3-2
嫌だと言うわけにもいくまい。下っ端とはいえいちおう貴族令嬢。社交辞令的な笑みを浮かべて、どうでもいい話をさらっと受け流す。
どんな食べ物が好きですか、とか、休みの日はなにをしていますか、とか。
イチゴのタルトが好きですー、とか、読書ですー、とか、いかにもな女子っぽい答えをさらさらと口にしていく。
おお、なんて恐ろしいネコっかぶり。
ちょっと気分がいいなと思ったのは、イケメン騎士、しかも一番人気が自分から話しかけたのがアリスだけだったから。
(えー? あの子が本命なの?)
(なんでー? わたしのほうがかわいくない?)
周囲のそんな思惑がありありと伝わってくる。ちょっと優越感に浸れた。
見る目あるじゃないの、イケメン騎士。なんて思ったりして。ちょっとくらい浮かれてもしかたあるまい。
だから、帰り際につい所属先を教えてしまったのだ。
翌日、さっそくお誘いが来た。「軽く晩ごはんでも」という軽いノリだ。そのほうがこちらも助かる。いきなり高級レストランでディナーなんて、ハードルが高い。なにしろ下っ端の貴族令嬢なので、そういうのに慣れていない。割り勘なら財布がキツイ。平気で奢られるほど図々しくもない。
「高級レストランじゃなくてごめんね。騎士の給料じゃなかなか贅沢はできなくて……」
ロジャーが申し訳なさそうに目を伏せた。とはいえ、連れてこられたのはおしゃれでおいしいと女子に人気のレストランだ。
お手頃なビストロで、ワインなんか飲みながらお肉のグリルやサラダをシェアしていただく。大衆的なお店ながら、味は確か。そんなお店のセレクトも好感度高し。さすが中央騎士団。西の果てのやつらとはちがう。
価値観が同じ。これ大事。
何度かデートをして、アリスも「このイケメン騎士は悪くない」と思ったところで、
「結婚を前提にお付き合いをしてほしい」
と申し込まれた。性格、人間性、将来性、収入、諸々鑑みても、これはいいんじゃないだろうか。いいどころか優良物件かもしれない。
「はい、よろこんでー」
早めに確保だ。
騎士にもいい人はいるものだ。
ロジャーは伯爵家の3男である。伯爵家はもちろん長男が継ぐ。継ぐ家のないロジャーは騎士として身を立てていくつもりだと話した。
なるほどイケメンの割に堅実である。
「それでね、そろそろきみのご両親にごあいさつをしたいんだよ。きみにもぼくの家族を紹介したいし。いいかな?」
週一のペースでデートを重ね、1か月たった時だ。
とうとう! このときが!
心の中の「ひゃっほう!」は押し隠しつつ、
「ええ、もちろんです」
と殊勝な顔で答えた。
にこ!
にこ!
顔を合わせて微笑み合う。猫っかぶりは継続中。
婚活2回目にして、成功か?
***
そうして迎えたダルトン家訪問の日。
この日のためにアリスは、派手過ぎず地味過ぎず、親世代への好感度爆上がりのドレスを新調した。王室御用達の百貨店の人気ブランドである。「彼ママウケ、まちがいなし」なんてうたい文句が目にまぶしい。
もちろん手土産も抜かりなく。人気のパティスリーのサブレの詰め合わせ。きれいな箱に、色とりどりのサブレがきっちりと並んでいる。
なんとこのお店のサブレは、ピンクのイチゴ味や緑のピスタチオ味、シックな茶色のチョコレート味なんかがあるのだ! なんてステキ! かなりお高いが、さぞやロジャーのおかあさまも喜んでくれるだろう。
出費は痛いが、将来への投資である。
よし! いざ出陣!
「まあまあ、なんてかわいらしいお嬢さんなのかしら」
がんばった甲斐があって、おかあさまのウケはよかった。安心した。
お持たせのサブレは引っ込められてしまった。あわよくば食べられるかもと思ったのに残念。ご自宅用にはなかなか買えない値段だもの。
おとうさまもおかあさまも、跡継ぎのおにいさまとその奥さまも、とてもいい人たちだ。
「よかったわぁ、こんないいお嬢さんを見つけて来て。とっても心配していたのよー。そこらの町娘なんかに「母上!」
なごやかだった応接室の空気が一瞬凍った気がした。
あれ? なにかな、この雰囲気。
「あっ、ああ。そうね。よかったわぁ。いいお嬢さんがお嫁に来てくれて」
おかあさまが慌てたように言った。なにか取り繕っている気がするが。
「そうだね、これでわたしたちも安心だ」
おとうさまもそう言った。まだ嫁に来てはいないが。
「新居を用意しなくてはね。どのへんがいいかな? やっぱり騎士団の詰め所の近くがいいかな。そうだな、それがいい。あまり遠回りはよくないからなっ!」
遠いとなにか都合が悪いのかな? てか、もう新居の話? 展開が早い。
「まあまあ、父上も母上もあわてないでくださいよ。ものには順番があるんですから」
ロジャーがとりなしている。
「そうよねぇ。先に結婚式だわ。教会に予約しないとね。さっそく神父様に聞いてくるわね」
おかあさまは、立ち上がる。ええ? 今から?
「母上! 落ち着いて!」
そんな、バタバタした雰囲気で、ごあいさつは終了した。
これでよかったのか?
なんか、ちょっと不思議なかんじだった。




