第9章迫る影と囁き
山道の先、岩が折り重なる斜面をカイとセラは息を切らしながら駆け抜けた。
背後の地鳴りは途切れることなく、闇の主の触手が森を押し潰す音を伴って迫ってくる。
「……まだ、来る……!」
カイは刃を握り直す。手が震え、血の気が引く。だが、振り返るわけにはいかない。
「カイ、右! 倒木がある!」
セラが叫び、二人は瞬時に身をかわす。
その時、斜面の陰から光が差した。
白く、冷たい光。影の群れを切り裂く閃光が走り、触手が一瞬のうちに散った。
「リィナ……!」
カイの声が思わず漏れる。リィナが、闇の主の前に立ち塞がっていた。
その背中には深い傷が走り、息は荒い。だが、目は鋭く、闇を睨みつけている。
「逃げろ……今のうちに、方法を……!」
リィナの声はかすれていたが、必死に伝えようとする意志が滲んでいた。
触手が再び伸びる。リィナは全身で受け止め、光の刃で闇を裂く。
弾かれた衝撃でカイは地面に転がり、セラも膝をつく。
「カイ、セラ……あの光……手順を覚えろ……!」
リィナは身を挺して、闇の主を一時的に食い止める。
その短い間に、彼女は独特の印を描き、儀式のような動作を始めた。
「……リィナ、なんだあれは……?」
セラは恐怖と驚きで声を震わせた。
「秘密だ……だが、主を封じる唯一の方法だ……!」
リィナは叫ぶと、疲労で崩れ落ちそうになる身体を必死に支えながら、二人に仕組みを伝えた。
手順は複雑だが、要点だけは頭に叩き込めた。
その時、闇の向こうから影が動いた。
黒衣の人物が崖の上に立ち、月光に照らされる。リィナの関係者――かつて彼女と同じ組織に属した戦士であるらしい。
「あなたたち、時間はない!」
その声は低く、強く、緊迫感を伴う。
「私が援護する、二人は逃げるんだ!」
カイとセラは言葉に促され、リィナの指示通りに動く。
その間も、リィナは闇の主の攻撃を食い止め続け、瀕死寸前の状態で二人に封印の手順を伝え続けた。
「覚えたか……? 忘れるな……!」
リィナの声が風に消える前、カイはうなずき、セラも必死にその方法を頭に刻み込む。
やがて、黒衣の人物が闇を遮るように立ちはだかり、カイとセラは安全な距離まで逃げ延びた。
背後でリィナが最後の力を振り絞り、光の刃を振るう。闇の主の体が一瞬揺らぎ、退いた。
「……行け……二人で……」
リィナの声がかすれ、体が崩れ落ちる。だが、確かに希望の道筋が見えた――
主を倒す方法は、二人の手に渡ったのだ。




