第2章闇に立つ主
夜は深まり、森の空気は冷たく張り詰めていた。
カイとセラは小高い丘の上から、黒牙団の集結地点を見下ろしている。そこでは兵士たちが、たいまつの炎に照らされて整列していた。
そして――その中央に、ひとりの男が立っていた。
長身で、漆黒の外套を纏い、月明かりを受けて銀の髪がかすかに輝く。
整った顔立ちだが、笑っているわけでも怒っているわけでもない。無表情の中に、得体の知れない威圧感が漂っていた。
「……あれが、“主”?」
セラが小声で呟く。
カイは頷きかけたが、その瞬間、男の瞳がこちらを向いた。
遠すぎて見えるはずがない距離。だが、確かに視線が交わった。
心臓がひとつ、大きく跳ねる。
その瞳は――人間のものではなかった。
月光を反射して淡く金色に光り、瞳孔が獣のように縦に裂けている。
「……魔物だ」
カイが呟いた。
“主”は静かに手を上げ、兵士たちに何事か命じた。
次の瞬間、兵士たちは一斉に散開し、森の中へと姿を消していく。
まるで、獲物を追い詰める群れのように。
「カイ、まずい……!」
セラが息を呑む。彼らが向かっている方向は――妹の亡骸を隠した場所だ。
カイは迷わなかった。
「走るぞ。あいつらに妹を踏みにじらせるわけにはいかない!」
二人は斜面を駆け下り、枝を払いながら森を突き進む。
背後では、低く響く笑い声が聞こえた。
“主”の声だ。人間の喉から出る音ではない、不気味な共鳴音――。
その声が告げていた。
「逃げろ……だが必ず、私の手で仕留める」




