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目を覚ましたら目の前に魔王っぽいのが居たのでボコります

 ……俺は……そうか……俺は死んだんだ。


 身体が宙に浮いているような浮遊感と共に深海へと堕ちていくような相反する感覚……いや、感覚は既にない……死んだら三途の川を渡らず無へと向かいただただ堕ちていくのか……天国も地獄も無いんだろうな……息苦しさも感じないが泡が上へと昇っていく……光がどんどんどんどん遠ざかる……目を開けているのに何も見えなくなっていく……もし生まれ変わりなんてものがあるなら……チートで無双したいな……意識が徐々に薄れて……完全に無になった。




「……?」


 (まぶた)を閉じているのに眩しさを感じる……?俺は死んだ筈……生きていたのか……?薄っすら目を開けると目の前には……醜悪な化け物が居た。


「――ッ!?」


 青黒い肌、口からはみ出し上へと伸びる牙、尖る耳に金色のピアス、頭には禍々しい角、ゲームでよくみるオーラのようなモノが紫色の炎みたく揺らいでいる。


「〜〜!!」


 助けを呼ぼうと声を発しようとしても何も出ない。コイツの圧か?恐怖故に?明らかに夢とは思えない感覚と直近の死んだ記憶、アニメを見ていた俺には分かる、俺は異世界転生を果たしたのだと!こういう転生したらチート能力が付与されてるのが定石、声も発せないが俺にはやれる。その謎の自身が俺、「」を動かす!右手を前に出し魔法を出そうと試みる!!……なんか右手ちっちゃくね?




 ギュイイイイイイイイイイン!!!





 右手に聖なる光――じゃなく禍々しい黒い光が集まると目の前の化け物の頭を吹き飛ばし、後方の壁をも壊し、その光は遠くの山をも穿ち地形を変え、遠くの空を焼き尽くした……。思ってた感じと違うが……強そうなヤツを倒した!!これでチヤホヤされる異世界転生生活の幕開けだ!!


「流石で御座います、坊ちゃま……いえ、魔王様」


 ……は?声のする方を向くと女性が立っていた。黒いメイド服に色白の肌が際立つ。頭を下げて礼を尽くしていた。顔を上げた彼女の顔はとても美しく此処が元いた世界とは別世界なのを再認識させた。タレ目で右眼は金色、左眼は銀色のオッドアイ。左眼の下には2連の黒子(ほくろ)、唇の左下にも黒子が。角は無く人間に見えるが……魔王様?俺が……?


「お生まれになり直ぐに前魔王様であるお父様を排し、自らが魔王の座に君臨なさるとは……流石で御座います」


 再度褒められても思考が追いつかない。確かに……手から出た魔法が禍々しくてビックリだし手は小さいが普通に生前と変わらない色をしているぞ……?


「……母君は人間、魔王様の誕生に耐え切れず絶命されました。本日より魔王軍は貴方様の物。我々は貴方様に忠誠を誓います」


 人間と変わりない見た目の者も人外も全てが片膝をつき忠誠を誓う。この瞬間、新たな魔王が誕生した。




 魔王の死、そして魔王の息子が新たな魔王へ即位した事は人外達だけでなく人間社会へも知れ渡る。長年倒せなかった魔王を生まれ落ちた日に倒した魔王の息子……その事実は人間を恐怖に落とすには充分過ぎ、魔王の死を喜ぶ者は一人も居なかった。魔王城から放たれた息子の光が空を焼き尽くした光景は絶望そのものだった。


「……勇者だ。勇者を……召喚する……ッ!!」


 大国の王族は異世界転生魔法の行使を決断する。余りにも大量の魔力と資金を投じなければ発動すらさせられない古の超魔法。過去にとある国が試すも前魔王には及ばず失敗、以来試す国は居なかった。が、状況が変わった。前の魔王は直接国へ攻めてくる事は無かったが、新しい魔王は生まれ落ち直ぐに実の父を亡き者にする真の魔王。その事実は異世界転生魔法を行使するしかないと告げているようなものだった。




 魔王城。メイドが俺を抱き抱えるとゆさゆさと揺らしている。他の者は全員部屋から出ていきメイドと二人きり。完全に赤ちゃんなんだな、俺は。


「よしよし。魔王様、たっぷりお休みになって下さいね。おっぱいはあげられませんが、魔力が満ちているので順調に成長出来ますよ」


 ……ちょっと期待した自分を殴りたい気持ちになるも今は素直に眠るとしよう。光を出してから疲労……倦怠感と眠気が凄い……。


 すぅ……と眠りに堕ちていく。深く、暗く、ゆっくりと……。


「よしよし、いい子です魔王様。流石は私が……この世界に導いたお方♡」


 メイドは腕に抱く赤ん坊の額に口付けを落とす。金色と銀色の模様が浮かび上がると直ぐに消えていく。舌なめずりをすると


「私達でこの世界を……魔王様の世界にしましょうね♡」


 メイドは生涯尽くすと決めた御主人様へと唇を重ねていた。

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