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宮廷女官の婚活事情  作者: 吉田ルネ
file3 ロジャー・ダルトン(中央騎士団市中警邏係所属)

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13/15

3-4


 それは、いったいどういうことだろう?


「その恋人って、いつから?」

 口を噤んでしまったアリスに代わって、シンシアが聞いた。さすがシンシア様、頼りになる。

「あんまりくわしくはないけど、ずいぶん前からだと思うぜ」

「ひと月、ふた月の話じゃないのね?」

「そうだな。おれが聞いたのも去年だ」


「そんなに前から……」

 アリスの目が虚ろだ。意識があらぬ方向へと飛んで、体がゆらゆらと揺れている。「ちょっと! しっかり!」とシンシアがアリスの肩を掴んで揺する。首がゴキッといきそうで、ザカリーははらはらする。

「あのね、アリスはそのロジャー・ダルトンと結婚の約束をしたのよ。両家も了承済みで、結婚式の手配も済んでいるのよ」

「な、なんだって――‼」

 せっかくシンシアが声を潜めたのに、ザカリーが絶叫して台無しにしてしまった。


「ん“ん”っ」

 咳ばらいをされた。たぶん上司だ。

「あ、ヤバい。もうちょっとで終業だから、ちょっと待っててくれるか。ゆっくり聞くよ」

 ザカリーがそう言って、アリスとシンシアは近くのカフェで待つことにした。30分ほどで、ザカリーは息を切らしてカフェに飛び込んできた。


「なになに? どういうことだよ?」

 彼は座るなり、前のめりに聞いてきた。

「はあ、あのね」

 まったり甘くてあたたかいミルクティーを飲んで、遠くへ行っていた意識が戻ってきたアリスは、ため息を一つついて話はじめた。

「婚活パーティーで出会ったのよ。総務局主催のヤツ」

「ああ、あれか」

「だったら結婚相手を探しているのでしょう? じゃなきゃ来ないわよね」

「そうだな」

「そこからお付き合いが始まって、結婚の申し込みをされて、うちの両親にもちゃんと結婚したいとあいさつをして、わたしもダルトン家にあいさつをしたのよ?」

「そりゃあ、本決まりでまちがいないな」

「そうよねえ⁉ わたし、間違ってないわよねえ⁉ 勘違いじゃないわよねえ⁉」

 ついつい声が大きくなる。

「わかったから、落ち着けよ」

 シンシアとザカリーが2人がかりでなだめる。


「どういうつもりだろうな? 例の恋人と別れて、結婚を考えたのならわかるが……」

「そっちはそっちで継続中ということね。つまり二股だ」

 シンシアが容赦ない。アリスはもう「二股」恐怖症だ。

「またか」

 ザカリーも容赦ない。メキメキメキ。アリスの手の中で、ティーカップが嫌な音を立てた。


「またーっ⁉ まただとぅ⁉ ぐあぁーっ‼」

 アリスが限界突破したようだ。どうどう、とシンシアが背中をさする。

「はっきりさせなくてはいけないわね」

 シンシアが言った。

「そうだな。向こうの親はどういうつもりなんだろう。二股を知っているのか、いないのか。もし知っているのなら婚約破棄ものだぞ」

「こ、婚約破棄?」

 アリスは、ふすーふすーと鼻息を吐いている。

「そうだぞ。このまま結婚なんてできないだろ?」

 そうか、そうだな。それは絶対に無理だ。


「どうする? 現場に乗り込むか?」

 またですか。西の果ての悪夢がよみがえる。

「だいじょうぶよ! わたしたちがついてるから!」

 シンシアが両手でグーを握った。それも心強いのか? 

「ねえ、その平民の小娘、どこの家かわかる?」

「いや、わからないな。あ、ちょっと待て。聞いてくる」

 ザカリーはそう言って、カフェを飛び出していった。いったい、なにをしに行ったのやら。待つことしばし。10分ほどでザカリーは戻ってきた。


「わかったぞ。ダルトンと同じ係のヤツに聞いてきた」

 騎士団まで戻って聞いてきたらしい。

「6番街のパン屋の娘だと。行ってみるか? 今なら現場を押さえられるかもしれないぞ」

 たしかに2人は今デート中だ。

 う、ううー。アリスはうめいた。はっきりさせなくてはいけないのはわかる。わかるが、いいのか。せっかく決まった結婚を両親もあんなに喜んでくれたのに。またがっかりさせてしまう。


「なに言ってるのよ! このままじゃ泣き寝入りよ! そんなのご両親だって喜ばないでしょ! こんな不誠実な男じゃ、アリスだって幸せになれないじゃないの。焦ってクズを掴んじゃダメよ!」

「そうだぞ、アリス。見切ることも大事だぞ!」

「そ、そ、そうよね。そうだわ」

 じゃあ、行こう! と2人に急かされるようにアリスは立ち上がった。


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