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第8章振り返るな

リィナの背が、闇の中に溶けていく。

カイは喉の奥が焼けるような感覚に襲われた。

逃げるなんて――そんなの、許されるのか。


「カイ!」

セラが腕を掴み、引き寄せる。

その力は、小柄な彼女からは想像できないほど強かった。

「今は……生きるのが正解だよ!」


影の群れがリィナを包み込み、数えきれない触手が襲いかかる。

白光の閃きが闇を切り裂き、断末魔のような音が森に響く。

それでも、闇は形を保ち続ける。


「……くそっ!」

カイは振り返りそうになるたび、セラに腕を引かれた。

その度に、心の奥で何かが軋む。


リィナの声が聞こえた気がした。

――振り返るな。


二人は森を駆け抜け、何度も倒木や崩れた岩場を飛び越える。

背後からは、地鳴りと咆哮が途切れることなく追いかけてきた。


やがて、森が途切れ、小川のほとりに出る。

セラはそこで足を止め、膝に手をついて息を整えた。

「……リィナ、まだ……」


その瞬間、地平線の向こうで、白光が弾けた。

闇の塊を突き破るような閃光――リィナの刃だ。


「……やっぱり、強いな」

カイは呟きながらも、その光が徐々に弱まっていくのを見逃さなかった。


「カイ、行くよ!」

セラは川を渡り、さらに奥の山道へと駆ける。

その顔は必死だったが、瞳の奥には悔しさが滲んでいた。


森の中で、最後の白光が消える。

その後に訪れたのは、圧倒的な静寂――そして、再び迫る地響きだった。


「……まだ追ってくる」

カイは刃を握り直す。

逃げ切れる保証はない。だが、今は進むしかなかった。

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