最終機械六神兵
二手に分かれた剣一たちとバレットたち。バレット率いる班が目標の拠点へと到着した際、彼らは違和感を覚えた。本来ならルミナが一般兵を、ツキノが補佐官を、そしてバレットが機械六神兵であるロック・ゴールドを叩くという算段だったが、現場はあまりに静かすぎた。
「やけに静かだな……罠か? 何か起きているのか?」
警戒を強め、一歩、また一歩と拠点の奥へ近づいていく。するとその直後だった。
ドゴォォォォォォォンッッッ!!!
拠点の中枢から凄まじい轟音が響き渡り、土煙が舞う。煙の向こうで、万全だったはずの補佐官とロック・ゴールドが、血に染まり瀕死の状態で地面に転がっていた。
「一体何事なんだぞっ!? 他にも神を狙っている連中がいたんだぞっ!?」
ツキノが驚愕に声を震わせる。バレットは即座に魔力を解放し、吼えた。
「分からねぇ……だが、好機だ! 一気に距離を詰めるぞッ!」
「……わかった」
三人は駆け出し、トドメを刺そうと佇む二人組の元へ飛び出した。しかし、煙が晴れてその姿を視界に捉えた瞬間、彼らは戦慄で足を止めた。
そこに立っていたのは、剣一と真白と瓜二つの顔をした、冷酷な瞳の二人組だった。
「てめえら、何者だ! なぜ……なぜ剣一の顔と真白の顔をしているっ!」
バレットが怒りに震えながら問い詰めると、二人は興味深そうに首を傾げた。
「私たちのことを言ってるのッ? 私はクロナっていうのッ。この男はケンゾウ、姉弟だよッ」
「俺たちはコイツらに捕まっていタ。だけど……父さんに助けてもらったんだヨ」
「自我があるだと……!? そんなことがあるのか!?」
バレットが驚愕するもケンゾウは笑い、苦悶に喘ぐロック・ゴールドを見下ろした。
「それより、こいつらにトドメを刺していいよナ?」
「ぐ、ぐぅ……クソッ……! ……この、出来損ないの不良品どもが……ッ!!」
ロック・ゴールドが吐き捨てるが、クロナは冷たい眼差しでその心臓部を見据えた。
「さっさと消えてッ」
クロナが短く命じると、ケンゾウと共に神兵たちの核を無慈悲に貫いた。火花が散り、ロック・ゴールドと補佐官が力なく静止する。その衝撃で二人の顔を覆っていた仮面が砕け散ると、そこから現れたのは鋭い牙と獣の耳を持つ獣人族たちの容貌だった。
「……俺の同胞だったのか! 神に作り替えられ、あまつさえこんな姿に……ますます腹が立つぜ……」
バレットは自身の拳を強く握りしめ、圧倒的な強さと、自分たちの知る「剣一たち」とは決定的に異なる異様な気配を放つ二人を警戒した。
「……お前らの目的は一体何だ? 神々の兵器として作られたなら、なぜ仲間であるはずの奴らを殺した?」
「私たちは父の代わりに、神々を倒す予定なのッ。あなたたちとは目的が同じだから、いちいち警戒しなくていいよッ?」
ケンゾウは肩をすくめ、無造作に歩き出す。バレットは一瞬の躊躇ののち、彼らの背中を鋭く見据えて切り出した。
「それは頼もしい限りだぜ。……だが、話はまだ終わっていない。詳しく聞かせてもらいたいんだが、俺たちのアジトについて来ることはできるか? お前たちにどうしても会わせたい奴がいる」
その言葉に、クロナが妖艶な笑みを浮かべた。
「会わせたい奴……? ……いいよッ。面白いものが見られそうだもんッ」
バレットは内心の警戒を隠し、二人を引き連れて戦場を後にした。本物と偽物、剣一たちと「造られた模倣体」。アジトへ向かうその背中は、これから起こるであろう波乱を予感させていた。
一方で、剣一たちも目的の拠点近くまで到達していた。
「何だか……静かですね。他の拠点とは空気が違います」
ミーナが周囲を注意深く索敵しながら、今までにはない異様な違和感を口にする。
「ああ。……だが、静かなだけじゃない。他の拠点とは比較にならないほど、敵の統制が恐ろしいレベルで取れている気がする」
「確かに……。恐らく、六神兵のトップがここに陣取っているはず。あたしの直感が、そう告げてる」
アリスの表情が鋭く引き締まる。剣一は周囲を見渡しながら、真白と視線を交わした。
「花恋ちゃんと、お父さんたちの情報が何か一つでもあればいいんだけど……」
「そうだな。六神兵と補佐官の姿は見えない。だが、一般兵たちは機械仕掛けのように整列し、寸分の狂いもなく巡回している。……とりあえず、行くしかないか」
「一般兵はあたしとミーナ、二人ですぐに殲滅するから。その間に剣一と真白は、六神兵と補佐官の居場所を探して!」
「わかった。……よし、行くぞッ!!」
四人は一斉に魔力を解放。限界突破の光が迸り、爆発的な加速で敵陣の真っ只中へと飛び込んだ。
アリスとミーナが必殺の一撃を放とうと魔力を練り上げた、その瞬間だった。
視界に捉えていたはずの数百の一般兵たちが、まるで蜃気楼のようにゆらりと揺れ、質量を失って大気に溶け込むように消失した。
「な、なにっ!? 今のは……何が起こったっていうのっ!?」
アリスが呆然と虚空を突き刺す。
「……姿が見えなくなった? どういうことなんだ?」
剣一が周囲を警戒するが、気配は完璧に消え失せていた。そこにはただ、冷たい風の音だけが虚しく響いている。敵が逃げたのか、あるいは最初からそこに「いた」はずの兵など存在しなかったのか。
その静寂を切り裂くように、硬質な足音が響いた。
カツ、カツ、と。
霧を割って現れたのは、ダイヤモンドのように燦然と輝く甲冑と仮面を纏った一人の戦士。そしてその後ろに、冷静沈着な眼差しを宿した補佐官が続く。四人は即座に臨戦態勢を取り、魔力を極限まで高めた。
「よく、ここまで来ました。彼女はデルタ・ダイヤモンドです。あなたたちの戦功は称賛に値する」
補佐官が一歩前に出ると、ゆっくりと拍手を始めた。その顔には、剣一たちを絶賛する表情が浮かんでいる。
「一体どういう風の吹き回しだ。……何を考えている?」
剣一が鋭く問い詰めた瞬間、空気が凍りついた。二組の間に亀裂が入るかのように、真っ黒な闇が渦を巻いて膨れ上がる。そこに現れたのは、邪悪な気配を纏った混沌の神、カオスだった。
「お前たちはよくやった。……そしてここが、最後の試練だ」
カオスは冷酷な眼差しで、六神兵たちを背に剣一たちを順番に見やる。
「我らを倒し、神を跪かせる力があるか証明してみせよ。お前たちが望む『未来』が、この戦いの果てにあるのかどうか……この舞台で答えを出すがいい」
闇の王の宣告とともに、拠点全体に重苦しい殺気が満ちる。仮面の戦士がゆっくりと剣を抜くと、その切っ先が剣一へと向けられた。ついに、六神兵との最後の死闘の幕が開く。




