義兄の理想について
「ロルフは良いよねえ、可愛いお嫁さん貰ってさ」
眠そうだったリーゼロッテを寝かし付けてソファで一息ついた私に、コルネリウス様はお茶を出しつつそう零します。
「どうしたのですか急に」
「いや、リーゼロッテの家庭教師してると私も奥さんとか子供が欲しいなあと改めて思ってね」
表情はあくまで飄々としたもので、そう羨望を抱いているようには思えませんが……コルネリウス様はいつもわざと内心を窺わせないので、一概には言えません。
そういえばコルネリウス様、女好きとは聞いていますが浮わついた噂を聞きませんね。コルネリウス様の美貌と人柄と家柄、能力全部含めて引く手あまただと思うのですけど。
「コルネリウス様はその、お好きなお方とか」
「そうだねえ。特に居ないんだよね」
へらへら笑っているコルネリウス様。
よく考えればコルネリウス様はもう三十路近くて、その年齢で妻帯ではないというのは、あまり大っぴらに言える事ではないのですよね。
勿論独身を貫く方もいらっしゃいますし、一概ではありませんが。
コルネリウス様は相手さえ選り好みしなければ相手は選び放題、とロルフ様が言っていたのです。そんなに好みが激しいのでしょうか。
「では、好みのタイプは……」
「うーん。刃物を持ち出さない女性かな?」
「……ええと」
「冗談だよ。一概には言えないんだけど、優しい子が良いかな。顔はそんなに拘らないから、澄んだ心の女性が」
もう女性のどろどろは懲り懲りだよ、と笑えない呟きを口にして肩を竦めるコルネリウス様に、私も何と返していいのか分からなくて苦笑い。
……コルネリウス様の女性関係、昔は物凄い荒れてたんでしょうね。
ロルフ様はコルネリウス様の事を一線は越えないと言っていましたが、それでもおモテになって大変だったのでしょう。
何ともコメントしにくい女性遍歴らしいので眉を下げて微笑むしかない私に、コルネリウス様も気付いたらしく苦笑い。
「まあ、この歳になると選り好みも出来ないんだけどね。もう良い歳だからなあ」
「そ、そんな事は。コルネリウス様は素敵ですし、女性から言い寄られるのでは?」
「ロルフが当主になるってクラウスナー家が宣言してからは、前よりそれも減ったよ。そもそも結婚するには大分遅いからねえ、結婚適齢期の女性達は若い男の子を選ぶだろうし」
私は遊べたら良いくらいの立ち位置なんだよねえ、と笑っているコルネリウス様ですが、それ笑って言う事なのでしょうか。
でも私から何か言える事でもなくて、どうしたものかと肩を縮めるのですが……コルネリウス様は、ふっと表情を真面目なものにして。
「まあ、私も本気で女性に向き合っていないのが悪いんだけどね。でも、私を本気で好く女性も居ないから困ったものだよね」
「コルネリウス様……」
「その点、本当にロルフは恵まれてるよ。決められた結婚でも愛を育めたし、エルちゃんはロルフ一人しか見ていないから。やっぱり羨ましいな」
少し寂寥を伴った笑みを浮かべたコルネリウス様は、そのまま立ち上がります。
「まあ、高望みはしてもしょうがないし、見付からなかったら見付からなかったで諦めるさ。跡取りはロルフなんだから、私が結婚しなくても良い訳だし」
「コルネリウス様にも素敵な女性と出会いはあると思うのです。その、根拠はないですけど……」
「はは、ありがとうね。本当にあったら良いんだけどなあ」
感情を読ませぬ笑みで笑って、飲み干したお茶のカップを片付けに部屋を出ていくコルネリウス様。
……コルネリウス様も、素敵な出会いがあるとは、思うのです。
ただ、それはこの家では得られないものかもしれません。家を出ていく、と数年前に言って、結局リーゼロッテが居たからそのまま居るのですけど。
もしお嫁さん探しに家を出て行くなら寂しいな、とは思うのですが、今まで私達の事を気にかけてくれていたのですから、コルネリウス様自身の幸せを優先して欲しいのです。
コルネリウス様にも良縁が見つかれば良いな、とは思わずにはいられない午後の事でした。
本日1/6『旦那様は魔術馬鹿』発売しましたー!
書店でお見掛けの際には是非とも手にとって頂けたらなあと思います(*´∀`)
素敵な挿し絵は必見ですよ!
あと、昨日から始めた記念小話の連載ですが、目次ページのタイトル上にある旦那様は魔術馬鹿シリーズから繋がっております。
此方も宜しければご覧いただけたらなあと思います!
発売日でそわそわしつつスピンオフでコルネリウス編書きたいなあと思っている佐伯でした。
これからも『旦那様は魔術馬鹿』を宜しくお願い致します!




