アモン・グリモ=ノワールとボコる為の準備します
『次は「アモン・グリモ=ノワール」か』
アガレウスの部屋から出て歩いているアルに抱き抱えられているイーラは考えていた。今一番にすべきは魔王軍の体制の完成。それに間違いは無い……筈だが、イーラにはこの世界の知識が乏しい。あまりにも。
そして、異世界転移者の即効性。脅しが意味をなさない国がもしあったとしたら……それ程猶予は無いのかもしれない。しかし妥協しては何れ其処から綻びが生じ、結果的に取り返しのつかない事態に陥る恐れも考えられた。
『……』
「イーラ様が真剣に私のおっぱいの感触に意識を集中させている間に着いた〜」
『……』
考えながらも後頭部の感触には気付いていた為反論等出来やしない。アルもそれを分かっていて言っているのだろう。たちが悪かった。
日の射さない地下……といっても地上も日は然程射して等いないのだが、とても暗く松明がなければ何も見えないだろう。
「イーラ様がさっさと開けろ陰キャ野郎って言って――」
『ないだろ!!第一印象を悪くしてどうするんだ!!』
振り返り赤子の手でアルの両頬を思い切り抓るも握力皆無の腕は無力だった。
「そんなに私に触れていたいの〜?よしよし……♡」
アルが頭を撫でていると何時の間にか扉は開いていて……。
「イチャイチャイチャイチャイチャイチャするなら他所でやってくれませんかねぇ!?!?!?
このわたし、序列『七位』のアモン・グリモ=ノワールの部屋だと知っていて態とやってるんですよねぇぇええええ!?陰キャ野郎だなんて罵る位ですもんねぇぇええええええ!?!?
なんなんですか!?いやもうほんとなんなんですか!?こ!れ!だ!か!ら!陽キャは嫌いなんですよぉぉぉぉおぉおおおおおおおおおああああぁぁぁぁぁうわぁぁぁぁぁん!!!!!」
「コレがアモン様です〜」
「コレって言わないでくれませんかねぇ!?アル!!わたしは仮にも八王なんですが!?貴女よりも大層偉いご身分なんですが!?あ、でも八王剥奪しに来たんですかね!?そうなんでしょうねぇぇえええええええ!?」
(……感情がジェットコースターじゃねーか)
扉から出てきたのは銀色の瞳に狼耳の半獣人のような女性だった。発言も態度もかなり子供っぽいが人間で言うと20代前半といった処……。
『剥奪するつもりは無いんだが、八王は今後魔王城の外の拠点に常駐して貰う事になる。だから――』
「じ、じじじじじ、じっじじじじじじじじ、事実上の左遷って事っっっですかぁぁぁぁああああああいやぁぁぁああああああ!?!?ナニコレナニコレナニコレ遂にキタコレ左遷イベントが来ちゃいましたコレぇぇぇえええええええええええおろろろろろろろろろろらろろろろぉ」
物凄い勢いで吐き散らかしそうになった瞬間、床に白い渦が出現し、其処目掛けて吐き散らかしているのだが……。
――ビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャッ!!
(アモンの部屋から滅茶苦茶吐瀉物みたいな音がしてやがるんだが……アル……お前……)
イーラは部屋には入らず此処で話を全て終わらせる決意を固めた。
『左遷するつもりも無い。只、別に魔王城に留まり防衛をメインに、出陣する事も有る魔王城騎士団も作ろうと思っている。
アモンが魔王城に残りたいなら無理強いするつもりは無い。八王は文字通り拠点の城の王として一団を率いて――』
「魔王城騎士団に志願致しますぅぅぅぅううううううううう!!率いるだなんて無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理――」
壊れたNPCみたいになってしまったアモンは無視して続ける。
『分かった。魔王城騎士団として魔王城にて防衛を頼む』
「はいぃぃいいいいい!!精一杯頑張りますので捨てないで下さいぃぃぃいいいいいいいい!!!!!」
泣き叫ぶアモンを尻目に、その場を後にした。
「イーラ様〜?アガレウス様もアモン様も……実力を直接見たりはしないんですね〜?」
『その必要は無いからな。アガレウスは見ただけで強者だと感じた。だから拠点を任せられる。それに何も一人に拠点を任せる訳じゃない。戦力に差が出るなら後々強い者を配下として送り込む事も可能だ。
アモンは性格的には新たな八王には向かないと感じたからな。とはいえ降格のような意味合いは無い。魔王城騎士団の幹部として活躍して貰う。適材適所が大切なんだ。
ベリアデスの乱に加わらなかった。それだけでも充分過ぎる功績と忠義を示している。報われなきゃ嘘だろ?』
「イーラ様のそういう処好き〜♡」
――むぎゅ♡
後頭部の感触に心が揺らぎながらもイーラは既に『次』を考えていた。
『……先にガルプルギスに会いに行くか』
「ガルプルギス様……?」
『本来なら真っ先に行くべきだが、八王の残り三体に会ってからじゃないと色々と突っ込まれそうだったからな』
イーラは神妙な面持ちでガルプルギスとの対面に挑もうとしていた。
――一方その頃のアモン。
「……新しい魔王様優しそうで良かったですぅぅぅぅ。左遷は嫌ですけどそもそも何で私が八王に選ばれたのかも未だに謎でしたしぃぃぃぃ。このわたしの素敵空間から離れるなんて陰キャのわたしにはとてもとても――
――え……?なにこれ……くっさ……?え?ちょ、え?へ?なにこれ、え?と、ととととと吐瀉物?あれ?誰の?え、くっさ……なにこれ……あ……さっきわたしが吐いた吐瀉物……???え、でもアルが『空間』で……『白い渦』を使って……え?ちょ、『外』じゃなくて『わたしの部屋』に繋いだんですか……?な、なんの為に……?え、待って待って待って本当に臭い……ほ!ん!と!う!に!くっさぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああい!!!!!!!」
暗がりの地下の廊下にアモンの悲痛な叫びが轟いていた。
設定
アモン・グリモ=ノワール
ゴエ=ティア七十二柱の序列『七位』の大悪魔にして元『八王』。『魔王城騎士団』の幹部になる事が内定済み。銀の瞳に狼型の耳をしている半獣人に見える外見。引き籠もり陰キャ野郎なのでグレーのスウェットの上下。暗がりでイーラは気付いていないが尻尾は毛じゃなく蛇の頭。




