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そうして小さな命は宿る

「エルちゃんちょっと良いかしら」


 最近体調を崩しがちで、臥せっている事も多くなった私。

 今日も起き上がるのが億劫で、ずっと横になっていました。ロルフ様が出勤したくないと駄々をこねるのを説き伏せて、何とかお仕事に出て貰ってから、こうして寝室で休んでいたのです。


 そんな私に、アマーリエ様が訪ねてきて下さいました。


「すみません、家事とかお手伝い出来なくて……」

「あら、良いのよそんな事。今のエルちゃんにお仕事させようなんて思わないわ」


 普段は家事を分担しているのですが、最近はどうしても体が重くて上手く動けなくて、アマーリエ様に任せきりになってしまっています。

 とても申し訳ないのですけど、アマーリエ様は「気にしなくて良いわ」と、何故か嬉しそうなお顔というか。


 首を傾げると艶やかに微笑むものですから、何か良い事でもあったのでしょうか。


「エルちゃん、それでね、ちょっとお願いというか……うん、頼み、というのかしら?」

「私に出来る事でしたら、何なりと」

「お医者さん呼んでるから、ちょっと診て貰いましょうか?」




「お帰りなさい、ロルフ様」


 本当は、日課の抱擁でお出迎えしたかったのですが……当分は治りそうにない体調不良のせいで、それもままならず。

 けれど真っ先に、しかも走って来たらしく息を荒げたロルフ様が入り口に現れたので、私は体を起こしてゆるりと微笑みます。……アマーリエ様、内緒にしててくれたでしょうか?


 少しもたつきつつ半身を起こすと、慌てたロルフ様が「無理して起きなくて良い」と近付いて支えて下さいます。……もう、心配性ですね、私の旦那様は。

 これは、病気とかそういうものでは、ないのに。


「母上が、エルの体調不良の理由が分かったと言っていた。な、何か病気だったのか?」

「アマーリエ様中途半端に伝えて……ごめんなさい、ロルフ様。ええと、ロルフ様。覚悟して聞いて下さいますか?」

「覚悟!? 重い病気か!?」

「ふふ、重い、というのは強ち間違いではないかもしれませんね」


 身重って表現がありますから、ね。


 慌てっぷりが面白くてつい笑ってしまったのですが、あまり狼狽えさせるのも悪いです。

 真実を知ったなら、きっとロルフ様は、喜んでくれるでしょう。


 心配そうなロルフ様の胸に凭れつつ、私は不安に揺れる鳶色の瞳をゆっくりと見上げて。


「お腹に、ロルフ様の子供が居ます」


 そうして、取って置きの秘密を囁くと、ロルフ様の瞳はこれでもかと見開かれて――。


「本当、か?」

「嘘ついてどうするんですか。正真正銘、あなたと私の子供が、此処に居るんです」


 震える声で問い掛けるロルフ様の掌をお腹に誘うと、ガラス細工でも触れるかのように、恐る恐るお腹を撫でるロルフ様。

 まだ、膨らんではいません。お腹の奥に居る、小さな命。けれど、その命は確かに、この胎に息づいているのです。私とロルフ様の、愛の結晶が。


 信じられない、といった感情を隠せていないロルフ様にくすりと小さく笑んで、それから分かりやすく衝撃を受けているロルフ様の頬を撫でます。


「もしかして、嫌でした?」

「そんな事はない! ただ、その、だな。本当に、私達の子が……と思うと信じられなくてだな」

「居るんですよ、此処に」


 お父さんになった実感がないロルフ様は、おろおろと私の肩を抱いては、そっとお腹に触れる。その何処か恭しい動作にまた笑ってしまうと、ロルフ様はちょっぴり拗ねたようで、やや唇を尖らせてしまいました。


 そんなロルフ様に、私は笑みが止まらず背を震わせるのです。

 ああ、何て幸せなんでしょうか。私、ちゃんと愛されているんですよね。


「まだ大きくないですけど、その内お腹も膨らんできます。そうしたら、お父さんになる実感が湧きますよ」

「お父さん……」

「そうですよ、あなた」


 甘く囁くと、ロルフ様は急にそわそわしだすから、もう可愛くて仕方ありません。


「エル、子供の名前はどうしようか」

「気が早いですねえ、もう」

「早い事はないぞ? 大切な子供の名前だ、熟慮して決めなければ」


 まだまだ生まれるのは先だというのに、今からはりきりだして名前から「子供服とかはどうしようか」「子供部屋を作った方がいいのか」「家具とかも」とか色々と思考が飛んで先走っているロルフ様。

 止めても良かったのですけど、ロルフ様があまりにも楽しそうで、まあ良いか、と微笑んで見守る事にします。どちらにせよ、いずれは考えないといけない事ですから。


 これは親馬鹿確定だな、とパワーをみなぎらせたロルフ様にひっそりと笑って、私は心地よい幸せに身を浸らせるようにロルフ様に凭れました。

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