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黒頭巾の神撃〜Black hood's divine attack〜  作者: 南斗家那乱下
第二章 天空編

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獅子奮迅

もう一つの拠点、バレットが襲撃した場所でもまた、激しい戦いの火蓋が切られていた。

拠点内がミーナの放った無数の分身によって混乱に陥る中、ロロとララはその隙を見逃さず、一般兵を一人ずつ確実に仕留めていく。


「ララ、しっかり捕まってて!」


「うん! 全部の敵、見えてるよ!」


魔獣化マジックビースト』によって四肢に獣の力を宿し、地を駆ける獣と化したロロ。その背に乗るララは、あらゆる事象を見通す『魔眼マジックアイ』を凝らし、刻一刻と変わる戦況を瞬時に分析していく。


「右から三人、隠れてる! そのまま突っ切って、左の物陰に最短ルートで飛んで!」


「了解!」


ララの的確な指示を受け、ロロは弾丸のような速度で最短ルートを突き進む。回避不能の速度から繰り出される鋭い爪が、敵の核を次々と切り裂いていった。


「ふぅ……。これで大方の雑兵は片付いたね。ララ、魔眼(マジックアイ)を使ったままだけど、目は大丈夫?」


「あっちはまだ大丈夫! ロロこそ、身体は重くない?」


「うん、大丈夫! みんなが勝つまでは、僕らも止まれないからね!」


幼いながらも戦士としての決意を瞳に宿し、二人は背中を預け合う。そして、残された敵を探し出し、最後の一人まで殲滅すべく、再び戦火の渦中へと飛び込んでいった。


一方で、バレットが放つ豪快な一撃がシンクを吹き飛ばし、戦場に一瞬の空白が生まれる。その隙を逃さず、ミーナが敵の補佐官へと肉薄した。


「あなたの相手は私ですっ!――限界突破(リミットバースト)ッ!!!」


ミーナの穏やかな瞳が鋭い獣のそれへと変わり、少し大きくなった身体から黄金の魔力が爆発的に溢れ出す。


「あら、私の相手はあなたなのね。可愛らしいお嬢さん、少しでも長く私を楽しませてちょうだい?」


補佐官は余裕の笑みを浮かべ、二振りの短剣を軽やかに回す。その態度に、ミーナの魔力は怒りによってさらに温度を上げた。


「私は、あなたたちを絶対に許しません……っ! 誇り高き獣人族を弄んだこと、その身で反省してください!」


「へえ、やっぱりあなたもあの薄汚い獣人族なのね。でも、あんな劣等種、生きていても可哀想なだけじゃない?」


「……っ!? 本当に……最低です。言葉ですら、あなたたちに費やすのは無駄ですね。――身をもって、その罪を償って下さいっ!『十尾妖狐(テンモンフォックス)』!! 」


咆哮と共に、ミーナの耳と十本の尻尾がさらに長く伸び、黄金の魔力に妖艶な紫の輝きが混ざり合う。神聖さと禍々しさが同居するその姿で、彼女は一気に距離を詰めた。


「――『妖尾乱撃弾デーモンテイルバースト』ッ!!!」


鋼鉄のように硬質化した十本の尻尾と、強化された手足による怒涛の連続打。全方位から降り注ぐ嵐のような打撃を、補佐官は二振りの短剣を盾に必死にいなしていくが、その表情からは次第に余裕が消え失せていった。


「あなた、獣人族のくせに随分と強いのね。……少しだけ見直してあげてもいいよ?」


「あなたに見直されたところで、欠片ほども嬉しくありませんッ!!」


「ツレないなぁ。なら、これ以上その汚い種族の血を増やさないように、さっさと絶滅してねっ!!」


補佐官は毒づきながら短剣で切り裂こうとするが、ミーナはそれを紙一重でかわすと、鋭く眼光を走らせた。


「させないっ! あなたのような心ない方に、私たちの未来を奪わせたりなんて、絶対にさせませんっ!!――『瞬影妖狐連掌シャドウズコンラッシュ』ッ!!!」


その叫びと共に、ミーナの影分身が十体ほど一斉に出現した。分身たちは目にも留まらぬ速度で敵の死角を突き、鋭い掌底で補佐官を次々と弾き飛ばす。まるでピンボールのように空中で打ち据えられ、回避も防御も許されないまま、鈍い打撃音が戦場に絶え間なく響き渡る。


「あ、ぐぁ、ぐっ、が……ッ!? この……下等な……獣め……くそ……が……っ!!」


何度も何度も打ち上げられ、ついに天高く突き飛ばされた補佐官。その頭上を取ったのは、魔力を極限まで集束させた本体のミーナだった。


「これで、終わりですっ!!」


黄金と紫の魔力を宿した十本の尻尾を一つに束ね、彗星のごとき強大な一撃を振り下ろす。逃げ場のない空中での必殺。補佐官の身体は隕石のような勢いで、そのまま硬い地へと叩き落とされた。

地へと叩きつけられた衝撃で、補佐官の核は無惨に砕け、顔を覆っていた仮面も粉々に散った。

巻き上がる土煙が晴れた瞬間、ミーナはその場に凍りついた。

そこに横たわっていたのは、屈強な戦士でも、邪悪な神でもなかった。

まだ幼さを残した顔立ちに、頭からは小さな角が生えた、魔族の子どもだった。


「っ!? そ、そんな……。嘘、でしょう……?」


ミーナは血の気が引くのを感じ、自身の震える手を見つめた。

自分を「下等な獣」と罵倒し、冷酷に短剣を振るっていた刺客の正体は、神々によって自我を書き換えられ、戦う道具へと改造されたいたいけな子供だったのだ。


「こんな……こんなに小さな魔族の子供まで、戦わせるなんて……!!」


あまりにも残酷な真実を前に、ミーナの瞳から大粒の涙が溢れ出す。守るべき弱者であるはずの子供を、自らの手で討ってしまったという罪悪感と、それを強いた神々への激しい憤りが、彼女の胸を締め付けた。

悲しみで胸を痛めつけられながらもロロとララの元へと駆け出していった。


その頃、バレットは猛烈な怒りと昂ぶりに身を任せ、苛烈な攻防を繰り広げていた。


「俺には鉄だろうが銅だろうが関係ねえ! 目の前の障害は、すべてこの手で叩き伏せて切り裂いてやるッ!!」


バレットの豪腕が振るわれるたび、シンクが瞬時に生成する銅の武器や盾が、まるでおもちゃのように粉砕されていく。


「くっ! なんて無茶苦茶な、野蛮な戦い方をするんだっ……!」


「あぁ!? やってることの無茶苦茶さで言やぁ、てめえら神様気取りの方が、よっぽどタチが悪ぃだろうがっ!!!」


「ハッ! そうかもしれないな! ならば、この青銅の盾ならどうだっ!」


シンクが魔力を練り上げると、その盾は鈍い光を放つ青銅ブロンズへと変化した。バレットの斬撃が火花を散らすが、表面に傷をつけるに留まり、容易には切り裂けなくなる。


「チッ!流石に硬ぇな。……なら、こっちも出し惜しみなしの本気で行くぜ!限界突破(リミットバースト)II(ダブル)獣王無神(じゅうおうむじん)ッ!!!」


咆哮と共に、バレットの身体が一回り大きく膨れ上がった。逆立った毛が魔力の奔流に乗り、重力を無視して立ち昇る。長く鋭く突き出した犬歯、そして全身から溢れ出すのは、荒れ狂う漆黒の魔力。


「くそっ! たかが下等な獣が、何故これほどの力を……っ!!」


「てめえらがしでかしたことは、これから先、歴史の果てまで誰にも忘れさせねえ。……やっちゃいけねえ一線を、てめえらは軽々と踏み越えたんだ。地上に生きる生命を、なんだと思ってやがる! 殺すだけでは飽き足らず、死体同然に改造して、兵士として使い潰しやがって……!」


バレットの足元の地面が、その魔圧だけで陥没していく。


「生きていられる時間は有限なんだ。その短い時間の中で、何をしようが、どう足掻こうが、それは俺たちの勝手だろうがっ! それをてめえらは、ことごとく踏みにじりやがった!」


「笑わせるな! お前ら虫ケラ共が生きていたところで、神の役にも立たん、大したことなど何一つできやしないだろっ!!」


「……大したことはできねえかもしれねえ。だが、だからと言って他人にゴミのように扱われる筋合いはねえんだよっ! これはみんなの、たった一度きりの人生だ! ――神なら神らしく、天上から黙って指をくわえて見てりゃいいんだよッ!!」


「 ――想爪獣連撃斬(ホープビーストスラッシュ)ッ!!!」


漆黒の魔力を宿した爪が、空間ごと切り裂くような速度で振り下ろされる。シンクは悲鳴を上げながら後退し、厚い青銅の盾を次々と生成するが、バレットの「想い」が乗った一撃はそれらを紙細工のように切り裂いていく。


「うぐぐ……っ! 黙って絶滅を待っていれば良かったものをっ! 虫ケラの分際で、この私に……神に反逆しやがってええぇぇぇ!!!」


「てめえらが天上でおとなしくしてりゃ、こんな凄惨な反撃も起こらなかったんだぜぇ!!」


終わりは、あっという間だった。防御を完全に粉砕されたシンクの胸元へ、バレットの爪が、容赦なく突き立てられる。


「じゃあな。……祈るなら、何も救っちゃくれねえ、あの空のクソッタレな神にでも祈っとけ!」


シンクの肉体ごと、その核を真っ向から両断する。断末魔を上げる暇もなく、五番手シンク・ブロンズは絶命した。

物言わぬむくろとなったシンクの仮面が、音を立てて砕け落ちる。そこに現れたのは、側頭部から角を生やした、若き魔族の青年の顔だった。


「クソがっ! ……やはり魔族も、同じようにやられてやがったか……」


バレットが苦々しく吐き捨てると同時、ロロとララ、そして涙を拭ったミーナが駆け寄ってきた。二人の子供たちは、倒れたシンクの素顔を見て、激しく動揺し膝をつく。


「ぼ、僕たちの……一族が……。なんで、こんなことに……っ」


「……酷い……酷すぎるよ……」


「……バレットさん、補佐官も……魔族の子供でした。ロロさん、ララさん、本当にごめんなさい……っ」


ミーナが震える声で謝罪する。しかし、ララは溢れそうになる涙をグッと堪え、兄であるロロの手を強く握りしめた。


「ううん……大丈夫。ミーナさんのせいじゃない。きっと、みんな操り人形にされるより、解放されて喜んでいるはずだから……! 神様なんて、絶対に許さないっ!」


小さな拳を震わせ、神への明確な「敵意」を口にする二人。バレットはその小さな背中を大きな手で一度だけ叩き、天を仰いだ。


「……とりあえず、他の奴らの安否も心配だ。感傷に浸ってる暇はねえ。一旦アジトへ帰るぞ」


勝利の余韻など微塵もない、悲しみに満ちた拠点を後にし、一行は重い足取りでアジトへと向かった。

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