気分はダダ下がりなのに、これはダメ押しだ。どん底だ。西部最悪。


「ああ、すみませんね。彼女はもう疲れちゃったので、もう部屋へ戻りますから」

 せっかくザカリーが言ってくれたのに

「ああ? 小僧はだまってろよ。おれはこのねえちゃんに話があるんだよ。なあ、ねえちゃん」

 ますます絡んでくる。

 いえ、わたしはありませんがね。アリスは無視をする。


「なあなあ、ねえちゃん? おれがなぐさめてやるよ。一緒に呑もうぜぇ?」

 はいはい、セクハラとアルハラですね。アウトですよ。騎士なのに。

 無視を続けていたら、強硬手段に出てきた。無理やりアリスのイスに座ろうと割り込んできたのだ。

 ぜったいに座らせるものか。アリスは必死に踏ん張って、てこでも動かない。

「おれら、もう帰りますんで、すみません。勘弁してください」

 ザカリーが言った。同じ騎士だから、へたに手を出せないんだろうな。パスタはまだ残っているがしかたがない。足りない分はお菓子で賄おう。

 そう思ってアリスとシンシアは立ちあがった。


「せっかくおれが声をかけてやったんだぜ。無視すんなよ」

 ……おれが声をかけてやったのに? ずいぶんと偉そうだな? 西の果てで疲れ果てていたアリスの胸に、むくむくと怒りがわいてくる。

「嫌がっているのがわかりませんかね」

 ついにシンシアがキレた。

「あ? なんだおまけのねえちゃんか」

 …………。

 はあ? おまけだと? シンシアはわざわざこんな西の果てまでわたしに付いてきてくれたんだぞ。

 それをなんだ!


「西部の騎士はずいぶんと規律が乱れているんですね」

 アリスもキレる寸前。

「あ?」

 口臭さ男もキレた。ヤバい、全員ブチギレだ。おいおい、と仲間たちが止めに入る。お店の人まで「まあまあ」と止めに来た。

「偉そうな口を利くんじゃねえぞ」

 口臭さ男はとうとうアリスの腕をつかんだ。

 ぶつっ。キレた。


「アリスッ」

 シンシアがアリスを引っ張った。ザカリーは引き離すように2人の間に割り込んだ。騎士たちは口臭さ男を羽交い絞めにした。

 お店の人も混じって、本日2度目の修羅場である。いい加減にしてほしいな、西の果て。


「あんたこそ、ずいぶん偉そうな口を利くんじゃないわよっ!」

 アリスはふうっと一息吐くと、一歩近づいた。口臭さ男はデヘデヘと笑いながら「最初っからいうことを聞けばいいんだよ」と言った。その瞬間、アリスの放ったパンチは、彼の鼻っ柱にクリティカルヒットした。


 声もなく白目をむいて崩れ落ちる口臭さ男。

「おいおい、だいじょうぶか?」

 騎士仲間はあわてて支えるが、なにしろでかい図体だ。支えきれずに床に落ちてしまった。

「あーあ」

 と言ったのはシンシアとザカリーだ。

「あんまりふざけたマネをするからよ。あんたたちのことはよーく覚えておくからね!」

 アリスは捨て台詞を吐きながら、シンシアとザカリーに両腕を掴まれて連れ去られてた。

 あとから宿の人が「申し訳ありませんでした」と言って、軽食やフルーツを持ってきてくれた。食事が途中だったから、ありがたい。


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