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言葉を話せるようになったので鑑定の能力を存分に使わせて頂きます

 数ヶ月が経ったある日。


「……マ……マ……っ……」


「……え?」


 カンナは目を開きメイルを見詰めていた。未だハイハイすらも出来ない生後5ヶ月の愛娘の口から発せられた言葉に耳を疑う。


「……メイル?」


「……マ……マっ!」


「――!!」


 カンナの瞳が潤むと涙が零れ落ちる。早朝から漁を終えて一度帰宅していたロッドがカンナの涙に気付くと慌てた様子で近寄る。


「ママ!?一体如何した!?」


「パー……パっ!」


 ロッドは声の方を見詰めると、メイルを視線が交わる。メイルは満面の笑みを浮かべて口を開く。


「パーパっ!」


「め、メイルぢゃんんんんん!?」


 ロッドはカンナの涙とは比べ物にならない程に大量の涙を滝のように垂れ流し、鼻水までもが流れ落ちていた。


「ぐすっ……こんなに成長が早いなんて、子供はあっという間に大きくなってしまうのね」


 涙を指で拭いながらカンナは染み染みとメイルを眺めていた。


「そー……とっ!」


 メイルは手を窓へ向かって伸ばし、外に出たいとアピールをする。このまま家に居ても鑑定の力を生かし切れずに無駄に時間を消費する事になってしまう。


「あら、メイルはお外に行きたいの?じゃあ少しお散歩しましょうか」


「メイルちゃんに何かあったら困るから遠出はしちゃいけないよ!?」


「はいはい。パパは心配性ね。……この子、凄くしっかりしてるからきっと大丈夫よ」


 何かを考えるとカンナの顔が一瞬、メイルには少し曇った様に映っていた。


「……マーマっ?」


「ふふ、大丈夫よ。メイルは私達の大切な娘だもの」


 カンナはメイルを抱き抱えながら外へ出る。メイルは急かすように、未だ見ぬ遠くを求めて手を伸ばしている。


 今までメイルが知らなかった場所まで歩いていく。遠くに漁師が見えると、メイルは早速鑑定を始めた。視界に映れば距離は関係無いらしい。植物等にも興味があったが、一番重要なのはやはり人物だと考えていたメイルは連日鑑定をし続けた。






 やがてハイハイをし、掴まり立ちをし、自分の脚で歩き出し、そんな頃には鑑定結果は膨大な量になっていた。人の行き来も頻繁な港町。ラクス共和国の外から来る人間達からは特に有益な情報を仕入れる事が出来た。




(……この国が、この世界が今平和なのは、魔王という共通の敵が存在する事。そしてその肝心の魔王は人間の国を直接的に攻撃してくる事は今の魔王になってからは一度も無いという事。


 人間とは比べ物にならない程の寿命を持つ魔王……。私の寿命も精々80年とか其処らの筈。つまり今のままの状態が続けばまったりスローライフは確定したも同然じゃないのっ!?数百年数千年、もしかしたらそれ以上の期間何もして来なかったのよ!?あと70数年程度、余裕なんじゃないの!?)


 幼いメイルは希望に満ち溢れていた。




 ――しかし、希望は絶望へと変わる。






 ロッドの船が沈没、ロッド含む乗組員の男性3名は生死不明になった。


 原因はラクス湖に生息する『主(ぬし)』と呼ばれる魔獣だった。ロッドの船は主と呼ばれる水龍のような魔物の首で締め付けられ真っ二つに折られ沈没。必死に泳ぎ助かろうとする3人の乗組員目掛けて大口を開き飛び掛かったのだと、目撃していた他の船の漁師からの証言があったらしい。


 この目撃証言もあり、早々に捜索は打ち切られる。




(……折角、幸せになれると思っていたのに)


 メイルは自宅で泣き崩れるカンナの姿を見て、自然と涙が溢れていた。


(前世の記憶がある、生まれ変わりをしている私にとって、二人は本当の意味での親子では無いのかもしれない……でも……それでも……。




 大切なパパだった……)


 カンナはメイルに気付くと抱き締める。


(あぁ……温かい……ママ……)


 カンナの温もりに包まれながら、腕の中のメイルは女神エリスの言葉を思い出していた。




『自殺とは罪なのです……』


『世界はソレを許しません――』


『葵さん、貴女は過酷な異世界へと転生して貰う事になります』


『貴女の異世界転生はあくまで「罰」なので』




(あぁ……そうか……これは『罰』なんだ……。私が自殺だなんてしちゃった所為で……私がこの世界に転生なんかしちゃった所為で……私なんかが娘として生まれて来ちゃった所為で……パパは……ロッドは死んだんだ……)


「……私なんかが……生まれて来なければ良か――」




「――そんな事無いっ」


 カンナは抱き締めたまま言い切る。


「ママ……私……」


「……異世界転生者なのよね?」


「……っ!!」


 カンナの口から出た言葉に心臓を掴まれた気がして、反射で身体を引こうとするもカンナは優しく抱き寄せる。


「貴女はメイルよ。メイルは私達の大切な娘なの。貴女が異世界転生者だろうと、貴女の所為なんかじゃないし、私達の大切な娘である事に変わりはないの」


「でも……私の『罪』が……」


「パパは主に襲われたの。悪いのは主なの。メイルは何も悪くないの」




 カンナの言葉から伝わって来る。本心なのだと。メイルを庇うつもりも、自分に言い聞かせている訳でも無い。心の底からそう思っているのだと。


「ずっと不妊で、待ちに待って授かったのが貴女なのよ?大丈夫、メイルは私が守るから……」


 カンナの温もりと優しさで、メイルは見た目通りのように泣きじゃくった。カンナも涙を流していたが、メイルを守ると誓った彼女は先程の泣き崩れていた弱い姿では無い。大黒柱になると決めた、強い女の表情だった。

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 主(ぬし)

 ラクス湖に住む魔獣。水面から水龍のような頭を出し、船を破壊して乗組員を食べる。遥か昔より主として君臨している為に被害は多いが、頻度は少ない。

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