異世界に転生したら鑑定スキルを賜ったので悠々自適なのんびりライフを送っていたのに新たな魔王の所為で絶望してます
周りの全てを巨大な湖、『ラクス湖』に覆われている大国、『ラクス共和国』。ラクス湖はあまりにも大きく対岸は見えず、移動は空中か船という最早海のような湖だった。
中央の陸地の外周は全て港町となっており、人や物資の往来が盛んで賑わいを見せていた。
人や物資の監査は厳しく、ラクス湖の外周の陸地にもラクス共和国の建物が整備されて検査をしないと船への乗船が許されない。巨大な湖が自然の要塞を担っていた。
そんなラクス共和国のトップに君臨しているのは未だ若い女性だった――。
「ふっざけてるんじゃないわよっ!!なんなの!?新しい魔王!!私ののんびり異世界ライフを邪魔しないでよ!?そもそもリュミエール王国のクソジジイが勝手にやった事でしょ!?私達も他の国も関係無いじゃん!!」
女性は部屋の中で叫び、狂っていた。部屋は防音の結界が張られている為言いたい放題だった。勿論パイモンの千里眼でも覗けない。
「はぁっ!はぁっ!はぁっ!大体、生まれて直ぐに父親を殺すような魔王なのよ!?危険だと思うに決まってるじゃないっ!!」
――バンッッッ!!!
女性は水色の机を思い切り台パンをする。強く叩き過ぎたのが痛みを涙目で堪えていた。
「〜~〜っ!!!」
女性は暫し痛みと格闘していると、痛みが引いてきたのか防音の部屋の窓から外を眺める。
「……もし、この国が魔王に襲われたら……私達は戦えるの……?」
女性は深呼吸をすると自身の頬を思いっきり挟むように叩く。
――ペチンッ!!
「……私が弱気になって如何するのよっ!!私はラクス共和国の大統領、『メイル・ブルー=レイクリッド』なのよ!?私が皆を引っ張っていかなくちゃダメなの!!私はもう、『湖海 葵』じゃないのよ……っ」
メイルは前世の、葵だった頃の記憶を思い出していた。彼女はイーラと同じ異世界転生者だった。生前は幼い頃から習い事と勉強の日々。クラスメイトとの放課後の楽しい遊びなんて彼女には存在しなかった。年齢を重ねる毎に習い事は増え、勉強時間も常人には考えられない程だった。
そんな彼女がゲーム等の娯楽を嗜める筈も無く、このような世界の知識も有る筈が無く、イーラよりも苦労と困難に見舞われた異世界転生生活だった。
そもそも何故彼女は死んでしまったのか。親が敷いたレールを只管に歩んで来た彼女……。しかし彼女は何時も二番だった。ピアノやバイオリンのコンクール、スポーツの大会、更には学年の成績までも。
充分凄い事なのだが、彼女の両親はコレを良しとはしなかった。彼女が部屋で勉強中、父親が帰宅すると毎晩のように教育方針で罵り合い怒号が飛び交う。互いに常にトップで居た者同士の衝突だったのだが、彼女の精神は擦り減っていた。
そして、大学受験の失敗で、糸がぷつんと切れてしまう。
彼女の学力が、努力が、実力が足りなかった訳ではない。両親からのプレッシャーで、試験が始まると強烈な腹痛。冷や汗を流しながらも奮闘するが、集中出来ず点数は散々。
――案の定不合格。
再び両親が喧嘩をする未来は視えていた。彼女は虚ろな瞳で独り夜道を流離い、気付くと眼下には夜景が広がっていた。
何処かも分からないビルの屋上に立っていた。帰宅しない彼女に対するメッセージや電話が止め処なく送られていたのだが、不合格を知り直ぐに電源を落としていた為彼女に届く事は無かった。
「……綺麗ね」
あまりにも美しい景色。日本三大夜景には及ばないだろうが、それでも今の彼女には充分過ぎる程に美しく映っていた。
そして、その光に誘われる。
まるで街頭に惹き寄せられる蛾のように、何の躊躇いも無く一歩を踏み出し――
――グチャッ。
彼女の約18年という短い生涯は幕を下ろした。
「ん……っ。此処……は……?」
彼女が目を覚ますと、宇宙空間のような場所に居た。床の感触は感じるが床そのものを視認出来ていない。
「お目覚めですか、お早う御座います」
「――!?」
誰かが居るとは思っておらず、突然声を掛けられて肩をビクッと震わせた。
「あら。済みません、驚かせるつもりは無かったのですが」
言葉とは裏腹に悪怯れる様子も無く淡々と告げているこの女性。冷たさをも感じさせる美しい青い瞳に、ウェーブさせた胸元程の長さの青い髪をしていた。
「葵さん」
「っ。な、何で私の名前を――」
「わたしは『エリス』。『エリス・サルビア=ヒヤシンス』と申します。とても残念ですが、貴女はもうお亡くなりになりました」
「――え?」
その言葉を聞いた葵は、何が何やら、何も分からなくなっていた。
設定
メイル・ブルー=レイクリッド
ラクス共和国の大統領にして異世界転生者。瞳も髪色も湖のように水色。私服は水色のワンピースに裸足姿。完全防音の自室で叫び散らかすのが日課。齢18。生前も18だった為、実質36歳。
湖海 葵
メイルの前世。黒髪ロングのストレート。コンクールに出る為に身嗜みは徹底されており髪は艶々。何かをする際には結んでポニーテールにしている。私服やコンクール衣装は水色が多い。小学生時代のランドセルも水色。両親からのプレッシャーで過敏性腸症候群を発症。初めて発症したのが大学受験の試験日で対策を講じる事が出来なかった。自殺する意思は無かったが転落死してしまう。
エリス・サルビア=ヒヤシンス
冷たさすら感じさせる青い瞳。ウェーブさせた胸元程の青髪の女性。一人称は『わたし』。ややタレ目で睫毛が長い。青のベレー帽。リボンのような青いチョーカー。袖と裾がフリルの白のブラウスを、後ろへ下げて項を見せている。インナーは青のトップス。テロンテロンの紺色のワイドパンツ。黒のハイヒール。ネイルは青。
ラクス共和国
街は白と水色で彩られている美しい大国。国のトップ、大統領を選挙にて決めている。ラクス湖という海のように巨大な湖の中心の陸地に建国されており、湖が巨大な要塞としている。陸地の外周は全て港町。入国審査は徹底しており、湖の外周にも施設を設けて監視している。しかし湖の外周はあまりにも広大な為、全てを監視は出来ていない他、空中からの侵入も防げない。建国当初から開発を進めてきた為に自然は存在しない人工物だけの国。米やパン、野菜や肉等は全て外からの運搬で賄っている。主食は湖の魚達。




