異色タッグ
拠点から飛び出した四人だったが、背後からは無機質な足音を響かせ、増援の一般兵が次々と押し寄せていた。衰弱した魔族の二人を抱えた状態では、機動力に限界がある。
「……一般兵ごときに、これ以上の時間を奪われるのは癪」
先行するルミナが冷徹に言い放ち、立ち止まって両手を広げた。その指先から、絶対零度の魔力が大気へと伝播していく。
「少し寒くなるけれど、我慢して。ーー幻鏡白雪」
刹那、拠点周辺の視界が真っ白に染まった。
吹き荒れる猛吹雪は、ただの雪ではない。触れるものすべてを瞬時に凍土へと変える。追撃してきた機械兵たちは、関節を凍りつかされて次々と沈黙していく。
「す、すごい威力……! ルミナさん、なんて魔法を……」
「……私についてきて。吹雪が止む前に、ここを抜ける」
ルミナの先導により、一行は何とか包囲網を振り切り、ツキノが指定した地下の合流地点へと辿り着いた。
息を整える間もなく、シロミが祈るような瞳で真白を見つめた。
「真白ちゃん、お願い。この子たちを診てあげて。……大事な、私の一族なの」
「うん、わかった! 任せて! ――至高回復!!」
真白の手のひらから溢れ出した温かな光が、魔族の二人を包み込む。酷い拷問や改造の予兆であった生々しい傷跡が、光に溶けるようにして見る間に塞がっていった。
「あなたたち、大丈夫? 意識ははっきりしているかしら?」
シロミが震える手で彼らの頬に触れると、ようやく目を開けた魔族の少女が、掠れた声で呟いた。
「……助けてくれて、ありがとう。……お母様」
「お、お母様っ!? お姉ちゃん、どういうことなの!?」
真白が飛び上がらんばかりに驚き、シロミは困ったように頬をかいた。
「え、えーっと……簡単に言えば、魔族の母という役割なのよ。私は魔王の娘だったけれど、父上も母上も亡くなってしまった。残された一族にとって、血筋の順列的に私が母という位置づけになっているんだと思うわ」
シロミは困ったように眉を下げ、自分をお母様と呼ぶ少女の頭を優しく撫でた。
「な、なるほどぉ。びっくりした……。てっきり、本当にお姉ちゃんに隠し子がいたのかと思っちゃった」
真白は納得したように頷いたが、すぐに表情を曇らせた。癒しの光が消え、静寂が戻った待機場所に、全員の意識が「置き去りにしてきた仲間」へと引き戻される。
拠点を揺るがしたあの爆音、そして背後を断った瓦礫の崩落。
「……アリスたちは、無事だろうか……」
剣一が絞り出すように呟いた。その拳は、血が滲むほど固く握りしめられている。リーダーとして、そして一人の男として、仲間を残して進む決断をした。その重みが、今の彼に重くのしかかっていた。
「……今は信じて待つしかない。あの子たちは、無意味に命を捨てるような、柔な鍛え方はしていないはず」
ルミナが冷徹な、けれどどこか祈るような響きを帯びた声で答える。彼女の瞳もまた、拠点があった方角をじっと見据えたまま動かない。
「そうだよ、お兄ちゃん。アリスちゃんだって、最後に笑ってた。……私、信じてる。あの二人が、ボロボロになっても笑って『ただいま』って帰ってくるのを」
真白が剣一の手をそっと握る。その微かな温もりだけが、今この場にある唯一の希望だった。
一方で、拠点に残ったアリスとツキノは、絶望的な苦戦を強いられていた。
「あーあ、逃げちまったじゃねえか。おい、お前……来るのが遅えんだよ」
ロック・ゴールドが苛立たしく吐き捨て、視線を瓦礫の山の上へ向ける。そこには、逆光を浴びながら二人を見下ろす人影があった。
「……申し訳ありません。逃走経路の裏を突くつもりで待機していたのですが、予想が外れました」
新たに現れたロックの補佐官が、冷徹な声で武器を構える。二対二。だが、相手は機械六神兵とその直属だ。
「これはまずいんだぞっ。モタモタしてるとさらに増援が来ちゃうんだぞ!」
ツキノが魔靴を構え直し、額の汗を拭う。アリスは激しい魔力行使で肩で息をしていたが、鋭い瞳で周囲の地形を分析していた。
「……ねえ、ツキノ。その魔靴、脚の速さには自信ある?」
「当たり前なんだぞっ! 脚の速さと逃げ足なら、誰にも負けないんだぞっ!」
「いいこと思いついた。合図をしたら、あたしを抱きしめたまま全力で走って」
「な、何をするつもりなんだぞ……? でも、アリスを信じるしかないんだぞっ!」
アリスが全魔力を指先に集束させる。
「じゃあ、いくよっ!! ――最大出力、獄炎爆破!!!」
二対二の膠着状態を切り裂くように、アリスの手から巨大な爆炎が噴き上がった。視界を奪う猛烈な黒煙と、衝撃波が室内を埋め尽くす。
「……チッ! 煙幕か、めんどくせえ真似を!!」
「今だよ、ツキノっ!」
「了解なんだぞっ!」
ツキノがアリスの腰を強く抱き寄せ、魔靴の出力を最大にする。溶岩の上を滑るように加速するツキノの背中に、アリスがさらに追い打ちをかけた。
「――爆炎加速っ!!」
アリスの両手足から指向性を持った爆風が噴射され、二人の速度は限界を突破する。
「か、体がっ!! 速すぎるんだぞっ!! た、体勢を保つのが難しいんだぞぉぉっ!!」
もはや景色が光の線にすら見えない。弾丸を凌駕する超スピードで、二人は追撃の手が届かない距離まで一気に離脱した。しかし、あまりの過加速に制御は追いつかず、体勢を崩した二人は、手裏剣のように激しく回転しながら、行く手にそびえる鉄筋の建物へと一直線に突っ込んだ。
「――ぶつかるっ!!」
衝突の刹那、アリスが残った魔力を振り絞り、熱線を前方へ放射する。厚い鉄壁がドロリと飴細工のように溶け、二人は衝撃を最小限に抑えながら建物の中へと滑り込んだ。
「……ぐっ。いてて……無茶もいいとこなんだぞっ……」
ツキノが目を回し、瓦礫の山からふらふらと這い出した。魔靴の熱を逃がしながら、乱れたポニーテールを整える。
「ま、まあ……逃げ切れたから、結果オーライってことで。……あはは、魔力、使いすぎちゃった……」
アリスは煤だらけの顔で力なく笑い、そのまま冷たい床に大の字になって寝転んだ。限界まで酷使した体が、鉛のように重い。
「ったく、無茶苦茶なんだぞっ。……しょうがないから、合流地点まで運んでやるんだぞっ。アリスは小さいから、担ぐのも楽勝なんだぞっ」
ツキノが呆れたように笑いながら、アリスの脇に手を入れる。すると、疲れ切っていたはずのアリスが、弾かれたように顔を上げた。
「ち、小さくないっ! 普通より……ほんの少し、標準より控えめなだけだからっ!」
「はいはい、口だけは元気なんだぞっ。ほら、捕まって。みんなが待ってるからすぐ向かうんだぞっ」
そして剣一たちが待っている合流地点へと身を隠しながら着々と歩みを進めた。




