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宮廷女官の婚活事情  作者: 吉田ルネ
file3 ロジャー・ダルトン(中央騎士団市中警邏係所属)

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3-3


 まあ、そんな些細なことはどうでもいい。ともあれ、これで一安心だ。

 アリスもアリスの両親もほっと胸をなでおろした。これで行き遅れにならずにすむ。しかもお相手は中央騎士団の騎士だ。いわば騎士の花形。西の果てに飛ばされた浮気者とはわけが違う。もし会うことがあったら、自慢してやろう。

 新婚旅行で西の果てに行くのはどうだろう。ダニエルのついでにミアにも自慢してやろう。

 せいぜい、西の果てのいなかで、つまらん見栄を張っていればいいさ! 

 はーはっはっは!


「どうしたんだい? 急に笑い出して」

 おっと、ランチの時間だった。食堂でロジャーと二人で食事をしていたのだった。ロジャーに見惚れていたら、ついよからぬ想像をしてしまったのだ。

「いいえー、ちょっと思い出し笑いですぅ」

 半年後くらいの結婚式を目指して、絶賛準備中である。結婚式とウェディングドレスの準備。一口にウェディングドレスといっても、ヘッドドレスや靴、ブーケにアクセサリーと決めることはたくさんある。

 それに新居。新婚向けのこじんまりとした屋敷を、ダルトン家が用意してくれることになった。もちろん家具をはじめ、カーテンにリネン類、花瓶などの装飾品、食器類もそろえなくては。


 たいへーん。なんて言いながらも、アリスはにやけてしまう。

「あっ、そうだ。今週の日曜日、展覧会に行きませんか? 古代文明展。人気なんですよー。友だちがチケットをくれたんです」

 シンシアが「デートに行ってきなよ」と2枚くれたのだ。アリスとしては、それほど古代文明に興味はないけれど、ロジャーと一緒に行くのなら、古代だろうが現代だろうが喜んで行く。


「あー、ごめんよ。日曜日は用事があってね。来週は空けておくから、それでもいいかな?」

 ロジャーは申し訳なさそうに、眉尻を下げた。ちょっとがっかりだ。でも会期はまだある。

「残念。じゃあ、来週は行きましょうね」

「うん、楽しみにしているよ」

 にこ!

 にこ!


 というのが、水曜日の話。そして今はその日曜日の午後である。

 先日の高額出費のせいで金欠の昨今、買い物はできないが見るくらいならしてもいいだろうと、街中をぶらぶらとしていたのだ。すてきなハンカチを1枚買って、店から出てきたところだった。

 レースの縁取りがあって、角に小花の刺繍がしてあって、デートの時に持っていたらきっとロジャー―も「センスがいい」と思ってくれるはず。そんなすてきなハンカチだ。気分は上々で出てきたのに、目に飛び込んできたのは件のロジャーだった。しかも隣には見知らぬ女子が!


「えーと。あれは誰なのかな?」

 通りの反対側で、ロジャーはこちらに気づいていない。

 しっかりと腕を組んでいるんですが。

 2人とも満面の笑みで、見つめ合いながら歩いているんですが。

 キスしそうなくらい顔が近いんですが。

 それは、ただの知り合いではありませんよね。

 どうみても恋人なんですが。

 あっ、キスした……。チュッて。


 …………えー。

 呆然と突っ立ているうちに、2人は遠ざかって行ってしまった。

 …………えー。

 わたしたち結婚するんですよね?

 結婚するわたしの外に、そんなに馴れ馴れしい女がいるんですか?

 ……二股?

 また? またまた二股?


「シンシア」

 思わずつぶやいた。

 そう! シンシアに言わなくちゃ! 困ったときのシンシア様!

 アリスはシンシアの屋敷に向かって走りだした。




「どうしたの⁉」

 シンシアは屋敷にいた。よかった。半べそで息を切らしたアリスを自室に招き入れると、薫り高いお茶を淹れてくれた。それから甘―いファッジも。

「さあさあ、お茶を飲んで、いったん落ち着こうか」

 シンシアが背中を撫でてくれる。震える手でカップを持って、ふーふーと息をかけるが、ちょっと飲めそうもない。体まで震えている。

 そんな様子を見たシンシアは、アリスの手からそっとカップを取る。


「話せる?」

 しばらく、だまって背中を撫でられて、ようやく震えが収まってきた。

「ロ、ロジャーを見かけたの」

 消え入りそうなか細い声で、アリスはさっき見たことを話し始めた。


「…………また?」

 聞き終わったシンシアが言った一言がこれである。

「またって言うな。またって」

「でも、どう考えてもそうよね?」

「やっぱり、そうよね⁉ そうだよね⁉」

 このときになって、アリスはロジャーの母親が言った「町娘」の意味がわかった気がした。あれは平民の娘だった。ずっとあの娘と付き合っていたのだ。

 じゃあ、わたしは? わたしと結婚するのはなぜだろう?


「アリス! さあ行くわよ!」

 シンシアが立ちあがった。

「ど、どこへ?」

「決まっているじゃない。ザカリーのところよ!」

 困ったときのザカリー様。アリスはファッジをひとつ、口に入れるとシンシアに続いて部屋を出た。


 ザカリーはこの日日勤で、騎士団の詰め所にいた。

「お? ひさしぶりだな? どうした?」

 なにも知らないザカリーの能天気っぷりが気に障る。なにも知らないのだから仕方がないが。

「ねえ! ロジャー・ダルトンって知ってる?」

 シンシアが直球で聞いた。

「ああ、知ってるよ。係が違うから話したことはないが、顔はわかる」

「そう。彼についてなにか知ってる? 恋人のこととか結婚のこととか」

「あー、なんか平民の恋人がいるらしいな。結婚しようとしたらしいが、親に反対されたとか」


 はあぁぁー⁉


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