第1章終わり
松明の列は、異音のした方向へとゆっくり動き出した。
だが完全に背を向けることはなく、二人が潜む茂みの方へも、時折兵士の視線が刺さってくる。
カイは息を殺し、セラの肩を軽く押す。少しずつ、音を立てずに後退するためだ。
「……行こう。このままじゃ挟まれる」
「でも、追ってきたら――」
「追わせない。森は俺たちの方が知ってる」
月明かりに照らされたセラの瞳がわずかに揺れる。
妹を失ってから、カイは時に無謀とも言える行動力を見せるようになった。それが守るための衝動なのか、復讐への執念なのか、自分でも分からない。
湿った落ち葉を踏みしめ、二人はさらに森の奥へと進む。
背後では、黒牙団の兵士たちが異音の主に向かって整列を組み直している。
やがて、その奥から低く響く声が聞こえてきた。
人の声に似ているが、妙に響きが重い。
「――見つけ出せ。すべてだ」
その瞬間、カイとセラの背筋に冷たいものが走った。
誰の声なのか、姿はまだ見えない。だが確かに、その場を支配する圧倒的な存在感があった。
二人はその場から離れながらも、同時に理解していた。
――これが、“主”だ。
そして次に顔を合わせるとき、命の保証はない。
森の奥へ逃げ込む二人の背後で、たいまつの灯が再び揺れた。
静寂の中、次の夜明けまでの時間は、あまりにも長く感じられた。




