表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宮廷女官の婚活事情  作者: 吉田ルネ
file3 ロジャー・ダルトン(中央騎士団市中警邏係所属)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/17

3-7


「だってそれが一番丸く収まるじゃないですか」

 ロジャーは平気でそんなことを言う。信じられない。いったい、この事態のどこが丸いのか。

 一同ぽかんである。ロジャーだけがドヤっている。不思議だ。言葉は通じているのに、話が分からない。

「わたしはバカなのかな?」

 思わずアリスが言った。

「いいえ、わたしもバカになったようだわ」

 シンシアも首をかしげた。

「うん、おれも……。いやっ! ちがう! ちがうぞ! だまされるな! バカはおれたちじゃない。こいつだっ!」

 ザカリーがビシッとロジャーを指さした。


「だよねぇー」

 アリスもシンシアも、ほっとしたように息を吐いた。

「よかったあー」


 ……いやいや、ぜんぜんよくない。

 それなら、わたしをなんだと思っているんだろう。エマだって、喜んで妾になるタイプには見えないのだが。


「で、でも、い、いっしょになろうって、いっ言った」

 はじめてエマが口をきいた。消え入りそうな声だ。

「そんなこと言ったの⁉」

 あ、やっぱり、と思った。

「それじゃあ、結婚の約束をしたと思われてもしかたがないですよ!」

 シンシアもそう言った。


「結婚するとは言っていない!」

「「「サイテー‼」」」

 3人の口がそろった。うっうっうっ、とエマはえずき始めた。お母上も涙目でエマの背中をさすっている。お父上はぎりぎりと歯ぎしりをしながら、ロジャーを睨んでいる。

 当のロジャーは悪いとはちっとも思っていないようだ。なぜだ。不思議だ。どんな思考回路をしているのか。


 だいたい、結婚前から恋人がいるなどありえない。たとえ妾を囲う貴族がいるとしても、それは結婚後の話だ。……まあ、たまにいるかもしれないが。

 だとしても!

「まっぴらごめんです」

 アリスははっきりと言い放った。シンシアとザカリーもうんうんとうなづいた。

 ロジャーだけがポカンとしている。だから、それがありえないんだって!


「結婚の話はなしです。破棄です。当然ですよね。もちろんあなたの有責です。では」

 アリスは立ち上がった。シンシアとザカリーも立ちあがる。

「そちらの話は、そちらでどうぞ。わたしに関係ありませんから」

 アリスは残った4人に向かって言った。

「ちょっと待って!」

 止めようとするロジャーを遮って、3人はパン屋の家を出た。玄関の周りには、近所の人たちだろうか、数人が立っていた。アリスたちが出て行くと、ばつの悪そうな顔で、へらへらと笑った。立ち聞きでもしていたんだろう。

 好きに吹聴するがいいさ。

 ロジャーはどう落とし前をつけるのだろうか。


 ……バーカ!

 アリスはパン屋に向かって、思いっきり顔をしかめてみせた。


   ***


 無事に? 婚約は破棄となった。

 ロジャーの両親からは、涙ながらの謝罪を受け、多額の慰謝料も貰った。当然ロジャーも来て謝罪をした。

 たったの数日で、見るも無残にやつれ果てていた。かわいそうに、とは思わないことにする。だってそれだけのことを仕出かしたんだもの。

 2人の乙女心の傷を思い知るがいい。


 ロジャーの市中パトロールの担当区域が6番街で、パトロールの最中にエマと知り合ったらしい。かわいらしい子ではあった。

 騎士には貴族だけじゃなくて平民もいる。ただの市民ではなれないが、裕福な家の子とか、商家の子とかは入れる。

 ロジャーは身分を言わなかったので、金持ちの平民の息子だと思われたらしい。

 確かめろよ。

 確かめもせず、うやむやに流されるから、こんなことになるのだ。いくらイケメン騎士だからって、のぼせ上っちゃいけない。


 結局エマにもそこそこのお金を渡して、別れさせたらしい。

 エマ、かわいそうに。婚約者のいる騎士と付き合って、破談にさせた。なんて言われるんだろうな。大っぴらにキスなんかしちゃったもんな。

 この先、まともな恋愛ができればいいのだが。

 ちなみに、貰った慰謝料で例のサブレの詰め合わせを買った。買ってやけ食いした。


   ***


「また、ひどい目にあったね」

 噂が巡るのは早い。ハワード室長の耳にもさっそく届いたようだ。

「……はあ」

 返事もめんどくさい。

「ダルトンは西の果てに飛ばされることになったよ」

「また西の果てですか」

 ハワード室長は苦笑した。

「騎士の信用を損なう重大インシデントだからね」

「え! そんなにですか」

「もちろん! 担当地区の女の子に手を出した挙句に、ほかの女性と何食わぬ顔で結婚し、妾にしようとしたんだからね」

 改めて言葉にされると居たたまれない。

「はあ、そうですね」


「騎士団全体の信用問題だからね」

「そうですね。西の果てって、浮気者の墓場ですかね」

 ハワード室長は、くっくっと笑った。

「ほら、厳しい団長に代わったから。だいぶしごかれるんじゃないかな」

「そうですね。エマさんの気持ちを考えて、どん底に落ちればいいと思います」




「きみはどうなの?」

 聞かれて改めて思う。

 あれ? わたしはどうかな?

「だまされて悲しくはないの?」

 ……悲しくはなっかたな。どっちかっていうと、怒り狂ったというか。

 ロジャーに対しても、それほど思い入れはなかったような気がする。


「きみはなんのために結婚するのかな? そんな相手と結婚して、この先幸せなのかな?」

 幸せってなんだっけ。

 アリスは首をかしげた。

 あれ? どうして結婚を急いだんだっけ? そんなに急いで結婚する必要あったかな?

 見上げたらハワード室長は、いつもと違って真剣な目でアリスを見ていた。

 じっと見つめられて、ドキドキしてしまった。


 あ、あれ? なにかな、この感じ。

 ハワード室長は、ふっと気を緩めるといつものように穏やかな口調に代わった。

「ちょうどいい機会だ。少し考えてみたらどうかな? それに相手なんて、わざわざ探さなくてもその辺にいるかもよ。灯台下暗しってね」

 そう言うと「はい」とアリスの手に小さな紙袋を乗せてくれた。


 アリスはそっと中をのぞいて見た。

「あっ、これはデニスの琥珀糖ではないですか!」

 今、美しいお菓子と評判の琥珀糖である。ガラスの瓶に、海を思わせる青や緑の透明な琥珀糖が詰められている。

「わ、わたしのためにわざわざ買ってくれたんですか⁉」

 アリスはお茶らけてそう言ったのだが。


「うん、そうだよ。きみのために買ったんだよ」

 ハワード室長にそう言い返されて、返事に詰まってしまった。

「や、やだー。またまたぁ。いつもみたいについでですよね」

 ハワード室長は、ふふっと笑って「さあ、仕事だよ」と言って席に着いた。

 こ、これは、どう受け取ったらいいんだろう。

 ばくばくする心臓を抱えたアリスは、午前の仕事をこなすのに必死だった。


これにて「file3 ロジャー・ダルトン(中央騎士団市中警邏係所属)」おしまいです。アリスの婚活は続くのか。ハワード室長の意図は?

楽しみにお待ちいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ