あのガルプルギスを口喧嘩でボコりに行った帰りに魔王が逆にボコられます
アモンとは対象的に段々と上へと上がっていくに連れて部屋の明るさは増していく。
(相手はあのガルプルギス……一筋縄ではいかないかもしれないが……避けては通れない道ってヤツだな)
「魔王イーラ様が平伏せって言ってるよ〜」
突然のアルの声に考え事をしていたイーラは、既にガルプルギスの部屋の前に居る事に全く気付けていなかった。
『っつーか、アル!!何で毎回そう拗れかねない事を――』
「えいっ……」
返事も待たずに扉を開けるとガルプルギスが文字通り平伏していた――ッ!!
『!?いや、止めろガルプルギス!!俺は決してそんな事は言って――』
「フッ。分かっておりますとも。初対面が『アレ』でしたので少々興に乗った次第。
――この老い先短い老兵へ会いに態々此処へ来たという事は、今後の事をお決めになった、と?」
少し空気が張り詰めたのを感じる。
『あぁ、そうだ。
八王は文字通り八人の王とする。リュミエール王国を落としたら、其処に一箇所。他に七箇所拠点を創り其処の城主とする。既にパイモンとアガレウスの起用は決めている』
「ほう……」
『フルブルプルは本人の希望もあって考え中だ。アモンは後で離すが八王からは抜ける。
乱に加担したサーヴナックルギナとヴァッサーゴだが、本人達には未だ話をしていないがリュミエール王国跡地の拠点の八王にサーヴナックルギナを。配下にヴァッサーゴを置く。一番監視のしやすい近場というのと、ヴァッサーゴの能力でリュミエール王国周辺を魔王城周辺の如く人間が近寄らない高難易度のエリアに変える』
「……」
ガルプルギスは何かを考えている様子だった。
『そして、俺の新たな組織。それが魔王城に常駐する魔王城騎士団と、常に俺に同行する魔王親衛隊の設立。アモンは騎士団に入る事を選択した。
他の配置は意思疎通の取れる他の大悪魔達に実際に会いに行って決めようと思ってはいるんだが。
……ガルプルギス、お前は――』
「フッ。答えは分かりきっていようとも一応聞く、と。この老いぼれ……忠誠を誓いしは亡き魔王様只お一人呑み。敵対するつもりは有りませんが、仕えるつもりもまた、存在しませぬ」
『属す必要は無い。が、魔王城に常駐し、アモン達を助けてやって欲しい』
ガルプルギスは僅かに目を見開いた。
「フッ。それは少々……いえ、随分と狡い相談の仕方ですな。
良いでしょう、この老いぼれの力がどれ程の役に立つかは分かりませぬが……」
『助かる、感謝する』
話も終わり、立ち去ろうとアルに合図を送る前にガルプルギスが口を開く。
「……して、新たなる魔王よ。フルブルプルの希望、とは如何様なモノですかな?」
『ん?あぁ、俺としては八王として拠点に君臨して欲しいと考えているんだが、フルブルプルは俺の親衛隊に立候補している。攻撃・移動・結界と、かなり強いからこそ拠点に――』
「貴方は魔王軍全体の事を考える事は出来ても女心には疎いようで……」
突然の話の流れにイーラは置いてけぼりを喰らう。
「フルブルプルは感情を表に出さない子でした。見た目の年齢に差はあれど、この老兵の次に創られし柱があの子だった故によく覚えていますとも。八王になったのもその場の流れ。乱に加わったのもその場の流れ。彼女は流れに逆らわず、只々流れに身を委ねて無抵抗に流されて来たのです……。それが今は如何です?
八王を降り、親衛隊になりたいと貴方へ直訴していると。彼女にとっては目覚ましい程の進歩であり、勇気のある直訴なのです。今手元から手放すと、以前のフルブルプルへと戻ってしまうかもしれませぬぞ?
それに如何やら貴方は彼女の『力』にも気付いていない様子」
(……確かにフルブルプルは話のスピードは遅くとも必死に俺に尽くしてくれている……)
『……その力とはなんだ?』
「何かを指している訳では有りませぬ。純粋な強さの話……。真の序列でも、今現在の力関係でも、『フルブルプルはこの老兵よりも実力は圧倒的に上』なのですよ」
『――ッ!?な――』
「彼女の力を生かすも殺すも貴方次第ですぞ、新たなる魔王よ――!!」
『!!』
「……そもそも周りの者にフルブルプルの事を聞いたりはしなかったのですか?其処のアルでもあの子の強さは充分認識していると思いますが」
イーラをアルの顔を見上げる。
「知ってたけど聞かれてないから……。
それに拠点に行ってくれたらイーラ様を独占出来る時間も長くなるから〜♡」
『お前……』
「フッ。其処のアルが変わったのも貴方の功績なのでしょうな。パイモンから離れず常に一緒に居たというのに、よもや離れる日が来ようとは」
「だって〜。パイモン様と真面目な話をしてる時も……イーラ様はずっと私のおっぱいを見――」
『とらんだろッ!!』
「なんと……ッ!!……よもや親衛隊を全て女性にするおつもりで……ッ。だ、だから男性であるパイモンとアガレウスを遠くへと追いや――」
『っていないが!?』
ガルプルギスが笑顔を見せる。イーラには初めて見せる、素のガルプルギスだった。アルも見た事が無かったらしく、きょとんとしていた。
「フフッ。貴方の父上様との悪ノリを思い出してついつい。悪巫山戯が過ぎましたな、失敬」
『……そうか、気にするな。
――では、今後も魔王城を頼むぞガルプルギス』
「はっ。とは言え、この老いぼれは城に住むだけに御座います。自宅を襲いに来る不届き者が居れば排除する……。それは至極当然な行いに過ぎませぬ」
イーラは強力な味方を手に入れる事に成功した。事実上、魔王城騎士団の戦力は大きく跳ね上がったのだ。
「イーラ様〜。この後は何処に行くの〜?」
『……勿論、フルブルプルに会いに戻るぞ』
「え〜。まぁイーラ様ならそう言うと思ってたけど……。イーラ様は何人の女の子を侍らせるつもりなの〜?私じゃ満足出来ないの……?」
『満足は……』
「今私のおっぱいに満足してるって考えた……。イーラ様は本当にえっち……」
『……これは男として当然の反応だ!!
満足とかそういう話じゃないんだ。フルブルプルにも沢山助けられているからな。それに報いなければならない……それに気付いただけだ』
「ふーん……」
ガルプルギスの部屋は既に出て、階段を降りながら自身が抱き抱えているイーラの後頭部を見ていたアルは、突然立ち止まる。
『……?アル?一体如何し――』
イーラが上を向いた瞬間、アルの片手がイーラの顎へと添えられて乳房に押し付けられる形で頭を固定される。
『なっ!?ちょ、おま――』
アルの瞳はハートが光り輝いていた。その瞳を見た瞬間にイーラは一瞬身体が硬直、自由が効かなくなってしまう。
アルにはその一瞬で充分過ぎた。
「大丈夫〜♡イーラ様は私のだから〜♡」
アルが唾液を纏わせた舌を出すと、光に反射し唾液が淫靡に光っていた。その舌をイーラの口へと向けると、唾液が糸を引きながらイーラの口の中へと垂れていく……。
「あ〜……♡」
『――ッ!?…………ごくんッ』
イーラはアルの唾液を呑み込んでしまった。
「イーラ様よく出来ました〜♡ご褒美をあげるね……♡」
――ちゅ♡
触れるだけの優しい口付け。アルはイーラが既にメイガイラに幾度もされている事、そして全て寝ている時だった為イーラの記憶には無い事、更には前世でも無い事まで能力で知っていた。だからこそ初めてでは無いこの口付けこそがイーラにとって真の意味でのファーストキスになる事を理解した上で奪っていた。
『――ッ!?』
イーラは顔を真っ赤にして動かない。口付けをされる前に既に硬直は無くなっていたのだが、驚きが勝り気が付いていなかった。
「イーラ様の『初めて』……美味しかったよ……♡」
(フルブルプル様にも……あの『女神』にも……イーラ様は絶対に渡さない……)
アルはメイガイラの正体にも、そして生前のイーラに対する行いも、亡きイーラの両親に対する非道も全てを能力で知っていた。
(イーラ様は私が守る……)
『アル……ッ!!一体何を――っ』
アルは再び唇を触れさせると、自身の気持ちを伝えるかの如く熱い口付けを交わした。自身との行為を刻み込ませるかのように……熱く……深く……蕩けるような感覚に、イーラは静かに、只、只管に溺れていった。




