嵐の前の静けさ
一方その頃、神造要塞の最上階にて、神々は珍しく緊急の会議を始めていた。
「報告によれば、機械六神兵が全滅。さらにロキとカオスまでもが消滅したようじゃな」
玉座の主であるゼウスが、悠然とワイングラスを揺らしながら口を開く。
「中々に骨のある連中が紛れ込んだものよ。……こりゃあ、何千年ぶりのワクワクじゃ。退屈で干からびそうであったからのう」
「あいつらは最初から弱すぎたんだよ!俺がまとめて叩き潰してやってもいいぜ。クソジジイの出る幕なんかねえよ!」
荒々しく叫ぶトールの背後で、ゼウスは涼しい顔で肩をすくめた。
「まあ、そこまで大事だとは思っておらん。ただ、一人ずつ狙われるのは少々面倒じゃ。……少しばかり、対策とやらに知恵を貸そうかの」
「だから言ったではありませんか、ゼウス様!『芽』のうちに摘んでおくべきだったのです!彼らの成長速度は、神の理論を逸脱しています!」
アテナが鋭い眼光で指摘するが、ゼウスは苦笑するだけだ。
「アテナの言うことも分からんでもないが……。あの子らの行く末が、気になって仕方ないのじゃから仕方なかろう?」
「苦労して集めた玩具が、壊されちゃったんだゾ……。面白くないんだゾ、許さないんだゾ!」
オシリスが肩を震わせながら、不気味な黒いオーラを放つ。その背後では、虚無が渦を巻いていた。
「落ち着かぬか、オシリス。奴らは必ず、我らの座するこの頂へ辿り着く。……それまでは待機じゃ。あの子らの命運、最後の一幕までとくと堪能しようではないか」
ゼウスの言葉には、確固たる冷徹さと、それを隠すための底知れぬ余裕が宿っていた。
会議が解散となり、玉座の広間から神々が姿を消していった。
一方、両親の亡骸を弔い、重い足取りでアジトへと帰還した剣一と真白たち。
アジトの扉を開けると、そこには既にバレットたちが合流しており、クロナとケンゾウを含めた全員が静かに彼らを待っていた。
二人の姿を見た瞬間、剣一と真白は足が止まった。
「なっ……!? お、俺と真白と……瓜二つじゃないか!!」
「あ、あなたたちが……お父さんが言っていた……!」
戦場という極限を駆け抜けてきたはずの二人だが、目の前の鏡合わせのような存在を前に、言葉を失う。
先に口を開いたのは、真白によく似た面立ちの少女だった。
「本当にそっくりなんだねッ。私はクロナ、よろしくねッ」
快活に微笑むクロナに対し、剣一に似た少年・ケンゾウは、どこか鋭く沈んだ瞳で剣一を見据えた。
「俺はケンゾウ。……それで、父さんはどこダ?」
一瞬の静寂。剣一は唇を噛み締め、両親を失った悲しみを押し殺して、ゆっくりと首を振った。
「カオスは……もういない」
「──父さんは、自分を討たせたんだ。俺たちが強くなるために、そして最後に『お前たちが力を貸してくれるはずだ』と言い残して……亡くなった」
ケンゾウの瞳がわずかに揺れた。模倣体として造られながらも、彼らの核には確かに「天城剣二」という父親の血と記憶が刻まれていたのだ。
「そんなことガ……。父さん……母さん……っ、クッ……!」
言葉を詰まらせるケンゾウの肩を、クロナがそっと抱き寄せる。二人の瞳に宿る悲しみは、やがて神々への静かな、しかし確固たる殺意へと塗り替えられていった。
剣一は、両親との壮絶な別れから帰還した一連の出来事を、全員の前で包み隠さず説明した。重苦しい沈黙がアジトを支配するが、それは逃避のための沈黙ではなかった。
「俺たちの両親は、もうこの世にいない……。だが、俺たちがここにいるのは、みんながここまで繋いでくれたおかげだ。落ち込んでいる暇はない。必ず奴らをぶっ倒す」
剣一が拳を強く握りしめ、言葉に魂を込める。
「うんっ。まだ、花恋ちゃんも生きているはず。お父さんたちの最期の想い、絶対に無駄にはさせないっ!」
真白もまた、溢れそうになる涙を必死に拭い、力強く前を見据えた。
「どこまでも卑劣な奴らね……。人の絆を壊し、命を弄び、尊厳を奪う。……はらわたが煮えくり返る、なんて言葉じゃ足りないわ」
シロミの拳から、怒りで火花が散る。
「俺たちで必ずやり遂げるぞ。ここまでコケにされて、黙ってなんかいられるかよ。俺たちの進撃を止める術など、奴らにはない」
バレットは腕を組み、静かな怒りを燃え上がらせる。
「剣一のお父さんたちが繋いでくれた道だから。……もう、あたしたちだけの願いじゃない。犠牲になったみんなの想いを背負って、あたしたちはここに立ってるんだ。絶対勝つからっ!」
アリスもまた、剣一の手を強く握りしめ、決意を露わにした。
「私は、花恋さんのお父様の最期を看取り、約束しました。あんな残酷な理を、この先も繰り返させてはいけないです。……私たちが、この手で断ち切らなきゃいけませんっ!」
ミーナが震える声で、しかし決然と訴える。
全員の瞳には、かつての迷いは消え去り、神の理を砕くための「決意」だけが輝いていた。天城兄妹を中心に、この場に集った全員の意志がひとつに重なる。
「よし……。明日、最終調整をして神造要塞へ乗り込む準備を始めるぞ。もう二度と、大切なものを奪わせはしない」
剣一の号令により、空気が引き締まる。そして明日、勝利への凱歌を響かせるための、最後の進撃準備となるのだった。




