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黒頭巾の神撃〜Black hood's divine attack〜  作者: 南斗家那乱下
第三章 神撃編

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全知全能の神ゼウス

バラバラに転移させられた剣一たちの前には、それぞれを待ち構えていたかのように、一柱ずつの神が姿を現していた。

剣一が飛ばされた先は、高い天井が影に沈む、広大な円卓の広間だった。かつて神々が下界の運命を弄ぶために会議を開いていた、いわば神造要塞(ゴッドゾーン)の心臓部。その豪奢な玉座に、一人の老人が深く腰掛けていた。


「いやはや、よくぞここまで辿り着いてくれたのう。歓迎するぞ。ワシはゼウス。全知全能を司る者じゃ。……お主の噂は予々(かねがね)聞いておったぞ」


ゼウスは細められた眼光の奥に、猛々しいまでの闘争心を燃やして立ち上がる。


「その黒頭巾ブラックフード……。お主が剣一とやらじゃな。まさか、ワシの目の前に本人が現れるとは……。よわいを重ねて久しいが、これほど昂りが止まらぬのはいつ以来かのう! せいぜいワシを楽しませてくれ!」


「お前がゼウスか……。俺たちの両親や仲間にしたこと、絶対に許しはしない。……答えろ、花恋はどこにいるッ!!!」


剣一が怒りに震える声で吼える。その剣幕を受け、ゼウスは白髭を撫でながら、何かを思い出すように空を仰いだ。


「ほう、思い出したぞ! お主、カオスの息子じゃったな。奴は中々に見どころのある男じゃった……。だが、奴には守るべき足手纏いが多すぎた。それが命取りになるとも知らず……実に残念な最期じゃったのう。……おっと、悪い。話が逸れてしまったようじゃ」


ゼウスは楽しげに、残酷な真実を淡々と告げる。


「花恋とやらは今、オシリスの実験場で新たな『神の器』として改造されておる。今頃は、人間としての脆いノイズを削ぎ落とされている最中ではなかろうか」


「この野郎……! 人の命をなんだと思ってるんだッ!! お前たちは、そうやって弄ぶためだけにみんなを殺したのか!」


「ほうほう、言いたいことは分かるぞ。だがのう、剣一。我らが人を誕生させたのじゃ。ならば、生かそうが殺そうが、あるいは作り替えようが、それは生みの親である我らの勝手だとは思わぬか?」


ゼウスはまるで子供に理を説くような慈悲深い笑みを浮かべ、掌に凄まじい密度のいかずちを収束させ始めた。


「……勝手だと? 生みの親なら、何をしてもいいっていうのか」


剣一は低く、地這うような声で呟いた。怒りで視界が赤く染まりそうになるのを、奥歯を噛み締めて踏みとどまる。彼はゆっくりと顔を上げ、全知全能の神を真っ向から射抜いた。


「確かにお前たちは、俺たちを作ったのかもしれない。だけどな、ゼウス……。俺たちが今日まで生きて、誰かを愛して、傷ついて、それでも立ち上がってきたこの『時間』までお前たちが作ったなんて思うなッ!!!」


剣一の魔剣が、主の感情に呼応するように黒い波動を放ち始める。


「親が子供に教えるべきなのは、支配のやり方じゃない……『自由の尊さ』だ。花恋を器だなんて呼ぶお前に、親を名乗る資格なんてない! 命を弄んでいるのはお前らの方だ。俺たちは人形じゃない……泣いて、笑って、明日を必死に手に入れようとする、心を持った『人間』なんだぞッ!!!」


一歩、剣一が踏み込む。その足取りには、離ればなれになった仲間たちの想いが宿っていた。


「たとえ神が作った不完全な命だったとしても、俺たちは自分たちの手で、この運命を最高のものに書き換えてみせる。……花恋は返してもらうぞ、ゼウス。お前が作ったその傲慢な世界ごと、俺が叩き斬ってやるッ!!!」


剣一の咆哮と共に、彼の背後から禍々しくも神々しい漆黒の魔力が噴き上がる。


「ホッホッホ、活きがいいのう。この数千年、退屈で死ぬことすら考えておったが……。その殺気、その意志、全てワシにぶつけてみるがよい。全知全能たるワシが、お主の絶望を最後まで見届けてやろう」


ゼウスがゆっくりと手を掲げる。その仕草一つで、空気が雷鳴のような重圧へと変わった。


「いいだろう、受けて立つ。──限界突破リミットバースト(トリプル)!! 魔人、魔竜斬首剣まりゅうざんしゅけんッ!!!」


剣一の肉体がどろりとした濃密な魔力に呑み込まれ、漆黒を纏ったフードの奥から、冷徹な紫色の眼光が揺らぎ溢れる。手にした大剣は、見る者を震え上がらせる「竜の首を刈る凶刃」へと姿を変え、その刃が触れる空間そのものを黒く侵食し始めた。


「良い魔力じゃな。だが、神のことわりを超えるにはまだ足りぬ。──出でよ、雷帝ケラノス」


ゼウスが呟くと同時に、天井が砕け散り光が差し込む。

虚空からバキバキと空間を割き、青白い放電を撒き散らしながら、一振りの武具が舞い降りる。それは杖とも剣ともつかぬ、雷そのものを形に鋳造したかのような神話の象徴。

雷帝の武具を掴み取ったゼウスの全身から、金色の電光が爆発的に吹き荒れる。


「さあ、始めようかのう。神話の黄昏を、お主の血で彩ってくれるわッ!!!」


英雄と神、二人が同時に爆音を置き去りにして地を蹴る。

黒き魔力の残滓と黄金の雷光が空中で激しく交錯し、神々の住まう要塞は、今まさに崩壊の一途を辿り始めた。

二人の最初の一撃が真っ向からぶつかり合い、剣を交わすと、耳を(つんざ)くような轟音と凄まじい衝撃波が円卓を粉砕する。周囲の瓦礫や装飾品は、その余波だけで一瞬にして塵へと吹き飛ばされた。

互いの眼光が至近距離で火花を散らす。


「……消えろ、神の傲慢ごとッ!!!」


「ホッホッホ! 吠えるがよい、人間ッ!!!」


神域を揺るがす、生存を賭けた死闘が幕を開けた。

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