最凶の魔王をボコる為にリュミエール王国の人間達も奔走しています
白と金の正義の輝きを放つリュミエール王国は今、混沌と化していた。力を持たない者達は準備が整い次第皆、行く宛も無く魔王城とは逆の方角へと逃げ出して行く。
『魔王軍の新体制が確立したら侵攻して来る』。この事実はリュミエール王国の人々の精神を擦り減らしていた。何時かは確実に訪れる、死の宣告。騎士団副団長にして国王ヘリオスの四男、ブランの死。そして大量の資産を注ぎ込んだ異世界転移勇者の失敗。国民の怒りはヘリオスへと向いていた。
そもそも魔王軍が侵攻して来た訳じゃない。新しい魔王へと代替わりした事に、怯えたヘリオスが早まった結果がこの事態……。
「……まさか降伏の道すら赦されぬとは……な」
ヘリオスは王城から城下を見渡していた。騎士団の者達すらも逃げ出して行くのが見えていた。それはそうだろう。あの大群が魔王一体と幹部一体に壊滅状態に追いやられた。自分達が残った処で無駄死にするだけ。
「……父上」
「……『テオス』か。ふっ、確かに国民達も兵も無き今、王等と呼ぶ必要も無いか」
ケイオスの長男であり王子の『テオス・リュミエール』が神妙な面持ちで後ろに立っていた。彼は王子でありながら騎士団の団長も自ら志願し請け負っていた。
「父上もお逃げ下さい。魔王は父上に残れとは言わなかった。此処は一度逃げて――」
「ならぬ」
「……ッ。今は恥を受け入れてでも生きねばッ!!死ねば何も残らないのですよッ!?」
「テオスよ。
……ワシの首を取れ」
テオスは何を言われたのか理解出来ずに立ち竦む。
「な……にを言って……」
「無理じゃろうが、何もせぬよりは良い。
国民を危険に晒した悪の権化としてワシを殺し、首を魔王へと献上せよ。
此処でワシが逃げようとも行き場は無い。全ての国からワシは敵として扱われる。何処へ逃げようがワシの首を刎ね、魔王へと手土産として献上し和睦の道を探るであろう。
ならばせめて、息子達の役に立って逝くのが王としての最期の務め……。リュミエール王国史上最大の悪の王を討ち取ったとなれば、お主達は――」
「父上ッ!!!
――そんな事をしても、このリュミエール王国は魔王に蹂躙されます……ッ。父上の首を持って行った処で、問答無用で殺されて終わりですッ!!我らも逃げるしか道は無いのですよ!!私にも、『シエル』にも、魔王は倒せない……ッ!!」
悔しそうに歯を食い縛り、拳を握り締める。
『シエル・リュミエール』は三男で、騎士団の副団長をしている。今はヘリオスとテオスと共に逃げる為の準備をしている最中だった。
「国民とも、魔王とも、他国とも……誰とも関わりの無い、何処かの外れの辺境の地で家族三人静かに暮らしましょう……ッ!!父上は今迄よく頑張って来られました……。もう、重荷を全て下ろしても良い時が来たんじゃないですか……?」
ヘリオスは振り返りもせず、国を見下ろしている。
「――おいおい、アニキィ。その話にオレは入ってねーのかよォ?オレァ悲しいぜ〜?」
「……『ケイオス』……もう逃げたかと思っていたが、未だ残っていたのか?」
『ケイオス・リュミエール』。次男だが唯一黒髪をしている。鎧もリュミエール王国とは似つかわしく無い黒い鎧。
「ハハッ、父上様を置いて逃げる訳ねェじゃんか。
ソレにィ、『逃げる必要が無ェ』」
「……ケイオス、如何いう意味じゃ。申してみよ」
「ッ!!父上……ッ」
あれ程会話していたというのに、一度も振り返らなかったヘリオスは、ケイオスへと振り向いていた。ケイオスは騎士団には入団していない。所謂問題児だったのだ。しかしその強さは群を抜いている……。それがテオスは長年のコンプレックスでもあった。
「簡単な話だ、オレが魔王を殺す」
「異世界転移勇者でも無理だったのに、倒せる訳が――」
「『其処』だ。ソレこそが間違えてやがる。
能力も持たねェ雑魚として呑気に暮らして来た奴が、戦闘の訓練も実績も何も持たねェままに戦って、いきなりラスボスなんざに勝てる訳無ェだろーが。
しかもブランの馬鹿と騎士の有象無象が道中全てのモンスターを狩ったか逃げたって報告が生存者から上がって来てやがるんだぞ?経験値0なら賜り物があろうと勝てる訳が無ェーんだよ!!」
「……続けよ」
「そして魔王のこの何もしねェ猶予だ。
恐らくは父上様の読み通り、倒すなら赤子の今が好機なんだろォ。コレは時間稼ぎだ。未だ奴等は連携が取れてねェ。奴が本調子なら先にリュミエール王国を落としてからゆっくりと、ヤリゃあ良いだけの事。ソレをしねェ……つまり異世界転移勇者の力は『有効』だった訳だ。ならオレにも勝ち目は有る」
「……ッ!!ケイオス、お前まさか!!」
「ハハッ!!その通りだぜェ?分かるだろ?父上様ァ……オレ達にゃ勝ち目が有るッつー事が!!」
「……ワシも行こう。テオスはシエルと共に逃げ、生き延びよ。リュミエールの血は費やしてはならん」
「……ッ」
「おいおいおい、父上様ァ?オレが負ける訳が無いッつーの!!」
「……俺も――」
――ドォォォォォォォォォオオオオオオオンッッ!!!
「な――ッ!?」
三人の後方に何かが飛来、王城が砕け散る。三人が居た外の広場は無事だったが、今の一瞬で逃げる準備をしていた沢山の騎士、仕えていた使用人、そして……シエルは瓦礫に押し潰されて亡くなっていた。
「――ハハァッ!!まさかオレへの罰がこの程度の仕事で済むとはなァ!?寧ろ戦えるなら褒美だぜ!!」
土煙から出てきた筋肉質な女の圧と金色に迸る魔力に、三人は身構える。
「オレは『新』八王が一体、サーヴナックルギナ!!新たなる魔王がキサマ等からの宣戦布告の言葉を受け取ったッ!!故に今!!此処で殺すッ!!皆殺しだッ!!このリュミエール王国の地はこのサーヴナックルギナが統治するッ!!」
(ッ!?何故バレた!?魔王の念話の応用で此方の声も聞こえるとでもいうのか!?)
テオスは冷や汗を流し慌てているが、ケイオスは違った。舌舐めずりをして、目の前の八王を獲物だと認識する。
「ハハッ!ソッチから来てくれんなら好都合なんだよ、バーカ!!新八王だァ!?オレがブチ殺してやるよォ!!」
「あん?……誰だか知らねェが喋り方がオレとキャラ被りしてんぞ?おい、コラ。クッソ鬱陶しいなァ、おい。
――テメェからブッ殺してやんよッ!!」
この世界で一番美しいとまで言われていたリュミエール王国が、遂に地獄と化そうとしていた。
設定
テオス・リュミエール
ヘリオスの長男・王子にしてリュミエール王国騎士団の団長。顔は整っていて筋肉質。ブランよりも金が目立つ髪色で逆立った短髪。
ケイオス・リュミエール
ヘリオスの次男。唯一黒髪で騎士団には所属していない。髪はウェーブしていて前髪も長い。鎧も黒い。遊び呆けているにも関わらず一番強い事に対してテオスからは恨まれている。
シエル・リュミエール
ヘリオスの三男で騎士団の副団長。青白い髪色をしている。呆気無く死亡。




