第2章終わり
夜の森を、二人は音もなく駆ける。
地面は湿り、滑りやすく、時折根が足を取る。だが立ち止まれば、それが死を意味することを二人とも理解していた。
――ザッ、ザッ、ザッ。
背後から迫る複数の足音。
たいまつの光が木々の間を揺れ、追手の影が次第に大きくなる。
「数が多い……!」
セラが息を切らせる。
「構うな、前だけ見ろ!」
カイは振り返らず、妹を埋めた方向へひたすら進む。
不意に、右前方の茂みが爆ぜた。
黒牙団の兵士が飛び出し、長槍を構えて突進してくる。
カイは咄嗟に腰の短剣を抜き、槍の刃を逸らすと同時に兵士の胴を蹴り飛ばした。
「止まるな!」
叫びながら再び走り出す。だが、兵士は人間離れした動きで起き上がり、追撃を続けてくる。
(こいつら……人間じゃないのか?)
よく見ると、兵士の首筋に黒い紋様が浮かび上がっている。それは脈動するように形を変え、まるで生き物のように蠢いていた。
次の瞬間、森全体が低く唸った。
いや――唸ったのは森ではない。あの“主”だ。
「……逃がすな」
その声が空気を震わせた瞬間、周囲の兵士たちが一斉に速度を上げた。
人間の脚力ではない。地面を蹴る音が、獣の跳躍のように鋭い。
セラが矢を放つ。一本は額に命中したが、兵士は倒れず、そのまま突進してくる。
「嘘だろ……!」
「カイ、左に!」
二人は進路を変え、急斜面を滑り降りる。背後で兵士の一人が足を滑らせ、木に激突して崩れ落ちた。
しかし残りの足音は、なおもぴたりと追いすがってくる。
やがて、妹を埋めた場所が見えた。
だがそこにはすでに、三人の兵士が立っていた。
足元の土が掘り返され、何かを引きずり出そうとしている――。
カイの視界が赤く染まった。
「やめろォォォ!!」
次の瞬間、背後から凄まじい圧力が襲いかかる。
森の奥、月明かりの下に、“主”の影が現れていた。
その金色の瞳が、静かに輝きを増していく――。




