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黒頭巾の神撃〜Black hood's divine attack〜  作者: 南斗家那乱下
第二章 天空編

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激戦の果てに

一方で、真白とデルタが向かい合う。

ダイヤモンドのように燦然と輝く甲冑に身を包んだデルタ・ダイヤモンドが、無機質な声音で淡々と告げた。


「言葉は不要だ。……全力で来なさい」


デルタがダイヤモンドのごとく光を反射する二本の長剣を十字に構えると、その周囲の空間さえも鋭利な気配に切り裂かれる。


「……分かりました。私に出来る、すべてを懸けて。あなたを超えてみせますっ!」


真白は深く息を吐き出すと、己の魔力を極限まで高めた。その足元から巨大な魔法陣がいくつも重なり合い、空間に亀裂を走らせる。


「──召喚サモン! 四聖霊、シルフィーヌ、ノムラ、ウルダイブ、サルバートッ!!! 降霊ネクロマンシー! アマケシカ、『純光の信愛』ッ!!!」


展開された魔法陣から四つの光が溢れ出し、頼もしき仲間たちが真白の周囲に結集する。


「ガハハ! これはまた思い切ったな、真白! 四人同時召喚とは、随分と無茶をするようになったじゃないか!」


両手に鎖で繋がれた巨大な斧を担いだノムラが、豪快に笑い声を上げた。


「みんなとこうして集まれるなんて、最高だね! 真白も随分と成長したんだねっ!」


桃色の羽をパタパタと羽ばたかせたシルフィーヌが、光の粒子を撒き散らしながら真白の周囲を軽やかに舞う。


「真白さんは、本当に頑張り屋さんですから……。さあ、私たち聖霊の絆、その力を見せてあげましょうっ!」


水滴を零しながら、水の聖霊ウルダイブが冷徹な知性を宿した水眼鏡をくいっと押し上げた。


「ほほう、腕を上げたな、真白。……そう簡単にくたばってくれるなよ。今日は面白くなりそうだ」


全身の鱗を逆立て、熱気を纏ったサルバートがニヤリと牙を剥く。


「みんな……待たせてごめんね。でも、今の私なら大丈夫。私の全力を持って、あなたを倒してみせますっ!! ……行くよ、みんなっ!!」


真白が踏み込むと同時に、四聖霊がそれぞれの能力を爆発させる。木と水、剛力と熱気が混ざり合い、聖なる嵐が、デルタのダイヤモンドの輝きへと衝突した。


「先陣は俺がもらうぞッ!」


巨漢のノムラが鎖斧を振り回し、デルタの懐へ猛然と突っ込む。

その直後、シルフィーヌが魔力を込め、『木縛もくばく』を発動。デルタの足元から無数の蔦が蛇のように這い出て、その強固な甲冑に絡みつこうとした。しかし──。

刹那、デルタの周囲で微かに閃光が走った。

蔦は絡みつく暇さえ与えられず、一瞬にして塵のように切り刻まれる。


「なっ!? 早すぎるよっ! 剣筋が微かにしか見えなかった……ッ! 気をつけて、ノムラっ!」


シルフィーヌが驚愕に声を上げる。


「くっ、一筋縄ではいかなそうだなッ!」


ノムラはひるまず、斧による怒涛の連撃を繰り出す。だがデルタは、顔色一つ変えず、二本のダイヤモンド剣でそのすべてを最小限の動きで捌ききった。

ノムラがステップバックし、一呼吸入れる。そのわずかな隙を突いて、ウルダイブの魔法が発動する。


「私たちもいますよっ! ──水球すいきゅう監獄かんごくッ!!」


デルタの足元から奔流が出現し、彼を閉じ込めるように円状に広がり、捕食しようとする。

しかし、デルタは剣を高速で回転させながら、渦巻く水の檻をすべて粉砕し、吹き飛ばした。


「な、なんでもありですかっ! この人はっ!」


ウルダイブが水を滴らせながら舌を巻く。

そこへ、追い打ちをかけるようにサルバートが灼熱の魔力を溜めていた。


「──炎龍爆炎波えんりゅうばくえんはッ!!!」


サルバートの口から、一直線に高密度の爆炎光線が放たれる。辺りの空気が一瞬で干上がるほどの高熱。デルタはすぐさま二本の剣を十字に構え、その劫火を受け止めた。

轟音と共に爆炎がデルタを包み込む。だが、真白たちは攻撃の手を緩めない。


『──今だっ!』


隙を感じ取った全員が動き出す。ノムラと真白が爆炎の死角から懐へ飛び込み、ウルダイブも『海王かいおう矛槍ほこやり』を生成して参戦。シルフィーヌも再度『木縛』を発動し、四方八方からデルタを追い詰める。

爆炎を防いでいたデルタは、迫り来る四人の攻撃に対し、驚くべき行動に出た。

彼はサルバートの光線を地に逃がすように受け流しながら飛び上がると、片方の剣の腹に乗り、足で光線を防ぐ。そして、迫り来る蔦をもう一方の剣で切り裂きながら、追うように飛び上がった真白、ノムラ、ウルダイブの攻撃を、たった一本の剣で高速にいなしてみせたのだ。

空中での、常人には視認不可能な超高速の攻防。

デルタのダイヤモンドの輝きは、聖霊たちの苛烈な嵐の中でも一切曇ることなく、むしろ追い詰められるほどに鋭く、冷徹な輝きを増していた。


「くっ……。強さが、今までの相手とは段違いだよ……。でも、ここで立ち止まるわけにはいかない……。まだ戦える、絶対に負けないもんっ!」


真白は荒い息を整えながら、自身の魂の奥底に眠る、相反する二つの魔力の源を強引に引きずり出した。


「いつまで持つか分からない……。でも、これが今の私の、新しい姿っ……! ──限界突破(リミットバースト)II(ダブル)ッ! 『聖邪(せいじゃ)審判(しんぱん)アマケシカ』ッ!!」


空間が悲鳴を上げるほどの魔力の激流が真白を包み込む。神々しい光の中に、禍々しい闇の魔力が混じり合い、螺旋を描いて彼女の姿を塗り替えていく。

その瞳は少し虚ろに濁り、深淵を覗き込むような危うさを孕んでいるが、辛うじて自我の光だけは失っていない。

身に纏っていたポンチョのフードは不吉な黒に染まり、服は白を基調とした純潔なフリルの衣装へと変貌。大胆に露出したヘソが真白の幼さを残しつつも、短くなったスカートと膝上まで伸びた漆黒のブーツが、戦士としての鋭さを強調している。

そして、その手に握られていた細身のレイピアは、持ち主の変貌に呼応するように姿を変えた。可愛らしいリボンがあしらわれながらも、死の気配を纏った純白の大鎌──。


「……お待たせ。これが私の全力だよ」


真白が静かに白銀の大鎌を構えると、その身から放たれる光と闇の混濁したプレッシャーに、百戦錬磨の四聖霊たちですら本能的な危うさを感じ、一歩身を引いた。

しかし、真白は虚ろになりかけた瞳の奥に、確かな意思の光を宿して彼らを見やる。


「みんな、驚かせてごめんね。……でも、大丈夫! 自分を見失ったりしない。この力で、みんなを守るからっ! 力を貸して!」


その言葉が合図だった。真白は閃光を凌駕する速度で踏み込むと、死神の如き軌道で大鎌を振るい、デルタの懐深くで苛烈な連撃を開始する。


「こりゃあ……とんでもない圧だな。だが、真白がそう言うなら信じるしかねえ! この魔力、長持ちはしねえぞ。畳み掛けるぞッ!!」


ノムラが鎖斧を荒々しく唸らせ、真白の死角を補うように再度踏み込む。


「私も信じます。真白さんは、誰よりも優しい心を持つ人ですからっ!」


ウルダイブは誇らしげに叫ぶと、自身の身体を激しい水流へと変え、ノムラの背後から波濤となってウルダイブの矛槍がデルタへ牙を剥く。


「力を貸すために契約したんだもんっ! 私たちの目に狂いはないよ! ──木々の宴ッ!!!」


シルフィーヌが両手を突き出し、全魔力を流し込む。デルタの足元から、鋭利な槍と化した無数の樹木が、逃げ道を塞ぐように次々と突き上げられた。


「……真白はここまで強くなった。死ぬほど……いや、死ぬ思いをして努力してきたんだろう。そんな奴に、力を貸さない理由がねえよ。──火球連弾かきゅうれんだんッ!!!」


サルバートは喉の奥で灼熱を練り上げ、デルタを包囲するように高熱の火球を連続で吐き出す。


「…………ッ!!」


真白の攻撃が格段に速く、重くなったことで、さすがのデルタも彼女の鎌を捌くことに全神経を削がれ始める。真白の一撃一撃を二本のダイヤモンド剣で防ぎきるのが精一杯となり、その隙を縫って放たれる四聖霊の連携が、少しずつ、確実にデルタの無欠の甲冑を捉え始めた。


「これで……決めるッ! ──四聖連愛斬(しせいれんあいざん)ッ!!!」


真白が吠える。ハートの始点を中心に、左から右へ、右から左へと、空中に巨大な愛の軌跡を描くような超高速の連撃。四聖霊の魔力を乗せたその斬撃がデルタを捉え、無敵を誇ったダイヤモンドの装甲が耐えきれず粉々に砕け散った。


「私たちが、この惨劇を終わらせるっ!」


真白の大鎌と、聖霊たちの一撃が、剥き出しになったデルタのコアを貫く。

その瞬間、砕けた仮面の奥から、聞き覚えのある優しくも力強い声が漏れた。


「っ……!? ああ……。真白……強く、大きくなったわね……」


仮面が完全に崩れ落ち、そこから現れた素顔を見て、真白は凍りついた。武器を握る手が震え、大鎌が地に落ちる。


「嘘……! そんな、嘘でしょっ、お母さん……っ!!」


「……ごめんね。あなたたちを、置いてきてしまって。まさか……こんなところにまで、あなたたちが来るなんて思いもしなかったわ」


デルタ──真白の母は、致命傷を負いながらも、真白の頬に手を当て愛おしそうに娘を見つめた。その瞳に宿るのは、神の兵器としての冷徹さではなく、一人の母親としての慈愛だった。


「私たちは……神に敗北したのよ。そして、お父さんが……カオスになったの。今の彼に、かつての記憶はない。……けれど、身体が、心が……あなたたちを覚えていたからこそ、ここまで導いたはずよ。後は……あなたたちに頼んだわ。剣一にも……よろしくね……。大好きだよ、真白……」


剣一たちの母、天城彩白(あまぎいろは)の手から力が抜け、床を打つ。愛する彩白の命が、その身から零れ落ちたのだ。


「そんな……! 嫌だっ!! 死んじゃ……嫌だよ、お母さんっ!! やっと、やっと久しぶりに会えたのにっ……! 私も、私も大好きだよっ……! うわぁぁぁぁぁぁんッ!!!!」


真白は、光を失っていく母の身体を抱きしめ、子供のように声を上げて泣き崩れた。聖霊たちも静かに頭を垂れ、その悲しみを見守ることしかできなかった。響き渡る真白の慟哭。再会の喜びは、あまりにも残酷な永遠の別れへと塗り替えられてしまったのだった。

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