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黒頭巾の神撃〜Black hood's divine attack〜  作者: 南斗家那乱下
第二章 天空編

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雲外蒼天

その頃、ツキノたちは拠点の中央部で激戦を繰り広げていた。


「貴様、なかなかやるな。たかが補佐官だと思って、少し舐めていたよ」


リリアが槍を構え直し、不敵な笑みを浮かべる。対する補佐官も、余裕を崩さず剣を正対させた。


「そうか? あんたもなかなかの手練れだ。てっきりここに来る人間は、全員逃げ惑うだけの雑魚だと思っていたよ」


「ならば、ここからは本気で行かせてもらおう。お互い、全力で勝負をしようじゃないか」


「いいねえ。その誘い、乗ったよ。全力でかかってきなっ!」


補佐官の挑発に、リリアの魔力が爆発的に膨れ上がる。


「いいだろう。――『雷神化らいじんモード』ッ!!!」


その叫びと共に、リリアの両頬には雷の刻印が浮かび上がり、その身体は眩い雷光の天衣てんえに包まれた。溢れ出した雷気が槍の穂先に集束し、バチバチと空間を震わせる轟音を立てる。


「行くぞっ!」


雷光の軌跡を残し、リリアが瞬きする間に間合いを詰めた。雷槍から放たれる目にも留まらぬ連撃が敵を襲うが、補佐官も卓越した剣筋でそれら全てを紙一重で捌ききる。


「――っ! 逃がさないぜ!」


一瞬の隙を突き、補佐官が隠し持っていたクナイを左手から一斉に放出した。鋭い風切り音と共に迫る銀光。それに気づいたリリアは、即座に一歩下がると雷槍を風車のように回転させ、火花を散らしながら全てのクナイを叩き落とした。


「甘いぞっ! これではどうだっ!?――雷昇電竜(ドラゴンサンダーボルト)ッ!!」


リリアが咆哮と共に、雷槍を鉄の床へと力任せに突き刺した。瞬間、行き場を失った膨大な魔力が床を伝い、敵を取り囲むようにして天へと昇る雷の柱を幾本も噴出させる。

敵は顔を歪めるように紙一重で回避を続けるが、それこそがリリアの狙いだった。彼女は床から噴き上がる雷を、自らの槍で掬い上げるようにして回収し、さらに巨大な雷光の塊へと増幅させていく。


「これで……終わりだッ!」


リリアは下から突き上げるような超高速の刺突を繰り出した。敵のコアを正確に狙った一撃。補佐官は死に物狂いで剣を合わせ、わずかに軌道を逸らすのが精一杯だった。

しかし、槍が敵の身体に触れた瞬間、纏っていた全ての雷が奔流となって敵の内部へと流れ込む。


「が……ぁ、あががっ……!!」


数億ボルトの電流に焼かれ、補佐官の身体は激しく震えながら焦土のごとく黒ずんでいく。逃れられぬ死の連鎖に、敵の防御は完全に崩れ去った。


「トドメだ。……好敵手(ライバル)として、なかなか楽しかったよ」


無防備に晒された核へ、リリアは静かに、そして鋭く雷槍を突き立てた。

青白い火花が最後の一際大きく弾け、補佐官は物言わぬむくろとなってその場に沈み、二度と動かなくなった。

その衝撃で、敵の顔を覆っていた無機質な仮面が音を立てて砕け散る。露わになったその素顔を目にした瞬間、リリアは息を呑んだ。


「……っ!? あ、ああ……そんな……」


そこに横たわっていたのは、紛れもなく尖った耳を持つエルフの青年だった。


「また……また、私たちの同胞を……!!」


リリアは震える手で槍を握り直し、もう片方の拳を白くなるほど強く握りしめた。誇り高きエルフを、自我を奪った兵器として使い捨て、同族同士で殺し合いをさせる神々の卑劣なやり口。

戦いには勝った。しかし、リリアの心に宿ったのは勝利の昂ぶりではなく、はらわたが煮えくり返るような静かな、そして猛烈な怒りだった。


その頃、ツキノはドール・シルバーの猛攻を前に、防戦一方の苦戦を強いられていた。


「くそっ……! 全然近づけないんだぞっ……!!」


「フハハッ! もっと楽しませてくれよ、小娘! 貴様の足が止まれば、即座に銀の彫刻にしてやるぞ!」


全身が流麗な銀の肉体と化したドールは、上下に切先を持つ特殊な「銀の両頭槍」を風車のように回転させる。ツキノが放つ死角からの斬撃を、まるで背後にも目があるかのように全て軽くいなしていく。


「くっ! ……もう後先なんて考えてられないんだぞ! 限界まで飛ばしていくんだぞっ!――『疾風迅雷(しっぷうじんらい)』!!! 」


ツキノの身体から緑の旋風が巻き起こり、その加速は限界を超えた。目にも留まらぬ速度で重い一撃を繰り出すが、ドールはその銀の槍で難なく受け止め、焦りの色一つ見せない。


「ほう、さらに速くなったか! だが……この程度の出力では、私の銀を穿うがつには程遠いぞ!」


ドールの槍が閃き、ツキノの防具を浅く切り裂く。


「……ぐっ! 反応が追いつかない……どうすればいいんだぞ……っ!!」


鋭い追撃がツキノを襲おうとしたその瞬間、極寒の冷気がドールの足を地面ごと凍りつかせた。


「……お待たせ。少し、手間取った」


「ルミナっ!? ……助かったんだぞ、ありがとうなんだぞ……!」


冷気の霧の中から静かに現れたルミナを見て、ドールは不敵に口角を上げた。


「ほう、援軍か。いいだろう……退屈していたところだ。纏めて銀の塵にしてやる!」


ドールが銀の槍を振るい、傲岸不遜に言い放つ。隣に立つルミナは、氷のように冷徹な視線をツキノに向けた。


「……ツキノ、何をしてるの。あなたならもっと速く、そして重い一撃を放てるはず。後のことなんて考えず、今ここで限界を超えなきゃダメ」


「わ、わかってるんだぞっ……! でも、ルミナが来てくれて吹っ切れたんだぞ。もう迷わない。帰りのことは、頼むんだぞっ!――『限界突破(リミットバースト)II(ダブル)迅雷風烈(じんらいふうれつ)ッ!!! 」


ツキノの全身を駆け巡る魔力が暴走寸前の高まりを見せ、浮き上がった血管が激しく脈打つ。洗練された魔力は緑と黄色のオーラとなって研ぎ澄まされ、暴風と雷鳴が溶け合うかのように彼女の身体を包み込んだ。


「――『剛雷旋風脚サンダーハリケーン』ッ!!!」


爆音と共に、ツキノの姿が消失した。

これまでの数倍に及ぶ超速から放たれた、雷を纏う必殺の蹴り。ドールは即座に槍で防いだが、そのあまりに重すぎる衝撃に、硬質な銀の槍が飴細工のようにひん曲がった。


「なっ!? さっきまでとは段違いの……ぐぅっ!」


「私は、絶対に勝つんだぞ!!! この脚は、もう逃げるためにあるんじゃない。仲間と一緒に勝つために使うんだッ!!!」


ドールは次々と予備の槍を生成して必死に防壁を築くが、ツキノの猛攻はその全てを塵へと変えていく。嵐のような連撃がドールの銀の肉体を直接打ち砕き始めた。


「ぐっ! くそがっ! この俺が、四番手のこの俺が負けるなどッ……!! あってはならないんだァァァッ!!!」


ドールは叫びながら、折れた槍を渾身の力で突き出そうとした。だが、その一撃がツキノに届くことはなかった。風をも置き去りにしたツキノのトドメの旋風脚が、ドールの胸部、核へと深くめり込む。


「……あ、ぐ……が……ッ」


「……悪いことをした報いは、必ずその身で受けてもらうんだぞ」


ドールの身体が銀の破片となって砕け、その光が消えるのと同時。糸が切れたようにツキノの身体も地面へと崩れ落ちた。


「……ツキノ!!」


ルミナが駆け寄り、力尽きた彼女の身体を優しく抱きとめる。


「……よく頑張った。……信じてた」


「えへへ……。ルミナが、見ててくれたから……最後まで、頑張れたんだぞっ……」


ツキノは青白い顔で力なく微笑み、安堵したように瞳を閉じた。

そのすぐ傍らで、力尽きたドール・シルバーの肉体が崩壊を始め、その衝撃で顔を覆っていた仮面が真っ二つに割れ落ちる。

カラン、と乾いた音を立てて転がった仮面の下から現れたのは、またしても、生気を失ったエルフの顔だった。


「……!?」


ルミナは息を呑み、その光景を凝視した。六神兵ランカーという高位の座ですら、神にとっては改造を施した同胞を据えるための「器」に過ぎなかったのだ。


「……また。私たちの誇りも、命も、すべて弄んで……」


ルミナは横たわるツキノを抱きしめる手に力を込め、低く、震える声で呟いた。


「……許さない。絶対に、許さない……」


その瞳には、いつもの冷静さを塗りつぶすほどの、苛烈な殺意が宿っていた。


そこへ、激しい雷鳴の残響と共に、もう一人の仲間が駆けつける。


「ツキノ! ルミナ! 無事かっ!? 遅くなってすまない!」


リリアが雷槍を背負い、肩で息をしながら合流した。その身体には激闘の跡が刻まれていたが、二人の無事を確認すると、その表情にようやく安堵の色が浮かんだ。


「……リリア。……ツキノは命に別状はないけれど、魔力の消耗が激しい。一度アジトへ戻る」


「承知した。ツキノは私が背負おう、先導を頼む」


リリアは手際よくツキノを背中に預かり、ルミナは周囲の警戒を解かぬまま頷いた。

反撃の第一歩として、大きな勝利を手にした三人。しかし、その足取りは重い。背中に感じる仲間の温もりと、未だ戦火の中にある他の仲間たちへの祈りを胸に、彼女たちは静かに、けれど確かな一歩をアジトへ向けて踏み出した。

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