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宮廷女官の婚活事情  作者: 吉田ルネ
file3 ロジャー・ダルトン(中央騎士団市中警邏係所属)

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3-6


「まあ! こちらの小娘、じゃなくてお嬢さまのお父上でいらっしゃいますの? わたくし、こちらにおりますロジャー・ダルトンの婚約者アリス・バーネットですわ」

 口を開こうとしたロジャーを制して、アリスはいち早く名乗り出た。ロジャーは「しまった」という顔をしたが、時すでに遅し。


「な、なんですと? こ、婚約者?」

「はい、わたくしが、婚約者でございますのよ」

 聞き慣れない令嬢言葉に、「お父上」は腰が引けている。

「こ、婚約者とはあの婚約者でございますですか」

「ええ、あの婚約者ですわ」

 アリスはつんっとあごを上げた。


「い、いやいや。こっこっこっ、これには訳が……」

 ロジャーは、あたふたと言い訳をしようとした。こっこっとうるさいな。ニワトリか! 

「ど、どういうことだ! ロジャーさんっ!」

 相手が貴族、ということも忘れて、お父上はロジャーにつかみかかった。


「あらやだ。平民が貴族に狼藉を!」

「警邏隊を呼んだ方がいい!」

 ギャラリーから非難の声が上がった。こいつが警邏隊だがな、といじわるくザカリーがつぶやいた。

はっと我に返ったお父上は、あわてて手を離した。

「す、すみません、ロジャーさん。みなさん、中へお入りください。ここではなんですから」

 わたくしは、ここでも構いませんことよ? なんてアリスは思ったが、ザカリーとシンシアにうながされて、一同はパン屋へ入っていった。


 店の奥が居住スペースになっていて、こじんまりとはしているが、温かみのある居心地のよさそうな家である。焼き立てのパンの匂いが、家じゅうに沁みついているようだ。

 通されたダイニングでは、テーブルの上に4人分の料理が乗っていた。お父上とお母上と小娘と、そしてロジャーの分。

「あらまあ、あなたもこちらで召し上がる予定でしたの?」

 わざとらしくアリスが聞いた。

「あ、うん。いや、そうじゃなくて」

 どっちだよ!


「構わなくってよ」

 偉そうにアリスが言った。

「でも、さすがにこのままというわけにはいきませんでしょ? 帰ったら両親に話しますわ。もちろんダルトン伯爵にも」

「ま、ま、待ってくれないか」

「待ったら、なにかありますの?」

「いや、そうじゃなくてせっ、説明を。そう! 説明をするからっ!」

 この期に及んで、なにを説明するというのだ。まったくもって厚かましい。


 アリスはこの時になって、はじめて小娘の顔を見た。小柄でちんまりとお母上の隣に立っている。さすがにロジャーからは離れたが。真っ青になってぷるぷると震えている。

 そんなにわたし、怖かったですかね。

 アリスはそれにもムカついた。ここにいると、自分が悪者みたいだ。権力を振りかざして、弱い平民をいじめるお貴族様。そんな構図がすでに成り立っている。

 理不尽だ。非常に腹が立つ。被害者は自分なのに。


 お父上が勧めてくれたので、アリスたち3人は遠慮なくイスに腰かけた。小さなダイニングテーブルで、イスは4つしかない。ザカリーがイスを一つ引っ張って来て、3人はならんですわった。

 パン屋の親子は立ったままで、ロジャーは中間のあたりに立っている。見た通りの微妙な立場(笑)。

 ロジャーはずっとおろおろしている。イケメンが台無しだ。がっかりが募っていく。アリスはため息をつきたくなった。


「じゃあ、その説明とやらを聞きましょうか」

 アリスはイスにふんぞり返った。

「う、うん……」

 ロジャーはそう言ったっきり、なかなか話し始めない。

「さっさとしてくださる?」

 都合が悪くなると黙り込むとか、ありえないんだけど。アリスの眉間のシワが深くなっていく。なんなんだ。往生際が悪い。もうバレてしまったんだから、潔く白状しやがれ。


「エマは平民だから、ぼくとは結婚できない」

 ほう。小娘はエマというのか。っていうか、結婚できないのに堂々と付き合っていたのか。当のエマは、涙を溜めてスカートをぎゅっと掴んでいる。

 そりゃあ、そうだよね。往来でキスまでしていたのに、結婚できないなんて言われて。見ている人だって、たくさんいたのに。しかも昨日今日の話じゃない。ずっとこうやって付き合っていたのだろうに。

 これじゃあ、貴族に遊ばれて捨てられたみじめな娘だ。

 ちょっとかわいそうになってきた。


「それに両親にも交際は反対された」

 でしょうね。

「ちゃんとしたご令嬢と結婚しろと急かされるし」

 でしょうね。

「だから、結婚はしようと思った。それで相手を探すために婚活パーティーに参加したんだ」

 ……どういうこと?

 ロジャーは脂汗を流しながら話した。


「アリスと結婚して、エマは恋人として付き合っていこうと思った」

 一瞬間をあけて、エマのお父上がロジャーにつかみかかった。

「なんだと⁉ うちのエマを妾にするってのか⁉」

 そういうことですよね。お父上が逆上するのも無理はない。

 エマはとうとう泣き出してしまった。ところで、あなたは結婚するつもりだったんですか?


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