サーヴナックルギナは罪滅ぼしと自身の領土を奪う為に四十三位の力を持ってボコります
遡る事、僅か。そう、本当に僅かな時間だった。
ヘリオスが『ワシも行こう』と侵攻の意思を示した瞬間に『ソレ』は起こる。
『アル!!魔王様へ伝えよ!!リュミエール王国国王ヘリオスの侵攻の意思を確認!!』
パイモンからアルへの念話だった。互いに視覚を共有可能だが、直通の念話も使えた。
口付けの後、真っ赤になり黙ったままのイーラを抱き抱えながらイーラの部屋へと向かっていた最中だったがアルはイーラに告げる。
「ヘリオスの侵攻の意思を確認〜」
『――ッ!!』
真っ赤になっていた顔は元へと戻り、迷う事無く魔王城や周りへと届く範囲に念話を飛ばす。アルは有能だった、的確に短い言葉で情報を伝えた。そしてソレを瞬時に判断し最適解を導き出すイーラもまた有能だった。
『サーヴナックルギナッ!!即刻リュミエール王国へ跳び国内に居る者を皆殺しにしろッ!!コレを罰とするッ!!リュミエール王国の跡地はお前の領土とするッ!!お前は新八王の一体として今後も励むが良いッ!!』
イーラは急ぎの早口ながらも要点を全て押さえて伝えた。命令だけをするよりも効果的だと踏んだのだ。ソレに、充分な敵の戦力も分からない状況で単身突っ込ませる行為。誠意を持って命令した結果だった。
「ハハァッ!!やってやんよォ……ッ!!」
乱の後、拘束等はされてはいなかったものの、自宅では無く魔王城に居させられていたサーヴナックルギナは、窓の縁に足をかけると、その一度の踏み込みでリュミエール王国へと吹っ飛んで王城へと辿り着いていたのだ。
「サーヴナックルギナ様一人で大丈夫〜?異世界転移勇者を差し向けて来る国……何をして来るか分からないけど……」
『俺はサーヴナックルギナと直接戦った。彼奴の強さは分かっているつもりだ。それに万が一の時には見捨てるつもりも無いからな。アルの『白の渦』で俺が行く』
「イーラ様はもう私の能力が無いとダメだね〜♡」
『……』
「ね〜♡」
対処をし終えたイーラは、先程の接吻を思い出して再び顔を赤面させていた。
――そして、今。リュミエール王国で凄まじい戦いが始まろうとしていた。
「おいおいおいおい!!何だよ今の!?早く行けよッ!!」
「きゃあ!?ちょっと!!押さないでよ!!」
突然の衝撃と共に訪れた地響きと轟音。半分以上が崩れ落ちた王城。逃げる途中だった国民達はパニックになっていた。
「悪ィが……『皆殺し』にしろッつー命令なんだ……ッ!!」
――ガガンッ!!
テオスは白金の魔力で二連の銃口の銃剣を創成すると、間髪入れずにサーヴナックルギナの頭目掛けて撃ち込んでいた――が。
「!?残像!?奴は何処に――」
ギュイィィィィィ――――ィィィィィンッ!!!!!
遥か後方からの凄まじい魔力の収束と黄金の光の放出にテオスは振り返る。此方に背を向け天を仰ぐサーヴナックルギナの口に高濃度に圧縮された黄金の魔力の球体が出来上がっている。土星の環のようなリングが幾重にも出現し、回転し、威力を増していく。
「くッ!!止めねば!!ケイオス!!」
「無駄だァ。止めとけェ、アニキィ」
「ッ、民を見捨てるのか!?」
「間に合わねェ。ソレに彼奴等はもうリュミエール王国の民でも何でも無ェんだよ」
――ギュギュギュギュギュギュギュギュギュギュッ!!
サーヴナックルギナが顔を正面へ向けるとリングが前方へとズレていき、逃げ惑う国民達へ照準を合わせる。
「皆殺しだァーーーーーッッッ!!!!!」
――キンッ!!!!!ガガガガガガガガガガガガッッッ!!!!!
サーヴナックルギナの口から放たれた黄金のレーザーはリングを通る毎に威力と輝きを増し、国民達が逃げるリュミエール王国の東門付近を跡形も無く吹き飛ばす。
着弾地点に黄金の火柱が立ち昇り、その火柱にも幾重にもリングが出現し高速で回転している。リングが大きく拡がると一気に収束、火柱の形を変えてしまう程に小さくなるとそのまま地面へと吸い込まれるように落下し、二撃三撃と地面を黄金の衝撃波が襲い来る――ッ!!
尚も口からのレーザーは放出され続けており、横へ薙ぎ払うと幾つもの火柱が発生し、その全てがリングを発生し更なる攻撃を加えていく……まさに地獄絵図だった。一瞬で人々は死体と成り果てた。
――シュゥゥウウウ。
サーヴナックルギナの口から黄金の煙がゆらゆらと揺らぎながら上空へと消えていく。
「次はテメェ等だなァ……?精々オレを楽しませてくれよォ?オレの国の建国記念日になるんだからなァ!!」
――キィィィンッ!!
サーヴナックルギナの瞳が黄金に輝くと、両の手首と足首に黄金のリングが発生し回転する。更に手足の二十の爪も黄金に発光し煌めく。その姿は壊される前のリュミエール王国や、ヘリオス達をも凌ぐ輝きを誇っている。
「ハハッ!悪魔にしちゃァ綺麗じゃねェか!!だがオレは勝つぜッ!!」
イーラはアルを通してこの光景を見ていた。唾液を呑まされた事で可能になったのだ。……尚パイモンとアルは正式な口頭での契約をしていた為このような行為はしていない。つまりイーラ相手にする必要も無かった。
『コレは……俺との戦いの時には使っていなかった……』
「サーヴナックルギナ様も内心迷っていたのかも〜。イーラ様が生まれて来るの楽しみにしてたから……」
『……』
複雑な感情を抱きながら戦いを見守っていた。しかし、イーラは目を見開く事になる。
『――な、なんでコイツが!?』
映像の中の敵、ケイオスが――『虹』を使用していたのだった。
「驚いたかァ?悪魔ァ!!オレの能力は『継承』!!血を舐めた事のある奴が死んだ瞬間!!その能力はオレに受け継がれるッ!!異世界転移勇者の出発前に事情を話して血を貰っていたッ!!そしてオレは彼奴とは違ェ!!この能力を最大限に活用出来るッ!!」
ケイオスの剣に虹色の魔力が既に込められているが、それを自身の身体と鎧にも付与した。
「全属性の耐性と特効を付与したッ!!もうテメーの攻撃は効かねェし、オレの全ての攻撃はテメーの弱点へと変わるッ!!もうこのオレに勝つ事なんざ不可能なんだよォ!!」
「ハハァッ!!ギャーギャー喚くんじゃねェよ、おい!!ンなモン、これから殺り合えば分かる事だろォが――よッ!!!!!」
残像を残しケイオスの背後へと既に回り込んでいたサーヴナックルギナ。右の腕を振り下ろすと爪の煌めきが五つの閃を生み出す。
「速ェ、が!!オレには見えてるやがるぜッ!!」
ケイオスは左腕でガードする。『虹』を付与した鎧でなら受け止められる判断。
――しかし、腕に手が接触した瞬間に鎧は脆く壊され、下へと叩き落とされる。地面へ到達するよりも早く、五つの閃がケイオスの左腕を切り裂いた。
「グ――ッ!?馬鹿な――!!!!」
ドォォォォォォォォォオオオオオオオン!!
「ケイオーーースッ!!」
憎み、妬み、疎んでいてもケイオスはテオスの実の、そして生きている最後の弟……。見捨てる事など出来る筈も無く、銃剣で狙いを定めていた。
「――テメェにオレは殺れねェよ、オッサン」
ギュィィィンッ。
左の手を思い切り開いてテオスへと向けると、獅子の手のように僅かに握る。するとその空間に金色のリングが現れる。高速で延々と回り続けるソレを、手を数ミリ拡げただけの力で飛ばすとテオスの胸に円形の血が舞った。
「……ッ!?」
サーヴナックルギナはこれ程の芸当を、テオスが引き金を引く迄の刹那にも満たない間にやり遂げた。光輪はテオスの体内で回り続ける。回転に合わせ血は噴き出し、テオスの口からも血が溢れ出す。
「テオスッ!!待て、八王よッ!!ワシの首を差し出す!!じゃから、息子だけは――」
「『皆殺し』って命令だッつーの!!王の癖に往生際が悪ィなァ!?おい!!テメェよ、クソジジィ!!魔王軍に喧嘩を吹っ掛けておいてよォ!?いざ自分が侵攻されたら命乞いすんのかァ!?なァ!!テメェのガキもテメェの国民も、殺したのはテメェの所為だろォがよ!?被害者ヅラしてンじゃねーよ、気持ち悪ィな!?おい、ゴルァ!!」
ブチギレてるサーヴナックルギナが左手を握り締めた、その瞬間。テオスの胸の光輪が収束し消失、テオスに風穴が空き、テオスは大量の血反吐を噴水のように上空へと噴き出した。
「ゴプ――ッ。ブクブク……」
ビチャビチャッ!!
空いた胸の虚空を血が滝のように流れ落ちていく……。心臓も、背骨も、肺と肝臓の一部も失い、支えを失ったテオスは後ろへと倒れる。しかし、地面へ後頭部が当たるよりも早く、テオスは絶命していた。
――ゴッ。
後頭部は割れ血が溢れ出す。鮮血が頭と胸の穴から流れていた。
「……ワシの責任。ソレは紛うことなき事実。なれば、ワシが八王を、魔王を倒す他、他の国々への償いはあるまいて……」
「……アァ?テメェよォ、おい、クソジジィ。開き直ってンじゃねーぞ、おい。如何転ぼうとそんな事出来る訳がねェだろォがッ!!」
「ワシの力を知らぬか。ソレも無理も無い事じゃ。使わずに死ぬ道を選ぶ位じゃからな」
ヘリオスが宙へ浮かぶ。右腕を天空へと掲げると、リュミエール王国の王城が、国民の家が、地面が、白く、金色に、光り輝いていく――。そして光の粒子となったソレ等はヘリオスへと集まっていく。
「……」
サーヴナックルギナはその光景を黙って見ていた。しかし、決して見惚れていた訳では無い。戦闘を愛するが故の、戦闘狂としての興味。ヘリオスが何をするのか、そしてその強さが如何程なのか、興味と血が湧き肉躍ったのだ。
ヘリオスの右腕の光は剣に。左腕には盾が。身体は鎧の上に更に巨大な鎧を。そして、頭には大きな兜。リーゼントや鶏冠にも見えるデザイン。そして、巨大な天使の翼が生えていた。
「ハハァッ!!おもしれェなァ!?王様よォ!!悪魔に対抗して天使のつもりかァ!?このゴエ=ティア七十二柱の大悪魔が!!天使如きに後れを取るとでもッ!?」
「天使か……そのような大それた事など思ってはおらぬ。それにコレはあまりにも強大過ぎる力……破壊の限りを尽くす天使等存在しまい?」
「破壊すンのはオレだがなァ!?」
サーヴナックルギナはテオスに放った光輪と同様の物を左手からヘリオスへと放つ。
しかしヘリオスの盾が光輪を阻む。光輪は高速回転し火花を散らすも盾を壊すには至らない。
「無駄じゃ!!ワシの盾は無敵!!」
「ハッ!!この世に無敵なんざ存在しねェんだよッ!!」
一瞬で盾へと突っ込むと光輪を纏った四肢による連撃を行う!!その一撃一撃全てに爪からの五つの閃も襲い来る!!
ガンッ!!ガガガガガッッ!!ドンッ!!ガガガガガッ!!
建物も地面も無くなり土となった大地に閃が食い込み派手に爆ぜる。
「盾ェ……壊すぜ?」
「――!!」
サーヴナックルギナの右手首の光輪が幾重にも出現する。爪の一つ一つからも光輪が現れ、絶大な魔力が収束していく。
「喰らえェェェェァァァァァァァァッ!!」
――バギィィィィィンッ!!!!!
右手が盾に触れると同時に凄まじい音が鳴り響く。同時に盾は粉々に瓦解し、サーヴナックルギナの右手から放たれた多段式レーザーがヘリオスの左腕と左の羽を穿った。そのレーザーを放ったまま左へと薙ぎ払うッ!!
ガギィッッッ!!
「ぐうぅぅぅッ!!」
既の処で右手の剣でレーザーを受け止めるが、片羽ではバランスも取れずにレーザーの勢いを殺せずに遠くの山へと衝突する。
「ガハ――ッ」
「――終わりだなァ?楽しかったぜ」
サーヴナックルギナはレーザーを止める。左手を遥か遠くのヘリオスへ向ける。人差し指で照準を合わせると、右手の光輪全てを右手人差し指へと収束させていく。弦等存在しないというのに、まるで弓を引くかのような動きをすると金色の矢が顕現する。
その矢は光輪を纏い、只々ヘリオスを射抜くその時を待っていた。
「ゴボッ……ハァハァ……」
ヘリオスは口から黒ずんだ血を吐いていた。視力も強化されており、サーヴナックルギナが矢を放とうとしているのは視認出来ても動けない……。
「……コレが大悪魔……コレが八王……ハァ……ハァ……グフッ……見事なり……ッ」
――キン――ッ!!
サーヴナックルギナから放たれた矢は一瞬にも満たない間にヘリオスの頭を貫いた。遅れて光輪の追撃が訪れ、山の形を変える程の爆発と共にリュミエール王国は完全に滅びを迎えた。




