反逆を企てた残りの八王四人にはお仕置きが必要なので新魔王としてしっかりとボコります
「……ッ!
お、お助けを魔王様ッ!私は、ベリアデスに言われて無理矢――」
――ボッ。
ベリアデスの死に恐怖し、反逆の罪に問われるのが確定した途端に言い訳を羅列し始めた八王最弱の男、『ナーベリウス』はイーラに喉を焼かれ、全身に火が回り苦しみ藻掻いている。直ぐには死ねない程度の火力でゆっくりとじっくりと焼かれていた。毛や肉、服の焦げる臭いが鼻を刺激する。
悲鳴を聞くのはイーラの趣味ではない。ましてや言い訳等……聞く価値も無い。故に真っ先に喉を潰しておいた。保身の為に動くヤツ程信用に値しない者も居ない。反逆者の一味なら尚更だった。
残りの八王の三体は微動だにしなかった。逃亡と言い訳が『死』に直結する事は理解した。故に自らが生き残る道があるか否かを模索していた。
勇敢にも立ち向かったベリアデスは首謀者、殺されるのは至極当然……。
暫く膠着状態が続くと、一体が痺れを切らして頭を掻くと、イーラを鋭い眼光で睨み付ける。
「あァ〜もうッ!!しょーがねェッ!!黙って殺される位ならオレはやるぜッ!!
亡き魔王様配下の八王が一体、『サーヴナックルギナ』ッ!!亡き魔王様の仇ッ!!このオレが討ってやらァァァァァッ!!」
一人称は『オレ』だがサーヴナックルギナは女だった。鍛え抜かれた筋肉には無駄が一切無い。しかし女性的な身体的特徴は残されていて、まさに見た目的にも性能的にも完璧な肉体だった。
獅子のような金色の瞳はイーラを明確に『獲物』として映していた。
全身に力を込めると、野獣の牙がギリギリと音を立て始める。
イーラは感じていた。この女の実力の高さを。恐らく――いや。確実に、先のベリアデスを軽く凌駕する強さ。
前魔王は力や性能で側近や幹部を選出していなかった。更に前の魔王の時代からの引き継ぎでそのまま幹部の席に座らせる等、とてもまともな軍を作れる環境では無かったのだ。元々人間の町へと攻め込む事も人間から攻め込まれる事も無くなっていたこの数千年、まともに選出する意味も無くなっていた。
『……この魔王、イーラに勝てるとでも?』
「ハハハァッ!!おもしれー事言うじゃねーかッ!!
勝てるかじゃねーよッ!!ぜってェーに勝つんだ――よッ!!」
――ガンッ!!!!!
『――ッ!?』
イーラは後頭部に一撃を喰らう。さっきのベリアデスと同様の動きの筈……しかし、目の前にはサーヴナックルギナの姿が残っている。
後頭部の衝撃により瞬きを一度すると、その一瞬で目の前に居た筈のサーヴナックルギナの姿がブレて消える。サーヴナックルギナのあまりに規格外な速さで出来ていた残像を見ていたのだ。
『……ッ』
振り向くも、既にサーヴナックルギナの残像すら其処には居なかった。
「ギヂヂヂヂヂヂヂヂヂッッッ!!!」
『!!』
ミントグリーンの鮮やかな体色の巨大なワームが二匹、イーラを挟み込むように迫って来ていた!!
イーラはすんでの処で宙を舞い回避する。
「ごめーんねー?ボク達も命、掛かってるしさー?
でもさー、でもさー?キミも亡き魔王様を不意打ちで殺したんだからさー?どんな卑怯な手を使われてもさー?文句、言えないよねー?」
「ギヂヂヂヂッ!!」
ワームはヴァッサーゴが召喚した魔物だった。口の先と咥内には無数の牙が生えている。呑み込まれたら無事では済まないだろう。
『……確かに俺は不意打ちで父親を……前魔王を殺した……。
しかし、前魔王が統治していた魔王軍には未来なんか無かったッ!!』
「はぁー?開き直ってんのー?其処で開き直っちゃってんのー?」
「……フン、聞く価値もねェ――ッ!!」
サーヴナックルギナが再び残像を残し消えた事を、身体の僅かな『ブレ』で勘付いたイーラは背後を警戒し振り返る――
――が。
――バギィッ!!!!
『ガハッ――!?』
サーヴナックルギナは背後では無く、イーラがブレに気付き振り向く事すら予測し、振り向いた際の死角……つまりは最初の正面から強烈な回し蹴りを的確に横っ腹へと決めていた。
強靭な筋肉で出来ているサーヴナックルギナの脚、更には回転を加えられたその蹴りの威力はイーラの幼過ぎる身体の骨を粉砕するには充分だった。
イーラは血を吐くと吹っ飛ばされて壁に激突、壁を壊したそのままの勢いで外の地面へとめり込む。
「――コレで終わりだッ!!」
サーヴナックルギナが大きく開口する。獅子の如く鋭く尖った牙が敵意を剥き出しにしていた。彼女の獅子の瞳が輝くと口の中心に膨大な金色の魔力が収束していく。
「逃さないよー!!みんなー!!」
ヴァッサーゴが芋虫と蜘蛛のモンスターを召喚した。二体のモンスターは土煙を上げているイーラが落ちた場所へと糸を噴射する。芋虫の斬れ味が鋭く絡み合う糸、蜘蛛の粘着質の糸の組み合わせでイーラは逃れる事が出来ない!!
「死ね――ッ!!」
ギュイィィィィィ――――ィィィィィンッ!!!!!
サーヴナックルギナの口から放たれた金色のレーザーは光速でイーラに確実に直撃し、辺り一帯を吹き飛ばした。
地面には大きな穴が空き、あまりの高温に穴の縁は溶岩のように灼熱に赤白く燃え光っていた。
「なーんだ。やっぱりさー、真正面から戦えば倒せる相手だったねー?魔王様も直接戦っていれば……」
『――それでも俺が勝っていた』
「「「ッ!?」」」
三人は目を見開く。穴からボロボロのイーラが浮かび上がって来た。
骨は複雑骨折し、内臓も破裂・損傷しているだろうに、口から吐血し身体からは流血しながらも、さも平然であるかのように、サーヴナックルギナを睨み付ける。
「……」
もう一体の八王は黙って眺めている。
『俺は、魔王イーラ!!この魔王軍を再構築し、最凶の軍団を創り上げる者だッ!!
こんな処で躓く訳にはいかねェ……!!』
「……一つ。……一つだけ……アンタに質問するわ……イーラ」
今まで傍観していた反逆側の八王最後の一体、『フルブルプル』が遂に口を開く。
フルブルプルは明るいハニーイエローの髪をしている少女だった。前髪をぱっつんに切り揃えていて、イーラを見詰める瞳は瞳孔が長方形を成している。
「……亡き魔王様の……前の魔王軍には未来が無いと……アンタは言ったけど。……でもアンタになら出来るって……亡き魔王様の事を……前の魔王軍の事を……何も知らないアンタに何が――」
『分かるさ』
イーラは真っ直ぐにフルブルプルの瞳を見詰め返しながら強く言い切る。
「……その根拠は?」
『……側近であるベリアデスが弱く、「八王」の力量もバラバラだ。逃げ出そうとした奴と命乞いをした奴は論外。精神的にも実力的にも幹部の器じゃない。それに逃亡と命乞いは魔王の幹部にあるまじき失態。それはつまり……その程度の奴等を幹部に据えていた、前魔王の失態と同義だ』
「――ッ!!テメェッ!!黙って言わせておけば――」
『サーヴナックルギナ。だったか?お前は最初、如何するか悩んでいた。此処まで俺に対して戦えるのに、だ。それは「自分は魔王側近のベリアデスより弱い」と思い込んでいた結果だろう』
「……グッ」
サーヴナックルギナは図星だった。戦闘狂の彼女だが馬鹿では無い。格上だと信じていたベリアデスの死によって、戦闘を躊躇ったのは紛れもない事実。
真の序列ではベリアデスよりも上だったが、序列は真正面から柱同士が戦い決めた序列では無く、真にその序列が正しいのかはサーヴナックルギナには計りかねていた。
『……其処の魔物使いも、実質的な戦闘じゃ弱い部類だ』
「カッチーン!ボクには幹部は荷が重いって言いたいのかなー!?」
『違う、そうじゃない。お前の能力は魔王直属の幹部じゃなくて、もっと現場に近い方が合っていると言っているだけだ』
「フン!勝手に決めるなよー!
あとボクはヴァッサーゴだ!」
『適切な人材を、適切な地位・適切な役職・適切な場所へと据える事こそが、魔王軍がこの世界に於いて絶対的な存在となる為の最低条件だッ!!
それを怠っていた前魔王は明らかな間違いを犯していた!!もう一度言うッ!!俺は此処から魔王軍の全てを正し、最凶の軍団を、最凶の魔王軍を創り上げる――ッ!!』
徐々に上昇していたイーラはついに三人の高さをも超え、見下しながら高らかに宣言した。
「……そう」
フルブルプルは見定めるかのようにイーラを暫し見詰めると、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「……アタシは『フルブルプル』。
……フルブルプルは魔王イーラ様への永久の忠誠を此処に誓います……反逆の罪にて断罪するならば……イーラ様のお好きに」
片膝をつき双眸を閉じ、ただイーラの発言を、行動を待っていた。
「ちょっ――フルブルプル!?キミ、正気!?黙って殺されるとか有り得なくない!?」
「……」
フルブルプルはヴァッサーゴは完全に無視して目を瞑ったまま黙って待っている。
『……お前達二人は如何するんだ?』
フルブルプルの処遇に関しては何も答えず、残りの二人に問い掛ける。その瞳は転生前の童貞オタクの『それ』では無く、魔王の、大悪魔を統べる魔王の『それ』だった。
「……ハッ!!フルブルプルの判断なんざ関係ねェ!!
オレは自分よりもヨエー奴の下につくつもりは微塵もねェよ――ッ!!」
「そうだそうだー!!やっちゃえルギナー!!」
『そうか』
再びサーヴナックルギナはイーラとの距離を詰める――ッ!!
突如、フルブルプルの周りにだけ強力な結界が張られる。
「え!?ちょ!?なにそれー!?」
サーヴナックルギナはイーラの遥か真上に居た。狙いは『頭蓋』。頭蓋をかち割り、脳を壊そうとしていた。強靭な筋肉と光速のスピードに加えて、落下のスピードに更に重力までもが加わり、それらが生むインパクトの瞬間の計り知れない衝撃!!まともにくらえば即死する程の威力になる!!
サーヴナックルギナがイーラ目掛けて急降下する――ッ!!
(コレでトドメだ――ッ!!)
加えて、脚を全力で振り下ろす踵落としッ!!
『俺は最凶の魔王イーラ。大悪魔・悪魔・魔人・魔獣・魔物……全ての『魔』の頂点に立つべき存在。他の同族に負ける事など……決して許されはしないッ!!』
――ゴォォォォオオオオオオオオオオッッ!!!!
イーラから黒い光が全方位へ無差別に照射される――!!!!
「グ――ッ!?」
接近していたサーヴナックルギナは黒い光が直撃し、呑み込まれると遥か彼方へ吹き飛ばされた。
「ちょ、無差別攻撃!?こんな魔王城の近くで!?ほんと待っ――あ!?フルブルプル狡い!?あーもう!!ボクも守ってよー!!」
光の直撃を受けてもフルブルプルを守る結界はビクともしない。ヴァッサーゴはちゃっかり結界の後ろに隠れた。
ヴァッサーゴは気付いて居なかったが魔王城や他の建物にも結界は張られていた。
『未だ俺は赤子の身体だ。今のままじゃ、直接やり合えばサーヴナックルギナには到底敵わないだろう。
だが、頭を使えば充分に戦える!!俺達には力がある!!そして知能もある!!俺達は最凶になれる――ッ!!』
「……流石です……魔王イーラ様」
「ぐぬぬ……わ、分かりました。
このヴァッサーゴ、魔王イーラ様に忠誠を誓います……如何様な処罰も甘んじて受け入れます……」
結界で守られているフルブルプルの背後で、ヴァッサーゴも不服そうに片膝をついた。
「はァ、はァ……クッソ……ッ!!
オレは、はァ、未だ……諦めちゃ――」
「其処までだ」
「――ッ!!
が、ガルプルギス様……ッ」
目がとても鋭い老人が宙に浮いていた。イーラも気付いていなかったが、イーラの黒い光の全方位無差別攻撃を弾き飛ばしながら接近していたのだ。
ガルプルギスにたしなめられたサーヴナックルギナは、落ち込んだ様子で項垂れていた。
「それで?新たなる魔王よ。
貴方は……この者達を如何様にするお積もりで?」
このガルプルギスから放たれている威圧感、そして瞳に灯る力強い光。
『――返答次第では殺す』
言葉には出さずとも、そう言っているのは明らかだった。
『……フルブルプルは此度の一件、ベリアデス達と行動は共にしていたモノの、俺に直接的な反逆の意思は一切見せず、逃亡・弁明・反抗も行わずに俺に永久の忠誠を誓った為……此度の事は不問とする』
「……ほう。では他の二名は?」
『ヴァッサーゴは明確な殺意の元攻撃を加えてきたが、反省して忠誠を誓った。……よって、罰を与えた後不問とする』
「……その罰、とは?」
『悪いが俺も魔王になったばかりだからな。魔王軍に、大悪魔にとって何が罰になるか分からないこの現状では答えられないが、命に関わるような罰では無い。戦力は惜しいからな。ヴァッサーゴの能力は必須だ』
「……」
『サーヴナックルギナも同様に罰を受けさせる。忠誠は未だに誓っていないが、彼女の力も必要だ。殺し、手放すには余りにも惜しい』
「……フン」
サーヴナックルギナは満更でもなさそうにしていた。
「……成る程。
それならばこの老兵は何も言いますまい」
『……体裁上、ベリアデス一人を処刑し、反逆の罪を被せる事は出来ない。八王の二人は必要な犠牲だった。だが、反逆させたそもそもの原因を作ったのは俺だ。俺の失態に他ならない。この三人の命を無駄にしない為にも、俺は必ず最凶の魔王軍を創り上げてみせる』
「フッ。……期待していますぞ?」
ガルプルギスは魔王城へと飛び去っていった。
(……戦っていたら確実に殺されていたな)
サーヴナックルギナにやられた傷で身体はとうに限界だった。フルブルプルは万が一の際には動こうと魔力を溜めてくれてはいたのだが、二人でも勝てたか如何か……。
真の序列では実はフルブルプルの方が上なのだが、ガルプルギスは侮れない相手。更には負傷しているイーラを守りながらとなると……。
(……それにしても、ヴァッサーゴは全く動く気が無かったな……。罰を重くしてやろうか……?)
『はぁ。帰るぞ、お前ら』
「……はい」
フルブルプルがイーラを抱き抱えようかと近付いた瞬間――
「魔王様ーーーーー!!」
『め、メイガイラ!?』
「はぁ、はぁ、はぁ!!
ま、魔王様を抱っこするのは私の役目なので!!」
イーラをフルブルプルから奪い取るように抱き抱えると城へと飛び去っていく。
「……別に……フルブルプルはどっちでもいい」
フルブルプルも後を追うように飛んでいく。少し頬を膨らませ不服そうだったのは誰も知らない……。
「……あーあ。ボクの罰ってなんだろ……イヤだなー……」
「ほら、行くぞヴァッサーゴ」
「ルギナも罰が待ってるのにさー?なんでそんなにさー、元気なのー?」
「……フン。オレは感じたんだ。ガルプルギス様とイーラの会話で。魔王軍がより良く変わっていく予感を……な」
「……な。じゃないんですけどー!?」
こうして前魔王派による『ベリアデスの乱』は元側近ベリアデス、「元八王」ヴァルヴァトス、「元八王」ナーベリウス三名の処刑により幕を閉じた。
設定
サーヴナックルギナ
ゴエ=ティア七十二柱の序列『四十三位』の大悪魔にして『八王』の一体。一人称が『オレ』の女。獅子のような金色の瞳。野獣の牙。ベリアデスを余裕で超える強さで鍛え抜かれた筋肉には無駄が無い。しかし女性的な身体的特徴は残されている見た目的にも性能的にも完璧な肉体を誇る。
主に肉弾戦を好むが口からレーザーを出せる。残像が残る程の速度で敵を翻弄する。
ヴァッサーゴの能力
モンスターの『使役』・『召喚』・『創成』。ヴァッサーゴの元を完全に離れ独立したモンスターとしての行動も可能。ヴァッサーゴが死んだ後もモンスターは独立している為消滅しない。
ワーム。髪色と同じミントグリーンの体色。口と咥内に沢山の牙が生え揃う。地面を掘り進む。
芋虫。体色はビビッドな紫色。斬れ味の鋭い糸を吐く。糸は絡まり相手の動きを制限する。無理に動くと絡みながら切断する。
蜘蛛。ビビッドなオレンジ色で体毛が生えてる。粘着質の糸を口と尻から吐く。任意のタイミングで糸の先を蜘蛛の巣状に広げて効率良く相手の動きを制限させる。
フルブルプル
ゴエ=ティア七十二柱の序列『三十四位』の大悪魔にして『八王』が一体。明るめのハニーイエローの髪色の前髪ぱっつん少女。外ハネボブ。瞳は髪色と同じ色で瞳孔は長方形。身長は152と小さい。黒ベースに蛍光イエローのデザインが入ったブカブカの服を着ている。
一人称は基本的に『フルブルプル』だが時と場合に応じて『アタシ』を使う。
イーラへの忠誠心は強く、イーラとガルプルギスが戦闘に移行していた場合には、ヴァッサーゴを無理矢理にでも引っ張っていき戦闘するつもりだった。真の序列はガルプルギスよりも上。
ナーベリウス
ゴエ=ティア七十二柱の序列『二十四位』の大悪魔。『八王』最弱の男だが、真の序列は『七十二位』と七十二柱に於いても最弱。サラサラの金髪ロングの男。着飾っていてブランド物のスーツを着ている。鍛錬よりも美容命。代々魔王に使えてきた為に優遇されていただけの存在。考え無しに反逆者側についた為に死を迎えた。サポート役として創られた為そもそも戦闘向きの個体では無い。
ガルプルギス
ゴエ=ティア七十二柱の序列『三十三位』の大悪魔。前魔王の側近で左腕。目の鋭い老人。元魔王の師匠的な存在だったが、元魔王がガルプルギスを超える事は遂に叶わなかった。ゆったりとしたマントを羽織っていて、マントの中が如何なっているのかは今魔王城に居る者達は誰一人として知らない。




