遠い過去と今これから
そういえば、私がロルフ様と結婚して、もう七年は経っているのですよね。
最初こそ全く気にかける事もなく、ただ決められた結婚だとばかりに興味を抱いて下さらなかったロルフ様ですが……今では、すっかりと私を愛してくださるようになりました。
いやその、愛され過ぎて、時折体がダウンしてしまう事すらありましたからね。
アマーリエ様にこっぴどく叱られていましたが、堂々と「妻を愛して何が悪いのですか」と宣うくらいですから?
あ、いえその、抱き潰した事は反省していたみたいですけども。
それくらい愛されている事は自覚していますし、とても幸せな事ではあるのです。
素敵な旦那様が居て、優しい義父母と義兄が居て、可愛い娘が居て、お腹の中には愛を受けてすくすくと育つ子供が居て。
……私は、とても幸せでしょう。
結婚するまで私はどうしてこんなにも苦しい思いをしていたのだろう、私が傷持ちだから悪いのか、なんて嘆いては俯く毎日でしたから。
「エルちゃん、荷物届いてるわよ」
「荷物……ですか?」
「殿下とイザークさんからね。出産祝いのつもりかしら。気が早いわねえ」
寝室でゆったりと過ごしていた私に、アマーリエ様はひょこりと顔を出して笑いかけるのです。
手にしていたのは包装紙に包まれリボンをあしらわれた包み。
レオナルド王子殿下はかなり子供の事を気にかけてくれていますし、イザークさんはイザークさんであの時の事を気に病んでいるのか、然り気無く気にかけてくれるのです。
リーゼロッテにも好かれているらしくて偶にうちに来てはロルフ様に睨まれていたりします。イザークさんは動じた様子もなく余裕の表情でしたけどね。
思い出してはつい口許を綻ばせるのですが……ふと、包みとは別に、アマーリエ様は小さな花束を持っていた事に気付きます。
「そちらは?」
「ああこれね、差出人も書いてないのよ。ただエルちゃん宛に届いたの」
一応調べて害はなさそうだったから持ってきたのだけど、と花束を私に差し出すアマーリエ様。
小ぢんまりと纏められたそれは、不格好で、色合いの調和なんて考えられていなくて。ただある花を纏めてブーケにしたような、そんな粗雑なもの。
でも、何処か懐かしい香りを漂わせて、いました。
――ああ、そういう事なのですね。
「アマーリエ様、それ花瓶に飾って頂けますか?」
「良いけど……差出人は誰か分かったの?」
「何となくですけどね」
誰かは言わずに微笑むと、アマーリエ様はそれ以上は追及せずに私のお願い通りに花瓶に生けてくれました。
差出人が書いていなかったのは、互いにもう別の道を歩むと決めたからでしょう。
でも花を贈ったのは、最後の、親心だったのかもしれませんね。知ったなら今更だとロルフ様は言うでしょうが、これが最大限の譲歩なのでしょう。
私はもうあの家に戻る気もありませんし、家族には苦い思いを抱いたままです。
けれど、育てて頂き、ロルフ様に会わせて下さった事は、とても感謝しています。
もう、あの時の事を思い出しても、何も思いません。全て幸せで塗り替えられているのですから。
「……生んでくれてありがとう」
今度は命を宿し生んで育む側になった私は、小さく笑って膨らんだお腹を撫でました。
願わくば、この子にとって素敵なお母さんになれますように。
『旦那様は魔術馬鹿』明日1/6発売です!
既に私の地域では発売されていたりするのですが、そろそろ全国に行き渡る頃かなあと思います。
繊細美麗なイラストを描いてくださったまち様のお陰でエル達が綺麗に描かれています。宜しければ是非手にとって頂けたらなあと思います……!
発売に合わせまして『旦那様は魔術馬鹿』のSSを別連載でアップしています。本編中の小話となりますが、興味のある方はご覧いただけたらなあと思います。
それではこれからも『旦那様は魔術馬鹿』を宜しくお願い致します!




