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黒頭巾の神撃〜Black hood's divine attack〜  作者: 南斗家那乱下
第一章 地上編

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いざ、天空へ

真白の「覚醒」と、それを包み込んだシロミの抱擁。あの劇的な一件を経て、四人の間には奇妙に落ち着いた、けれど確実に以前とは違う新たな日常が始まった。

真白は、あの一件の後みんなで街へ行き、自分を救ってくれたシロミへの感謝を込めて、プレゼントを用意した。


「はい、お姉ちゃん! これ、私からのプレゼントだよっ!」


真白が差し出したのは、光沢のある純白のレザーで作られた、気品すら漂う首輪だった。

繋ぎ目はあえてゆとりを持つ仕様になっており、細く繊細な銀色のチェーンになっている。

動くたびに銀の鈴がチリンと可憐に鳴り響き、中央のプレートには、可愛らしい書体で『真白専用』と、誰の所有物であるかを証明する刻印が深く刻まれている。


「……っ! ありがとう、真白ちゃん! 嬉しいわぁ……! どうかしら、似合っているかしら?」


シロミは躊躇うことなく自らの喉元にそれを巻く。鏡を見るまでもなく、その表情は歓喜に満ち溢れている。


「うん、凄く似合ってるよっ! 世界で一番可愛いお姉ちゃんだねっ!」


「……まぁ、真白のことはシロミがいるから大丈夫だろう。あの暴走を止められるのは、あいつだけみたいだしな。……頼んだぞ、シロミ」


剣一は、シロミの首に巻かれた「感謝の証」を直視しないようにしながら、遠い目で呟いた。


「そうね。……シロミにしかできない教育もあるみたいだし、二人が幸せなら……それでいいんじゃない?」


アリスもまた、引き攣った笑みを浮かべながらも、二人の間に流れる「完成された空気」を尊重することに決めたようだ。


「ええ、わかったわ。任せてちょうだい。……真白ちゃん、何かあったらすぐにお姉ちゃんに言うのよ?」


シロミは誇らしげに首輪の鈴を鳴らし、真白の前に跪く。その瞳には、もはや迷いも恥じらいもなく、ただ愛する妹への絶対的な忠誠心だけが宿っていた。


「うん! わかったっ! ……じゃあ、お姉ちゃん。……まずは、ホッペすりすりできる……?」


その声は鈴の音のように愛らしく、けれど抗いようのない「主人」としての凛とした響きを帯びていた。


「……は、はひっ!喜んでぇっ!」


シロミは喉元の純白の首輪を誇らしげに鳴らし、四つん這いのまま真白の膝元へと擦り寄る。

銀の鎖がチリンと鳴り、適度な重みを持ってシロミの首を引く。その微かな拘束感が、彼女にとっては至高の愛の証だった。

シロミは真白の柔らかな頬に、自分の頬をそっと、けれど熱烈に押し当てた。


「ああぁ……真白ちゃんの匂い……。すりすり……すりすり……。幸せすぎて、私……このまま溶けて消えてしまいそうだわぁ……っ!」


「ふふ、お姉ちゃん、くすぐったいよっ。……でも、すごく温かいね」


真白は満足げに目を細め、シロミの頭を優しく撫でる。

その光景は、もはや「姉妹の団欒」という言葉では片付けられない、完成された飼い主と愛犬のそれであった。


「えへへー。よくできましたっ! ……はい、ご褒美にホッペにちゅっ!」


真白が屈み込み、シロミの火照った頬にそっと唇を寄せる。


「 ダメよぉ、真白ちゃん……っ! みんなの前で、そんな……っ! あぁ……意識が飛んじゃうわぁっ!!」


シロミは顔を真っ赤に染め、悦びのあまりその場にごろりと転がって悶絶する。その様子は、誰が見ても「最高に幸せな姉」の姿だった。


「……なぁ、アリス。真白は、いつからあんな教育の才能に目覚めたんだ?」


「……聞かないで。あたしも今、必死に『これは高度なスキンシップなんだ』って自分に言い聞かせてるところだから……」


遠くで見守る剣一とアリスの呟きも虚しく、リビングには鈴の音と、シロミの蕩けたような吐息が夕食の匂いと共に穏やかに充満していった。


剣一とアリスの「ひたむきな純愛」、そして真白とシロミの「魂ごと預け合う支配と依存」。

それぞれの形は違えど、互いの想いが深く、分かちがたく絡み合ったことで、四人の絆はもはや揺るぎない確信へと変わっていた。誰一人として欠けることは許されない。その執着に近いほどの深い愛こそが、彼らが手にした最強の武器となったのだ。

あの一件から一ヶ月。

血の滲むような修行と、夜ごと繰り返される絆の再確認。四人は今の自分たちに出来る全てをやり終え、ついに運命の朝を迎える。

シロミの首元には、あの日真白から贈られた純白の首輪が、誇らしげにその白銀の鈴を鳴らしている。


「……行こう。花恋と月矢もきっと首を長くして待っているはずだ。みんなの未来を取り戻すためにも……必ず勝つ」


剣一は拳を強く握りしめた。彼の背負った覚悟が、言葉の一つひとつに消えない熱を宿している。


「うん。……もう、誰も傷つけさせない。神なんて真っ向からぶん殴ってやるからっ!」


アリスは黄金の瞳に不敵な闘志を燃やす。彼女の言葉は、絶望の淵から這い上がってきた者だけが持つ、力強い輝きを放っていた。


「……お姉ちゃんもみんなも今度は私が守るっ。私の大切な人たちに、指一本触れさせない。絶対に負けないっ!」


真白はシロミの隣で、その細い指先に魔力を滲ませながら静かに、けれど苛烈に宣言する。その瞳の奥には、愛する者を守るためなら修羅にさえなるという、昏くも清らかな決意が宿っていた。


「ふふ、みんな頼りにしてるわよ。……一族の誇り、魔族の仇、この手で必ず返させてもらうわっ!」


シロミは首元の純白の首輪にそっと触れ、銀の鈴をチリンと静かに鳴らす。その瞳は、かつてないほど鋭く、復讐と忠誠に燃える魔族の戦士としての輝きを取り戻していた。


四人の想いは今、一つの大きな奔流となり、運命の歯車を強引に回し始める。

彼らの歩む一歩ごとに、大気が震え、世界がその結末を見守るかのように静まり返っていった。

約束の場所まで、あとわずか。

その静寂の先に待つ運命を、四人は真っ直ぐに見据えていた。


約束の地へと足を踏み入れた一行を待っていたのは、虚空を見つめ、背中を向けて佇むカオスの姿だった。その立ち姿からは、底知れない威圧感と、冷徹な狂気が漂っている。


「……来たか。覚悟は出来ているようだな?」


カオスはゆっくりと振り返り、冷酷な笑みを浮かべた。その視線はアリス、真白、シロミを舐めるように通り過ぎ、最後に黒頭巾(ブラックフード)を深く被った剣一に止まる。


「今から天魔石を持った双頭翼竜ツインヘッドワイバーンを二体召喚してやる。……神はお前たちを歓迎しているぞ。特に、その黒頭巾ブラックフードのお前は、随分とお気に召したようだ……。その内に秘めた力、簡単に果ててくれるなよ。……私は先に『天空』で待っている。じゃあな……死ぬなよ」


楽しむような笑い声を残し、カオスは空間に溶け込むように姿を消した。それと同時に、大地を揺るがす咆哮と共に二体の双頭翼竜(ツインヘッドワイバーン)が召喚される。


「……この時を、ずっと待っていた。俺たちが、みんなの未来を取り戻すんだ。みんな、行くぞっ!」


剣一は深くフードを被り直し、戦闘態勢に入る。

召喚された二体の双頭翼竜が、耳を裂くような咆哮を上げながら襲いかかる。その巨躯から放たれる圧倒的な質量に対し、剣一はフードの奥の瞳を鋭く光らせ、短く指示を飛ばした。


「アリス、右の奴は俺たちでやるぞ! 真白、シロミ、左を任せていいか!」


「了解っ! 剣一、背中は預けるからっ!」


「うん! お姉ちゃん、行こうっ! 私たちの力、見せてあげようね!」


「ええ……っ! 真白ちゃんに指一本触れさせないわ!」


四人は二手に分かれ、戦場を左右に引き裂くように駆け出した。

右側の翼竜に対し、アリスが黄金の残像を残すほどの速さで肉薄する。


「はあああぁっ!」


苛烈な連撃が翼竜の鱗を削り、注意を引きつけた瞬間、黒頭巾を翻した剣一が死角から跳躍した。アリスとの阿吽の呼吸。彼女が作ったわずかな隙を、剣一の鋭い一撃が正確に貫く。


「……終わりだ!」


その両手には、二振りの魔剣が逆手に握られていた。信頼という名の刃が、左右から交差するように閃く。右手と左手、それぞれの魔剣が吸い込まれるように双頭翼竜の二つの首へと食い込み、抵抗を許さず、深々と断ち切った。

ボトリ、と巨大な質量が地面に落ちる音と同時に、翼竜の巨躯が光の塵となって霧散していき、二つの光り輝く石がコロンと音を立てて地面に転がった。


一方、左側の翼竜に対峙したシロミは、真白を守るという強い決意を魔力に変え、限界まで高めていた。


「真白ちゃんに指一本触れさせないわっ! 大魔王憑依(サタンフォルム)!!」


鈴の音がチリンと清らかに鳴り、シロミの背に漆黒の翼が広がる。彼女は躊躇なく悪魔デビル稲妻サンダーボルトを放ち、紫黒の雷光で翼竜の動きを封じた。


「ふふ、お姉ちゃん、ありがとう! ……じゃあ、最後は私に任せてね」


真白は太陽のような眩い微笑みを浮かべ、レイピアを天へと掲げた。


「聖霊王アマケシカ、純光(じゅんこう)信愛(しんあい)……! みんなの未来を、光で切り拓くよっ!」


翼竜の頭上に跳んだ真白が白銀しろがね光槍こうそうを発動する。降り注ぐ光の雨は翼竜の巨躯を優しく、けれど力強く貫き、その存在を浄化するように霧散させた。

断末魔すら残さず、二体目の翼竜もまた光の塵となって消滅した。剣一たちの倒した個体と同様に、二つの天魔石がコロンと音を立てて地面に転がる。


「……ここまで、本当に長かったな。さあ、行こうか。俺たちの未来を明るく過ごせるように」


剣一はフードを深く被り直し、静かに、けれど揺るぎない決意を込めて仲間に語りかけた。


「そうね。あたしたちなら、絶対に大丈夫だから」

「うん! お兄ちゃん、みんなで一緒に帰ろうねっ!」

「ええ……。どこまでも、真白ちゃんとお供させてもらうわ」


アリスが力強く頷き、真白は太陽のような笑顔を浮かべ、シロミは首元の鈴を鳴らして深く頭を垂れた。

剣一とアリス、真白とシロミ。

二組のペアがそれぞれの手を固く繋ぎ合い、四つの天魔石を同時に手に取る。その瞬間、石から溢れ出した温かな、けれど圧倒的な輝きがリビングにいた時のような穏やかな空気さえ伴って、四人を優しく包み込んだ。


「……行くぞっ!」


重力から解き放たれた四人は、巨大な光に包まれ、雲を突き抜け、神が座す「天空」へと旅立った。

地上に残されたのは、静まり返った約束の場所と、彼らが歩んできた絆の足跡だけだった。


眩い光が収まると、そこは視界のすべてが白一色に塗り潰された、音のない世界だった。その虚無の中心に、古びた、けれど威圧感を放つ巨大な門が、ぽつんと待ち構えていた。


「……ここが、天空への入り口なのか?」


剣一は魔剣を握りしめて、周囲を警戒しながら呟く。


「これ以外に道なんて何もないし、進むしかないじゃん」


アリスもまた、黄金の瞳に緊張の色を浮かべて頷いた。


「行ってみるか。……みんな、何が起きてもいいように用心しておけよ」


剣一の言葉に、真白とシロミも静かに決意を固める。そして、重厚な門を押し開いて中へと足を踏み入れた瞬間、背後の門は陽炎のように掻き消えた。

同時に、四人の眼前に、想像を絶する驚愕の光景が広がった。

絶句する四人の視線の先には、聖なる神殿など微塵も存在しなかった。

見渡す限り、すべての建物が鉄や銅の鈍い光を放ち、剥き出しの歯車や管がのたうち回る、機械仕掛けの異様な街並み。空を埋め尽くすのは雲ではなく、絶え間なく吐き出される重苦しい蒸気だった。

その最奥に、周囲を圧倒する巨大な「鉄の巨塔」が、天を突くように聳え立っていた。


「……な、なんだこれは……。ここが天空なのか!?」


剣一が絶句するのも無理はなかった。その塔には、整然とした神殿などではなく、無数の鉄の箱が、蜂の巣のように外壁へびっしりと継ぎ接ぎされた、歪な構造体だったからだ。

窓からは鈍い電灯の光が漏れ、剥き出しの階段やリフトが、まるで血管のように塔の表面を這い回っている。


「……お兄ちゃん。あの人たち、なんだか変だよ」


真白が不安げに指差す先、行き交う人々には、人間らしい「感情」の断片すら見当たらなかった。

洗濯物を干す手つきも、店を待つ列も、すべてがゼンマイ仕掛けの人形のように虚ろで、機械的。そこにあるのは平和な笑顔ではなく、ただ「生存」というプログラムをこなすだけの、死んだような静寂だった。


「……笑顔どころか、心さえ削り取られているようね。まるで、この塔を動かすための部品にされているみたい」


アリスが忌々しげに吐き捨てる。

街の至る所に、かつて剣一たちを襲った白いローブの集団が、鋭い鉾を手に、監視の目を光らせながら闊歩している。


「……楽園だなんて、冗談じゃないわ。ここは、意思を奪われた魂を飼い殺すための、巨大な鉄の檻よ」


シロミが首元の鈴を小さく鳴らし、怒りを押し殺すように呟いた。

四人は確信した。あの歪な塔の頂点にこそ、すべてを狂わせた元凶――神が待ち構えているのだと。

これにて第一章完結です。なんとか逃げ切れました。見てくださった方、ありがとうございます。第二章にむけて少しストックを作りたいと思っています。一週間以内には再開しますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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