第3章金の瞳、闇を裂く
カイは駆けた。
だが、妹の亡骸を踏みにじろうとする兵士たちの背後――そこに立つ男の存在感が、全身を重く縛り付ける。
銀の髪が月を浴びて揺れ、金の瞳がまっすぐにこちらを見据えていた。
その視線は、肉を裂く刃よりも鋭く、心の奥を抉るようだった。
「来たか……」
低く、重い声が響く。
次の瞬間、周囲の兵士たちが一斉に動き、二人を包囲した。
カイは短剣を逆手に構え、セラは弓を引き絞る。
だが、兵士たちの動きは一様に滑らかで、わずかな隙もない。まるで同じ意識で動いているかのようだ。
「……お前たちは、人間じゃない」
カイの言葉に、“主”はわずかに笑みを浮かべた。
「よく気づいたな。だが遅い」
その瞬間、金色の瞳が妖しく輝き、兵士たちの身体が黒い靄に包まれた。
靄が晴れると、そこには歪んだ人型の魔物が立っていた。長く伸びた四肢、牙を覗かせる口、そして人間の面影を微かに残した顔。
セラが息を呑む。
「……擬態魔物……!」
魔物たちは咆哮とともに飛びかかってきた。
カイは二体を斬り払い、セラは矢で一体の眼を射抜く。だが倒れたはずの魔物は、再び立ち上がる。
致命傷が通じない――。
「無駄だ。私の眷属は、人の理では倒せぬ」
“主”はゆっくりと歩み寄り、手をかざした。
次の瞬間、大地が爆ぜた。
土と石が宙を舞い、衝撃波が二人を吹き飛ばす。カイは地面を転がりながら必死に踏ん張るが、全身に鈍い痛みが走る。
セラの肩からは血が流れていた。
「……何者だ、お前」
震える声でカイが問う。
“主”はわずかに首を傾げ、月明かりの中で微笑む。
「名など忘れた。ただ――この地を喰らい尽くす者だ」
その言葉とともに、周囲の魔物たちが再び飛びかかる。
カイはセラを抱え、咄嗟に後方へ跳んだ。背後で魔物の爪が大地を抉る音が響く。
圧倒的な力の前に、二人は退くしかなかった。
だが、カイの胸の奥では、別の炎が静かに燃え上がっていた――。
(必ず、あいつを……)
「……擬態魔物……!」の読み方→(カエナヅチ)




