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黒頭巾の神撃〜Black hood's divine attack〜  作者: 南斗家那乱下
第二章 天空編

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反撃の狼煙

剣一が微かな重みで目を覚ますと、そこにはバレットの太い足が自分の顔面を覆うように乗っかっていた。


「……っぐ。バレット、寝相が悪すぎるだろ……」


苦悶の声を漏らしながら足をどかし、ふと隣で眠っているはずのアリスの方へ向き直った剣一は、驚愕のあまり心臓が跳ね上がった。そこにいたのはアリスではなく、いつの間にか入れ替わっていたリリアだったからだ。しかも、彼女は幸せそうな寝顔で剣一の腕にがっしりと抱きついている。


「な、なんでリリアがここに……!? アリスはどうしたんだ……」


混乱する剣一だったが、背後にもさらなる違和感があった。何故かルミナが子猫のように丸まり、剣一の背中にぴったりと密着して横たわっていたのだ。どうやら、深い眠りの中でリリアとルミナが無意識に温もりを求め、アリスやミーナとの間に強引に入り込んでしまったらしい。


「……これは……相当まずいことになったぞ……」


アリスたちが目を覚ました時の惨状を想像して冷や汗を流したのも束の間、腕の中のリリアがふと目を開けた。目と鼻の先に剣一の端正な顔があることに気づき、彼女の脳内は瞬時にパニックに陥る。


「……っふぁ!? け、けけけ、剣一っ! 貴様っ! 乙女の寝込みを襲うとは、一体いかなる破廉恥な……!」


反射的に怒鳴ろうとしたリリアだったが、叫び声を上げる直前、自分の方が剣一の腕をがっちりとホールドし、脚まで絡めて抱きついているという事実に気づいてしまった。


「――っ!? あ、足が……腕が……私から、抱きついている、だと……?」


リリアの顔は、見る間に耳の裏まで真っ赤に染まっていく。そのあまりの動揺ぶりに、周囲の仲間たちも続々と目を覚まし始めた。


「……ふわあ……。ん、なに、朝からうるさ……。って、ちょ、ちょっとリリア! あんた、なんで剣一にそ、そそ、そんなに腕を絡めて抱きついてんのぉぉっ!!」


一番に飛び起きたアリスが、目の前の光景に絶叫した。その視線はもはや殺気立っており、剣一は思わず首をすくめていた。


「ち、違うっ! 私は無意識だったんだ! 決して、破廉恥な意図があったわけでは……っ!」


「無意識ならいいって問題じゃないでしょっ!」


阿鼻叫喚の騒ぎの中、ツキノがジト目で剣一の背後を指差した。


「……リリアもだけど、なんでルミナまでそこに潜り込んで密着してるんだぞ? 剣一がサンドイッチ状態なんだぞ」


「…………知らない」


ルミナは剣一の背中に顔を埋めたまま、短く、そして頑なに拒むように答えた。冷静な声音を装ってはいるものの、隠しきれない耳たぶの赤さと、密着した体に伝わる異様なまでの熱さが、彼女の動揺ぶりを雄弁に物語っていた。


「あらあら……。いつの間にアリスちゃんの天敵が、こんなに増えてしまったのかしらねぇ?」


騒ぎを聞きつけたシロミが、優雅に髪を整えながら現れた。その口元には、事態を心底楽しんでいるような妖艶な笑みが浮かんでいる。その横では、目を輝かせたロロとララが、期待に満ちた表情で剣一たちを指差した。


「「っ!? みんなお母様……!! お父様、すごいですっ!!」」


「な、何を言ってるんだ、二人とも! そんなわけないだろうっ!!」


剣一が顔を真っ赤にして全力で否定するが、ロロとララは「新しいお母様がいっぱいだ!」と言わんばかりに大はしゃぎだ。リリアもまた、噴き出す汗を拭いながら必死に加勢する。


「そ、そうだぞ! ロロ、ララ! 私は断じて、そのような……その、お、お母様などという立場を狙ってなどいないっ! 剣一、お前からも何とか言ってくれっ!」


「……もう、収拾がつかないんだぞ」


ツキノが呆れたように溜息をつく傍らで、アリスだけは「お母様」という禁断のワードにショックを受け、魂が口から抜けかかったような顔で固まっていた。


「……おい、お前ら……朝っぱらから、いい加減にしろ。地獄の底まで筒抜けだぞ……」


騒ぎのあるじであるバレットが、剣一の顔に乗っていた自分の足をどかしながら、不機嫌そうに身を起こした。しかし、習慣的に手元の情報端末へ視線を落とした瞬間、その顔から余裕が消え失せる。


「……っ!? ちっ、冗談だろ……」


バレットの顔色が目に見えて険しくなり、アジト内の温度が数度下がったかのような錯覚を全員が抱いた。彼は跳ねるように立ち上がると、まだ混乱の渦中にあった剣一たちに向かって鋭い声を飛ばす。


「おい! 全員、痴話喧嘩はそこまでだ! 今すぐ作戦会議を始めるぞ。一秒で準備しろ!」


その尋常ではない剣幕に、剣一たちも即座に立ち上がり、戦士の目へと切り替わった。


「バレット、何があった。……神の動向か?」


「ああ。……悠長に朝飯を食ってる時間はなさそうだぜ」


バレットの鋭い一言で、アジト内の空気は一変した。全員が即座に装備を整え、ホログラムディスプレイが展開された机を囲む。


「ある拠点に、一人の人間が捕らえられていることが判明した。そこでだ。俺たちはここから三手に分かれる。二チームは陽動として『機械六神兵マシナリーランカー』が管理する拠点を強襲し、残りの一チームで人間の救出……そして可能なら、その拠点の殲滅に当たってほしい」


「人間だと!?人質の特徴はわかっているのか?」


剣一が身を乗り出して問う。バレットは苦い顔でディスプレイを操作した。


「……分かりにくいが、青髪の男だということだけは判明している。それと、そいつはかなり疲弊している形跡があるな」


「月矢なのか……!? だとすれば俺に任せてくれ。その拠点は、俺が行く」


剣一の瞳に、かつての相棒を想う強い光が宿る。


「私も、月矢くんがいるなら絶対に行くっ! 待ってて、月矢くん!」


真白も拳を握りしめ、兄に続いた。


「そうなると、まずは私たち四人が救出チームね。アリス、あなたも異論はないわよね?」


シロミの問いに、アリスは不敵に笑って蒼炎を掌に灯した。


「当たり前じゃないっ! 仲間を人質に取られて黙っていられるわけないでしょ。救出はあたしたちに任せて!」


「よし、決まりだ。俺たちも残りの二手に分かれ、別拠点を叩き潰す。一組は俺とミーナ、そしてロロとララ。もう一組はツキノ、ルミナ、リリアだ。ロロとララ、お前らにとってはこれが初陣になるが、修行を終えた今の貴様らなら一般兵になど遅れは取らねえはずだ」


バレットが激励を飛ばすと、シロミが二人の肩にそっと手を置いた。


「あなたたちならできるわ。これは、あなたたちが初めて神へ上げる『反撃の狼煙』よ。絶対に、勝って戻りなさい」


「「はい! 必ず倒してみせますっ!」」


幼い二人の決意に満ちた返声が、決戦の始まりを告げるようにアジトに響き渡った。


「よし、準備はいいな。……それじゃあ、野郎ども、野犬の如く暴れてこいッ! てめぇら、俺に断りなく勝手に死ぬんじゃねえぞ! 必ず、またこの場所へ戻って来いっ!!」


バレットが野太い声で吠え、乱暴に全員の背中を叩いて送り出す。その激励に応えるように、それぞれのチームが武器を手にし、決然とした足取りでアジトの出口へと向かった。


「……ああ、もちろんだ。バレット、お前たちもな。行くぞ、みんな!」


剣一が振り返らずに手を挙げると、救出チームの面々がそれに続く。

扉の外に広がるのは、神々が支配する冷徹な天空の世界。しかし、今の彼らの胸に宿るのは、昨日までの絶望ではなく、共に夜を明かし、共に笑い合った仲間への確かな信頼だった。

三つの影の塊が、それぞれの目的地へと、風を切って飛び出していった。

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