異世界転生して得たスキル『鑑定』を活用して大切なママを守ります
メイルは異世界転生を見抜いたカンナに、これまでの全てを話した。勿論前世の記憶についても包み隠さずに。
カンナはそれを、何一つリアクションもせずに最後まで聞くと、ゆっくりと口を開いた。
「……メイル。貴女は何も悪くないわ。自分の意思で死を選んだ訳じゃないもの。それに……この世界にも、『その選択』を選ぶ人間は少なからず居るわ。……ママは、それを悪とも罪とも思わない。
『鑑定』の賜り物……もう少し早くから出歩いて色んな人や物を見せてあげていれば良かったわね。パパがあまりにも親バカだったから、少し過保護になり過ぎていたわ……。ママも心配でパパには同感だったのだけれど。やっと授かった大切な娘だったから。
……異世界転生者だとバレると、悪い大人達に利用されてしまうから、ママとの秘密ね?賜り物は元々発現したスキルって事にしたいけれど、私達の娘にしては少し強力過ぎるかな……」
「それなら、私に考えがあるの」
「考え……?」
メイルはしっかりとした表情で頷く。カンナにはとても心強く映っていた。
「相手の全てが分かるって言わずに、『相手の名前と秘密が分かる能力』って事にするの。
これなら鑑定で得た秘密を開示して悪い人を告発も出来るし、怪しまれないでしょ?嘘も吐いてないわっ!」
カンナはドヤ顔のメイルを見ると、思わず吹き出してしまう。
「流石ママとパパの娘ね、賢いわ」
優しく抱き締めると頬擦りをする。たとえ異世界転生者だろうと、娘には変わりない。自慢の娘への最高の愛情表現だった。
「ちょ、ママ!?……パパの溺愛っぷりが移ってる……」
「ふふ、だってパパの分までママが溺愛しなきゃ♡」
二人とも内心は未だ傷心している筈。しかし、二人は互いを支え合い、現状を乗り越えようとしていた。
その日から、二人は色々な場所を巡った。メイルは物の鑑定を止め、人間の鑑定に尽力した。漁師、商人、旅人、そして軍人や大統領までもを鑑定した。
その結果、このラクス共和国のトップが腐り切っている事実を目の当たりにする事になる。
(今の大統領と『ラクス共和国軍』の総帥は終わっている……!!このままじゃこの国に未来なんて……)
現ラクス共和国大統領、『ポルコ・ファウル』。上下スーツに同生地のハット、口には葉巻を咥えている恰幅の良い男。前世の世界ならマフィアのボスとしか思えない風貌をしていた。
此処は共和国。選挙によりその地位へと君臨しているが、清き政治をしてきた訳では無く国民からの信頼等皆無だった。特に漁師達からは不満が殺到。彼がラクス湖の治安改善を放置していた為、ロッドが死んだと言っても過言では無かった。
彼は国民の安全や幸福よりも自身の利益を優先する屑だったのだ。
そして、現ラクス共和国軍総帥『サエウム・クルーア』もポルコと同類の人物。
この現状を鑑定で知ったメイルは思考を巡らせ、一つの考えへと行き着いていた。
(私が、ポルコとサエウムを今の地位から引き摺り下ろす……っ!!)
ロッドを失ったメイルとカンナは、他の漁師の
手伝いや市場での仕事で生活費を稼ぎながら情報を集める生活を続け、気付くとメイルは12歳を迎えていた。
現状は何も変わらず、未だにラクス湖の主による漁師の被害は定期的に起こっている。
だが、メイルには現状を変える目処がついていた。
「ママ、行ってくるね」
漸くこの時が来た。メイルは覚悟を決めるとカンナに出発を告げる。
12歳になり身体も心も成長したとはいえ、未だ幼い見た目の我が子にカンナは心配が募り、胸元で手を握り締める。しかし、異世界転生の事を打ち明けられた時にこうなる事は分かっていた。カンナは覚悟していた筈だった。
「……気を付けてね、メイル。愛しているわ」
止めたい気持ちを圧し殺して抱き締める。互いに想いが込み上げ涙を流すも、相手に悟られないように嗚咽を我慢し、二人だけの時間がゆっくりと過ぎていく。
「よし、行ってきなさい!!貴女なら絶対に出来るわ!!」
「……うんっ!!」
涙を笑顔で隠しながら、メイルは街へと駆けていく。
(……どうかあの子が無事に帰って来ますように……見守っていてあげてね、パパ……)
カンナはメイルの背中が見えなくなる迄、見えなくなっても暫くはその方向を見守り続けていた。
「……先ずはあの人に会わないと」
メイルはとある人物に会おうとラクス共和国軍の北側の支部へと向かっていた。軍は中央の大統領官邸近くに本部が置かれ、中心地を守る高い塀の東西南北に支部が置かれている。その外側の大きな街には小規模の駐屯地があり、港町と外周には戦闘員はほぼ居ない。不法侵入者の検知、阻止が目的で国民を守る意思は無い。
この堅牢なラクス共和国でも、ポルコ大統領は常に塀の中に居る訳では無い。サエウム総帥を筆頭に、四つの支部を任されるラクス共和国軍四天王の全員を引き連れ式典に出向いていた処を鑑定したのだ。
その際、四天王は全員善人だったが、一人。北側の支部の守護を任されていた『』だけはポルコとサエウムに対し疑念を抱いていた。メイルは『』しか無いと考え、作戦を練っていたのだ。
とはいえ、所詮は前世でも18歳の少女。転生後を含めても30歳でこういう経験は無い。それはカンナも同様で、作戦と呼べるような代物では無いのだが、彼ならば動いてくれるとメイルは確信していた。
信用を得る為に、とメイルは一人で北の支部を目指す。自力で辿り着く事により、母親に連れられて来る少女とは印象に雲泥の差が有る。
自ら馬車を捕まえて、揺られながら向かっていた。
(……大丈夫、私ならやれる)
メイルが行おうとしている事は現大統領と現総帥の告発。それは反逆罪に等しい行為。もし『』の心を得られなければ、メイルは処刑されるだろう。それは母親であるカンナにも及ぶかもしれない。巻き込むのも怖いのだが、何よりも『死』が怖かった。
一度死を経験しているからこそ、余計に恐怖心が何倍にも増していた。
(……私がママを守らなきゃ!!)
服の裾を握りながらカンナへの想いを勇気へと変えて、遂に北の支部へと辿り着いた。
此処から彼女の異世界生活が本格的に始まる――!!
設定
ポルコ・ファウル
ラクス共和国大統領。上下黒に白のストライプのスーツ。同生地の中折れハットのリボンとネクタイは水色(ラクス色=ラクス共和国のイメージカラー)。口には葉巻を咥えている恰幅の良い男。赤茶の髪はオールバック気味。
サエウム・クルーア
ラクス共和国軍総帥。ラクス色の軍服を纏う。軍帽から覗く眼は鋭い。グレー髪の七三分け。同色の一の字の口髭。顎髭は鎖骨まで。細身だが筋肉質。




