元魔王が殺され俺へと代替わりした事に納得をしていない元魔王の側近達が反逆を企てているらしいので容赦無くボコります
「おぉ――ッ!!こ、これが、あの異世界転移魔法!!素晴らしい!!ワシが今まで見てきたどの魔法よりも素晴らしい!!素晴らし過ぎる!!」
陽の光が一切入らない、リュミエール王国の王城の地下に広がる秘密の空間……。前魔王が息子によって殺された翌日。即日国中から集められた召喚士・魔導士が、長年使われていなかった古の魔法、異世界転移魔法を行使していた。
この大勢の中には熟練の者達も多数居たのだが、それでも圧倒的に魔力が足りていなかった。その為魔力の塊である『魔力結晶』、魔力を増強させる薬品・薬草、魔力を放出する魔物の素材等々、使える物は全て使い、大量の資金を投じて行われていた。
地面に描かれた魔法陣から光の柱が立ち昇る。凄まじい魔力の奔流が巻き起こる。天井へとぶつかるとそのまま天井を伝い部屋中に光が迸る。
ヘリオスは感動していた。まさか己の代でこの極大魔法を命じ、自らの目で拝む事になろうとは露程も想像していなかったのだ。
「我がリュミエール王国を!!
――いや、この世界をも救う勇者よッ!!今此処に、顕現せよ――ッッッ!!」
ヘリオスの声に呼応するかの如く、魔法陣は更に輝きを増していく。やがて凄まじい衝撃と共に魔法陣は壊れ、そのあまりの魔力にこの場に居た全員が目を伏せ無意識に頭を庇っていた。
「――ん……こ、此処……は……?」
光と魔力と衝撃が収まるのを感じると、ヘリオス達はゆっくりと目を開き声の主を見る。
其処には、黒髪で色白の爽やかイケメンの青年が立っていた。
ヘリオスが居る手前、誰も口には出さなかったが召喚士と魔導士の女性陣は目がハートになっていて既に心奪われていた。
「……よくぞ来てくれた。いきなり呼び出して済まなかった。我が名はヘリオス・リュミエール。このリュミエール王国の国王である」
「へ?こ、こ、国王……様……!?
――そ、それは大変無礼をッ!!」
聞いた事すら無い国名だが、ヘリオスの威厳に本物だと確信した青年は頭を下げかけるも、映画で見た知識の見様見真似で片膝をついた。
「ガッハッハ。そのような礼儀は不要だ、勇者よ。我々には貴殿の力が必要なのだ……。
今、新たなる魔王がこの世界に誕生し、我々人類の脅威となっている……。それはこの国呑みに留まらず、この世界全体の危機なのだ」
「な、成る程……?しかし僕は一般人ですよ?その魔王とやらを倒せるような武器も無ければ力も有りません……喧嘩すらした事が無いので……」
青年は学生服を着ていた。先程まで何時も通り登校し、教室で普通に数学の授業を受けていただけの、只の高校生なのだ。
魔王だとか世界の危機だとか、いきなり豪華な服を纏った老人に告げられる等、普通ならば笑い話として一蹴されてしまうだろう。本気にする人間等居やしない。しかし、授業中に自身の身体が突然輝き出して此処へと飛ばされた青年にとっては、信じざるを得ない状況だった。
異世界転移の異世界転生との明確な違いは『死んでいない事』。前の世界の記憶が、出来事が、鮮明に残っている。覚えている。間違いなく此処は異世界で、彼に課せられた使命なのだ。
「それは何一つ問題ない。貴殿は勇者に選ばれし存在。この世界へと異世界転移をした時点で『女神様』より『賜り物』が有る筈じゃ」
「賜り物……?」
「此方へ一方的に呼び出した挙げ句、休ませもせずに早速で申し訳無いんじゃが、我が国の戦力と共に魔王城へと旅立ってほしい!!
一刻の猶予も無いんじゃ!!今この機を逃せば取り返しのつかない事態になってしまう!!どうか、頼む……ッ!!」
ヘリオスは、恥も地位も立場も捨て、自身よりも若い勇者へと頭を下げる。
それを見ていた他の者達も全員が彼に対して礼を尽くした。
その光景に、青年は生唾を呑み込む。しかし、自分がやらなければこの国は、この世界は終わりを迎えるかもしれない……。責任感の強い彼には、答えなど最初から決まっていた。
「……分かりました、やります!!僕が魔王を討ち倒し、この国を、この世界を守ります!!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
彼の宣言に、地下空間に男達の雄叫びが、女達の歓声が木霊する。
青年には賜り物が何なのか理解すらしていなかったが、そもそもが断れない性格だった。班長、委員会、委員長、生徒会長、部活の助っ人に至るまで。しかしそれら全てを全力でやり遂げる実力も兼ね備えている。
青年の瞳は覚悟を決めていた。
「感謝する、勇者よ!!本来であれば大々的に式典を執り行う処じゃが、今は兎に角時間が惜しい……。貴殿の名は?」
「僕の名前は……『一』。
『ハジメ・イチジョウ』です!!」
『一条 一』は外国っぽい雰囲気に、思わず逆さに名乗っていた。
「異世界転移勇者ハジメよ!!貴殿の健闘を祈る!!」
ハジメ達は地下を出ると、身支度をさせた。
リュミエール王国を彷彿とさせるような白と金の鎧と剣……。慣れない装備と武器だが、ハジメはやるしかなかった。
既に大部隊は編成されており、こうしてリュミエール王国から異世界転移勇者ハジメを擁する一団が魔王城へと向かい出発した。
「……頼むぞ、勇者ハジメ……」
助かったとばかりに歓喜している国の者達とは違い、一団の背中を国の外まで出張り見送るヘリオスの表情は、不安が滲み出ていた……。
魔王城内部の魔王の間。
前魔王が鎮座していた、おどろおどろしい巨大な椅子。悪魔の意匠の『コレ』に座る者は今は無く、現在其処に座るべき存在は――
――自室の柔らかなベッドに一人寝転がっていた。
夢の異世界へと転生したのは良かったモノの、理想のハーレムでモテモテのチート勇者とは真逆の存在……魔王……。
更には身体は0歳児の赤ん坊……。
(つーか普通、こういうのって物心ついた時からとか、急に覚醒したりとか、戦える状態からのスタートじゃないのか……!?いや、まぁ前魔王……一応……親父……を瞬殺出来る程の圧倒的な力は有るんだが……この赤子の身体じゃ一人で自由に動けもしねぇ……)
転生してからの、この数日。彼はずっとこの部屋から出られないままでいた。
(この部屋へ出入りするのは、あのオッドアイのメイド服の女だけ……。あの場に沢山居た、人間みたいな見た目のヤツらや明らかに人外の見た目のヤツらは、誰一人として出入りしていない……。
メイドは俺に色々と話しかけながら世話をしてくれてはいるんだが、当たり前に会話は出来ねぇ。聞きたい事は山程有るってのに何一つ聞けず、この世界の事が何も分からない……。
……自分の名前すらも……。アニメに漫画・ラノベ・ゲーム……前世(?)の趣味嗜好や基本的な事は何もかもしっかりと覚えているってのに、自分に関する事は何かぽっかりと穴でも空いているみたいに思い出せない。名前も。顔も。親兄弟が居たのかさえ……。
しかし、彼女が居なかった事だけは何故かはっきりと分かる……なんならキスどころか手を繋いだ事すらも無い……寧ろソレなら、そんな記憶こそ忘れていて欲しかったんだが??)
彼が一人脳内で自問自答をしていると、メイドが静かに入ってきた。
「あら、お目覚めですか?本日もおはよう御座います、魔王様」
(俺は仮にも魔王の息子として生まれた存在……。人間の赤子のように数時間置きに世話が必要になる事は無いらしく、魔力とやらを勝手に吸収し勝手に生命維持をしている状態だった。だから食事もしてなけりゃトイレもしていない。
……肉が食べたい処だが、歯も未だ無いからな……肉はまだまだ先か……)
落胆していると、メイドが魔王をそっと抱き抱える。
「本日も元気で安心致しました。順調に成長なさっていて、わたくしは大変嬉しく思います」
(柔らかな感触と心地良い揺れで眠気が……)
「……魔王様、本当にわたくしのおっぱいが大好きですね?」
「――ッ!?」
(え、何でバレ――)
「あ。わたくし、魔王様の思考が読めてしまうんです♡」
(……!?いや、いやいやいや!!読めているなら何で今まで無視していたんだ!?色々と聞きたい事が――??
……あれ??
そ、それは、つまり、俺が異世界転生者だという事も……バレて……??)
「はい♡魔王様が選ばれし存在だという事は存じております♡あ、わたくしが心を読めるのは魔王様だけなので……」
(何で俺限定のチート能力を持っているんだ……。
……それで?俺は何で魔王に転生してるんだ??)
「それは魔王様が、前魔王様を殺してしまわれたので……」
(あー、うん。そりゃそうだ)
「一つ一つ説明しますね?色々と疑問に思われていたみたいですので♡」
(………………頼む)
「はい♡わたくしの名は『メイガイラ』と申します♡」
(メイガイラ……)
「……っ!!はい♡わたくしの名前を呼んで頂けるだなんて誠に光栄です♡
魔王様のお名前は……未だ有りません。因みに前魔王様は『魔王』という呼称だけで、個体識別名は存在していませんでした。あのお方には父や母といった者は端から存在せず、『無』から魔王になるべくお生まれたになったお方だったのです」
(そうか……)
彼は今、複雑な感情を抱いていた。転生先とはいえ、実の父親を殺めてしまった。愛する伴侶の命と引き換えに生まれた息子に殺される父親……。赤子の誕生を喜んでいただろうに。今思い返すと魔王は嬉しそうな表情をしていたようにも思えてしまう。ソレが何時までも頭の中をグルグルと淀み渦巻いていた。
「魔王様……お気になさらないで下さい。
……前魔王様も覚悟はしておられました。魔王様は母君の胎内に居られる時から強大な魔力を有しておられましたので……」
(……)
(……それに、貴方様が前魔王を殺すように仕向けたのは、わたくしですから♡)
メイガイラは異世界転生させた赤子を魔王に据え、最凶の魔王軍を創り上げる計画を密かに練っていた。その為には理想の魔王が必須。強さと従順さ、加えてイケメンである事が条件だった。異世界から最適な人材だった『彼』を自らの手で見つけ出し、己の手で殺し、この世界へと強制的に引き摺り込んだのだ。
母親である人間の体力も、出産と共に尽きるように長い年月をかけて事前に仕組んでいた。
しかし、彼女が工作をしたのは此処まで。此処から先は、この新しい魔王に付き従い最凶の魔王軍を共に目指していく。
それこそがメイガイラ……『嫉妬の女神 メイガイラ・エーリュニース』の『この世界』での暇潰しだったのだ。
「あ、魔王様?お話したい事を念じて頂けると、『念話』が使えますよ♡」
『……それを早く言ってくれ』
「あら、すんなり出来てしまわれるだなんて、流石です♡」
部屋にメイガイラの拍手の音だけが響いている。
『……で?現状の魔王軍は如何なっているんだ?』
「……はい。前魔王様が亡くなった事により、以前の序列や統制は完全に崩壊しています。魔王様が新たな序列や幹部を設立して頂く他、無いかと……。前魔王様の側近だった者の中にも魔王様への不満が有る者が居るらしく、何時反乱が起きてもおかしくない状況でして……」
メイガイラは申し訳無さそうに視線を逸らした。
『そんな状況で俺と意思疎通をして来なかったのか!?今の今まで!?』
「ひん……。教えたら、魔王様のお世話係としてのわたくしの楽しい日々が終わってしまうと思いまして……。それに、その、魔王様もわたくしのおっぱいに包まれて嬉しそ――」
『と、兎に角ッ!!
その側近とやらと反抗勢力は制圧しないといけないな!!』
「魔王様でしたら容易に制圧出来るかと。念話と同じ要領で『浮かべ』と念じると浮かべます」
『……ん。
――おぉ!!自由に動けるッ!!』
彼はメイガイラの胸元から浮かび上がり、同じ要領で宙を動き回っている。
メイガイラは眉を下げ、寂しそうに彼を目で追っていた。
『しかし、名前が無いってのは不便だな……』
彼の言葉を待ってましたとばかりにメイガイラはオッドアイを輝かせながら自信満々に言い放つ。
「っ!!……魔王様!!実は、このメイガイラ!!
お世話をさせて頂いてからずっと、魔王様のお名前を考えておりました!!」
『……言ってみてくれ』
「はいっ!!
『イーラ』様!!
魔王『イーラ・エーリュニース』様です!!」
『……イーラ。『憤怒』か。悪くない。
しかし、『エーリュニース』っていうのは魔王っぽさが無い気がするが?』
「この世界には、生物の個体名を利用する魔法・魔術・呪術の類も御座います。万が一にも誰にも想像出来ないお名前の方が何かとご都合が宜しいかと。
『エーリュニース』については、わたくし達だけの秘密……として、『魔王イーラ』様として全世界にその名を知らしめるのですっ!!」
『……成る程。よし、ソレで行こうッ!!』
「っ!!
このメイガイラ、至高の栄誉で御座いますっ!!」
イーラがメイガイラの『イラ』から付けられた名前だと、イーラが気付く事は無かった。
『それで、だ。その側近とやらは今何処に?』
「……今は自身の城へと帰り、恐らくは志を共にする仲間達と作戦の会議中かと」
『そうか。側近の名前と外見の特徴、城の位置を教えてくれ』
「名は『ベリアデス』。赤銅色の身体に、灼熱に燃え上がる髪の毛が特徴の男です。
城は……あちらに見えている、赤く燃える城が彼の――」
魔王の自室の窓からハッキリと見えていた。
『分かった、俺が片付けてくる――ッ!!』
「っ!!何と頼りになるお方……素敵です……っ!!
お気を付け下さいませ、魔王イーラ様っ!!」
念力で窓を開けるとイーラはベリアデスの城へと一直線に飛んでいった。
「……やっぱり、彼にして正解でした♡
彼ならば、魔王軍をより強く出来る……♡」
ベリアデスの城。一番大きな空間の中心には真っ赤な円卓が置かれており、ベリアデスは中心に座っていた。
「幾ら今は亡き魔王様の血の流れる実の子息とはいえ、赤子なぞにこの魔王軍を統治する事は不可能だッ!!早々にヤツを殺し、新たな魔王軍を再興しなくてはならないッ!!」
ベリアデスは熱弁している。ベリアデス配下の者達は当然同意していた。
「でもさー、ベリアデス様ー?
仮にも魔王様を一撃で殺した相手をさー、ボク達だけで倒せるもんなのかなー?」
彼に意見したのは『ヴァッサーゴ』。前魔王の八人の幹部『八王』の一人であった。
この場には八王が五人も集まっている。つまり幹部の過半数がイーラに対して不満・不信感を募らせていたという事に他ならない。
更に側近と八王は全てが悪魔をも超える大悪魔であり、『ゴエ=ティアの七十二柱』と呼ばれる大悪魔集団の一柱だった。
「亡き魔王様は自身の赤子から不意打ちを食らっただけに過ぎないッ!!我々で、あの赤子を確実に殺――」
『成る程な。『ソレ』がお前等の答えって事で良いんだよな?』
「「「「「「――ッ!?」」」」」」
元魔王の側近一人と八王の五人すらも恐怖を感じ、椅子から飛び上がる。
次の瞬間――
――ゴゴゴゴォォォォォォォオオオオオッッ!!!
轟音と共に天井が消し飛んだ。魔王城周辺の曇天の空が、僅かながら自然の明るさを部屋へと、もたらす。
宙に浮いているイーラを見ただけで、ベリアデス配下の者達は想像を絶する恐怖に襲われていた。ある者は失神、ある者は失禁し座り込み、またある者は主を置いて逃げ出した。
『……逃げる奴は「俺の魔王軍」には必要ないな』
幼き人差し指で逃げる背中を指差すと、呆気なく燃え散った。
「――ッ!!全員、かかれッ!!
コイツは絶対に此処で殺さねばなら――」
ベリアデスが瞬きをした一瞬。その一瞬で、イーラの姿は全員の視界から消えていた。
「なッ……!?や、ヤツは一体何処へ――」
「ギャァァァアアアアアアアバババババッ!?」
「如何したッ!?」
悲鳴の方を振り向くと、八王が一体、『ヴァルヴァトス』の上半身が既に無くなっていた。残った半身も黒焦げになっており、焦げ臭い臭いが充満している。
ヴァルヴァトスも逃げようと足を僅かに後ろへ引いてしまっていた。それが八王で真っ先に処された決定打だった。
ヴァルヴァトスも八王でありゴエ=ティア七十二柱の一柱。弱い筈も無いのだが、イーラが桁外れに強過ぎた。
『なんだ、今のが見えないのか?
元魔王の側近も幹部も、案外大した事無いんだな。なら、遠慮無く全員殺しても良さそうだ』
「ッッッ!!このクソガキがァァァッ!!
あの方をッ!!我々をッ!!侮辱するかァァァッ!!」
ベリアデスは魔力を解放した。
マグマのような魔力はベリアデスを呑み込むように天へと登り、曇天の雲を穿つ。
そのマグマのような魔力が裂けると、ベリアデスの真の姿が覗いた。それは炎の悪魔と呼ぶに相応しい禍々しい形態……。口からは白煙が上がり、マグマの涎が垂れる度に床が溶け落ちる。黒い鎧のような筋肉質な身体にはマグマが流れている。処々は灼熱のような赤い肌も残っており、ゲームやアニメの知識が無い者であろうと全員が彼を見てこう言うだろう……。
『悪魔だ』――と。
「コロス……コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスゥゥゥゥゥゥゥヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴァァァァァアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!」
ベリアデスは両の腕を燃え上がらせるッ!!その巨体からは想像も出来ない程の速度で、イーラの背後へ瞬間移動すると両手を合わせ、指を交互に絡ませ、炎の拳をハンマーのように振り下ろすッッッ!!
「ツブレロツブレロツブレロツブレロツブレロツブレロツブレロツブレロツブレロツブレロツブレロツブレロツブレロツブレロツブレロツブレロォォォオオオオオオオオオオオオオアアアアアアッッッッッッ!!!!」
拳が当たる直前、ベリアデスは世界の時間がゆっくりにでもなったかと錯覚する。超スピードで振り下ろした筈の腕が、あまりにもゆっくりイーラの後頭部目掛けて近付いていく。
その時の流れの中で、イーラはゆっくりと、しかし拳よりも遥かに早い速度で振り返り、ベリアデスを哀れむような瞳で見詰めた。
『この程度で、魔王の側近……悪いが心底ガッカリだ。
だが、安心しろベリアデス。今後の魔王軍はこの俺、「魔王イーラ」が最凶の軍団として率いてやる』
先程の煽りとは違う、心の底からの落胆。
同時にイーラは魔力をほんの少しだけ解放した。そのほんの少しは、本気のベリアデスをも遥かに凌駕する。
ベリアデスは、悟った。
――自分の『死』の運命を。
そして、この魔王イーラは亡き魔王をも凌ぐ存在であるという事を。いや、実際には元魔王を一撃で殺し、空を焼き尽くしたあの瞬間に理解していた。しかし、忠義から認める事など出来なかったのだ。
「……マオウグンヲ……タノム……」
『………………任せろ』
イーラが手を横に薙ぎ払うと、ベリアデスの身体は一瞬で消し炭になった。僅かな痛みすら感じない程の刹那。彼のせめてもの慈悲だった。反逆を企てた首謀者を許す事は組織の崩壊を招きかねない。他の選択肢など存在しない。してはいけない。
後味は悪いが、反逆を未然に防ぐ事には成功した。
道は違えど、同じく魔王軍をより良い物にしようとしていた父親の側近へと、心の中で黙祷を捧げていた。
設定
イーラ・エーリュニース
イーラは『憤怒』でありメイガイラのイラ。むしろ後者の意味の方が強いがメイガイラしか知らない事実。エーリュニースの名を貰い、人知れず女神との契約を果たしてしまっている。念で浮かぶ際にはオーラのようなモノは発しておらず、只々赤子が宙に浮いているように見えている。
メイガイラ・エーリュニース
その正体は『嫉妬の女神』。エーリュニース三姉妹の次女。前魔王体制時には一メイドだった為、他の者達には女神だとはバレていない。
ゴエ=ティア七十二柱
悪魔をも超える存在、大悪魔の七十二体の総称。『序列』が存在するが表向きの序列はゴエ=ティアによって『創られた順番』であり強さは関係無い。しかし自分達には真の力の『序列』が分かっている。
ベリアデス
ゴエ=ティア七十二柱の序列『六十八位』であり元魔王の側近二人の内の一人。元魔王の右腕の炎の魔人。赤銅色の筋肉質な身体。髪は常に燃え上がっている。上半身は裸で下は武道用の黒い袴。常に裸足。魔力を解放すると大きな翼と角が生え、身体も数倍に膨らみ黒い鎧のような筋肉を帯びる。マグマが流れているかのように魔力が流動し、唾液はマグマそのもの。常に口から白煙を吐いている。純粋なマグマのような炎で攻撃する脳筋パワータイプ。
八王
元魔王の幹部の八体でその全てがゴエ=ティア七十二柱の大悪魔。当然ながらメイガイラは含まれていない。
ヴァッサーゴ
ゴエ=ティア七十二柱の序列『三位』であり『八王』の一体。ボクっ娘。灰褐色の肌にミントグリーンのショートヘア。前髪は更に短め。瞳はハロウィンのカボチャみたいなオレンジ色。前魔王が殺された事に対しては複雑な感情を抱いており、明確な反逆の意思があった訳ではない。ベリアデスが殺された際には、『やっぱり』という感想しか出て来なかった。
ヴァルヴァトス
ゴエ=ティア七十二柱の序列『八位』であり『八王』の一体。八王の中で知能が一番低く、真の序列はかなり下位。圧倒的強者を前に『死』を感じ、逃亡したベリアデス配下が死んだ直後に後退るという愚行を働く。髭を蓄えた中年オヤジという印象を受ける見た目。服装はヴァンパイアに酷似しており反逆者達の会議ではワインを嗜んでいた。
ハジメ・イチジョウ 一条 一
異世界転移者。ヘリオスの名前が外国っぽかった為、名前と苗字を逆に名乗った。黒髪で前髪は目にかからない程度。後ろは短めで清潔感のあるイケメン。真面目で彼女も居たが転移で離れ離れに。高校2年生で生徒会長をしている。数学の授業中に強制転移される。漫画等の趣味は一切無い為『異世界転移』についてはあまり理解していない。紺色の制服を着ていたが、リュミエール王国発の勇者らしく白と金の鎧と剣を携えて魔王城を目指し出国した。
魔力結晶
様々な色が有る魔力の籠もった結晶。色によって魔力量や価格、価値等に差が生まれる。




