奥様はおねむです
「エル、エル」
頬をぺちぺちと、優しく叩かれて、意識が浮上します。
重たい瞼が仕事を放棄しようとするのを叱咤し、気怠げに目を開けると、ロルフ様の心配そうな顔が直ぐ側に。
相変わらずお綺麗な方だな、と眠気でぼんやりとした思考で考え、それからまたうとうとと睡魔によって眠りに引きずり込まれそうになります。……ロルフ様が軽く揺すってくれたから、ゆっくりと意識は明瞭になるのですが。
漸く頭が覚醒しだして、まだ眠たさを訴える瞼を擦るものの、完全に眠気は取れません。
そういえば、ロルフ様は何故居るのでしょうか。お仕事、行った筈なのに。
「……あれ、ロルフ様、お仕事は……」
「帰ってきたのだ。もう夕食前だぞ」
「嘘!?」
待って下さい、私うとうとしていたときはお昼過ぎで……もう、こんな時間に……!? ロルフ様の様子では早く帰宅した訳でもなさそう。さっと視線を窓に投げれば日も暮れかけています。
……お昼にソファでうたた寝した、所までは何となく覚えていますが……まさかこんなに長くお昼寝してしまうなんて。どうしましょう、今日、クリームシチュー作る約束していたのに……!
「ご、ごめんなさいロルフ様、クリームシチュー、が」
「いや、構わない。……此処最近エルは眠たそうだし、疲れているのだろう。ゆっくりしてくれて構わないのだぞ」
「で、でも」
「……私はエルが優先だ、気にしないでくれ。いつも頑張っているのだから」
いつもありがとう、と穏やかな笑顔のロルフ様に、何だか照れ臭さを感じてはにかむと、一層濃くなるロルフ様の笑顔。幸せに満ち溢れていると顔に書いたような笑みに、私も自然と頬がとろけてしまいます。
……ああ、私はとても幸せな女なんだって。こんな素敵な旦那様に、ひたすらに愛情を注がれて。私も、同じだけ返せているのでしょうか。
もしかしたら足りていないかもしれない、とロルフ様の頬に口付けて不足分を補おうとすると、逆にロルフ様から倍どころではない口付けの雨が飛んできます。
……これでは意味がない、と思うものの、満たされてしまって、何も言えません。
「今日はやけに積極的だな」
「……そうでしょうか?」
「ああ。……可愛いから幾らでもしてくれて構わないのだぞ?」
「ロルフ様は幾らでもしますからね」
ロルフ様は存外キス魔なのだと思い知ったのは、結婚記念日からです。体の至る所に口付けるし、しょっちゅう吸い付いてきますから。……それが好ましいと思う私も、相当に甘いのでしょうけど。
結婚記念日からもうすぐ4ヶ月、ロルフ様の愛情は留まる所を知りません。幸せと愛情を、沢山注いでくれる。
ロルフ様は私からも沢山して欲しそうですが、取り敢えず今日のところは遠慮させてもらいます。もう、ご飯時ですし……最近、体調があんまり良くないですから。
アマーリエ様に支度を全部任せてしまった事、謝らなきゃ。
「寝る前にしますから、食卓に行きましょうか。待っていらっしゃるみたいですし」
「うむ。……クリームシチューは、調子が良い時に頼むぞ?」
「ふふ、心得てますよ」
やっぱり食べたかったんじゃないですか、と頬をつつくと「エルのクリームシチューが一番好きだからな」とはにかみつつの有り難いお言葉。……そういう可愛らしい事言われると、頑張らなきゃなって思うのですよ。
最近眠気が酷いのですが、覚醒している時にちゃんと作ってあげなきゃ。
ふぁ、と軽く欠伸しつつソファから立ち上がると、ロルフ様はそんな私を横抱きに。
あの、運んで欲しいとは一言も。
「ロルフ様」
「ふらふらして転びそうだからな。……行こうか、エル」
「……もう」
そんなドジじゃないのに、と思ったものの前科は数回あるので何も言えず、私はロルフ様に運ばれるがまま。
うっかりロルフ様の腕の中でまた寝そうになって、うとうとと目を擦りつつの食事に皆様から微笑ましそうに見られるのでした。アマーリエ様には、何だか意味深な眼差しで見られましたが。




